【番外編】それからのこと…たっちゃんと直哉さん・ときどき速見先輩①

人生なんて本当に分からない。


速見先輩の流産からたっちゃんや速見先輩が退職して早10年以上が過ぎて…私こそが沢山の人に迷惑を掛けて。

秋山先輩は体調を崩して福島に引きあげ、三月さん一家は突然姿を消して、私は重度のうつ病を発症して結局直哉さんとは別れることになった。


そんな絶望のどん底から、たっちゃん(達也さん、今の旦那様)と優君(三月さんと速見先輩の一人息子)が私を引き上げてくれて。


やっと平穏を手に入れた私は、たっちゃんと探偵事務所を盛り立てている…そんな時代。


…でもさ?たっちゃん!私、経理だよね!?



「報告、追跡対象者は、ほぼ同年代と思われる男性と喫茶店アマンドから貴金属店に移動」

達也「追跡担当に質問。追跡対象者は一種の化け物で見た目が20代なんだけど、男性の同年代って見た目?実年齢?」(電話)

「実年齢だよ…細かいなあ!たっちゃん!」

達也「…たっちゃん言うな、所長だ!!」(電話)


私の名は、国見香緒里。私って国見達也探偵事務所の単なる経理なはずなんだけど、何でこんな探偵みたいなことやってるんだろう?


【一時間ほど前】


「た…たたた、たっちゃん~一大事!」

達也「何~?請求書の桁でも間違ってた?」(電話)

「そんなことしないよ!たっちゃん私のこと舐めてるでしょ(怒)」

達也「め、滅相もございません!でも、今日は請求集金で外出中だよね?」(電話)


「うん!それはつつがなく終わったんだけどね、六本木のアマンドで書類整理してたら、速見先輩が男の人と一緒に入ってきた!」


速見先輩、前の会社での私とたっちゃんの一年先輩。清楚な立ち振舞いで「鶴姫」とまで言われた人。私たちの恩人の三月(みつき)さんと未だにラブラブ(もうすぐ中学受験準備に入る息子さんの優くんが、呆れたように言ってる)なはずなんだけど。


達也「あのさあ!速見先輩だって未だにバリバリ働いてるんだからさ~取引先の人じゃないの?」(電話)

「で、でも私服だよ?天然年齢詐称みたいな。何で速見先輩ってあんなに若く見えるのかな~。しかも…何か相手の男性…先輩に…何か馴れ馴れしい感じで嫌だな!」

達也「…香緒里に渡してる電話って、望遠機能が普通じゃないんだけど…写真撮れる?」(電話)


「らじゃ」


達也「…嫌な気配がするな」(電話)

「さすが、写真一発で分かるんだ」

達也「いや、この人…多分速見先輩の大学時代に破局した元婚約者だ」(電話)

「……」

達也「元婚約者同士が、20年近い年月を経て40歳超えて二人きりで会ってるって普通じゃない」(電話)

「あの~それよりさ~、写真一発で、速見先輩の元婚約者だって分かるたっちゃんが怖いんだけど」

達也「……(汗)」(電話)

「速見先輩が三月さんと婚約する前さ~たっちゃんが速見先輩のストーカーやってるって噂があったんだけど…まさか?」


達也「いや…その!」(電話)

「あっ!動き出した。何であの人速見先輩の手を引っ張ってんの?何で先輩振り払わないの!?」

達也「香緒里ちゃん追ってくれ!三月さんに借りを返せるかも!」(電話)


「え~!!」


達也「至急、中田(うちのエージェントさん)を行かせる(「え~なんで!?」「うるせえ、さっさと行け!」)それまで頼む!」(電話)



?「姉(あね)さん」

「ひやっ!…む~む~」

中田「頼みます!叫ばないで!」

「な、中田さん…」

中田「はい!…あとこのうるさいの黙らせて下さい」

達也「中田、てめえ香緒里に触りやがってあとで覚えて…」(電話)


「…たっちゃん、黙って!」

達也「…はい…」(電話)



中田「お二人はお揃いの指輪を見てますね」

「速見先輩、なんであんなに嬉しそうに」

中田「それは、女性にとってはやっぱり指輪って特別では?」

「そういえば、指輪、たっちゃんからは貰ってないなあ」


中田さんは、無言で携帯電話を差し出してきた。


達也「(中田、てめえよけいなことを言うな!)」(電話)

「よけいなことって何?たっちゃ~ん?」



中田「ターゲットが移動を開始しました。追跡します。私の位置がわかるように姉さんの携帯のマップアブリにGPS受信をセットしましたので、後からゆっくり来てください」


「お願いします」


速見先輩たちの追跡を一旦中田さんにお願いした私は、しばらくたっちゃんと電話で話すことにした。


「よっぽど速見先輩が好きだったんだね」

達也「またそれ~?勘弁してよ!」

「だって探偵の今ならともかく、あの頃の速見先輩の元婚約者の顔がわかるなんて相当だよ」

達也「あ~もう、そうです!あの頃の速見先輩が好きでした!」


「うん、知ってた(笑)」

達也「香緒里~(涙)」


「綺麗だったもんね。先輩。確かに端正な容姿なんだけど、それ以上に立ち振舞いが」

達也「そうなんだよな。確かに端正なんだけど、それよりも仕草の一つ一つが艶やかだったんだよね」

「きも!!」

達也「ぐさっ(笑)。それでいて口は悪いくせに優しいわ。妙に陰はあるわ」

「本当に鶴の恩返しの鶴さんみたいだったよね。油断すると山に帰っちゃいそうな」

達也「まあ、三月さんと結婚してコロッと変わっちゃったんだけどね。幸せそうに(笑)」

「ねえ、たっちゃん。あの頃、私のことはどう思ってた?」

達也「面白味の無い日本人形みたいだなっと」

「ひど(笑)」

達也「まあ、それは、俺の勘違いだったんだけどね」


「……」


達也「香緒里の闇が気になって、香緒里がどうなるのか気になってずっと見てた。お前が田仲と結婚しても。そんで見続けてるうちにいつの間にか香緒里が好きになってた」


「うん」


達也「まさか出会って20年近く経って、香緒里とこうなるなんて、あの頃は思いもしなかった」

「!……!」


達也「ち、ちょっと!もう少し何か言ってよ~」

「中田さんから連絡。二人は都ホテルに入っていったって」

達也「!…良くないな…このホテルで地下のバーから客室への連れ込みはセレブの定番だ。俺もそっちに向かう!」



中田「姉さん」


私は中田さんに合流した。たっちゃんももうすぐ合流する。

速見先輩たちは今は、ラウンジの喫茶店。

中田「元婚約者さんは、速見さんをバーに連れていきたいみたいですね。で、うまく躱されていると」

「……」


中田「盗聴器の会話聞きます?」



沙織「たかしさん、私、人前ではお酒…ううん基本飲食はしないの。ごめんなさい」

たかし「え~僕ってそんなに信用なかったんだ」

沙織「信用とかじゃないの…これは誓い」

たかし「君の旦那さんは、そんなに君を縛り付けるんだ」

沙織「それも違うわ。これは私の誓いだから」


「わかった…今日はありがとう」


沙織「いえいえ」

「しかし…沙織は変わらないな」

沙織「何よ!もうすぐ中学生の子供がいるおばさんだよ(笑)」

「全然そうは見えない。あの頃と変わらない」

沙織「……」


「なあ沙織、僕は今でも」



「まずい!」

達也「香緒里!行け!!」


合流したたっちゃんが私の背中を押した!



「速見先輩!」

沙織「か、香緒里!?こんなところでどうしたの!?」

「私は仕事帰りなんですけど、たまたまお見かけして、あの…お声掛け不味かったですか?」

沙織「ううん?あ、この方は、新羽たかしさん。元大学同窓生でね、恥ずかしながら私の元婚約者なんだ。普段は大阪にお住まいなんだけど、たまたまお会いして奥様へのお土産を一緒に見て欲しいって」

「ごめんなさいお邪魔して」

沙織「ううん、もう終わったから」


「じや…ちょっと時間あります?実は…優くんがこの間事務所に来て」

沙織「優がどうしたの?」

「中学受験…したくないと」

沙織「な!ちょっと香緒里!詳しく聞かせなさいよ!」

「で…でも?」


沙織「たかしさん、今日はありがとう」

たかし「う…うん」

沙織「元気でね?また縁があったら会いましょう。奥様とお幸せにね」

たかし「あ…あ…」


沙織「ほら!香緒里!さっさと行くわよ!」





【達也サイト】


「あてが外れましたかね?新羽さん」

たかし「何だね君は!?」

「悪者ですかね(笑)あなたには」



「新羽さん、奥様へのお土産ですか?つい先頃、DVが原因で離婚されてますよね?」

たかし「……」

「速見先輩をバーに連れていって、そのまま予約している上の客室に連れていく…そんな目論見でしたかね?」

たかし「……」

「あ~、でも速見先輩がお酒強いのは良くご存知ですよね?」

たかし「……」


「…薬でも使う気でした?」


たかし「何を言っている!失礼な!警察を呼ぶぞ!」

「…あんたの会社が、悪化した業績の穴埋めに、組織と組んで薬の横流しをしている証拠は上がってるんだよ。あんたのバッグひっくり返してみるか?」

たかし「……」


「な~んてね(笑)」

たかし「……」


「行けよ…さっさと。もう二度と速見先輩には近づくな!」

たかし「あ…ああ」

「さもないと…今度は俺みたいな小鬼じゃない…竜の逆鱗に触れて喰われるぞ!」



「さて…あの男は放っておくにはちょっとヤバめだな…三月さんに報告しない訳にはいかないな。でも、そうすると…速見先輩、元婚約者との密会?が三月さんにバレてきっと強烈な折檻セッ⚪スで虐められる羽目になるな…面白い(笑)」


三月さんの前でアワアワ言ってる速見先輩が思い浮かぶ。


「まずは香緒里に合流して、一緒に速見先輩をからかってくるか!!」


速見先輩に元婚約者没落のよけいな情報を与えて悲しませないようにしつつ、三月さんにいかにしっかり伝えるか、俺は思案しながら香緒里たちの元に向かった。

まあ…香緒里も慣れない仕事頑張って貰ったから労わないとな…ありがとうな香緒里!



中田「ところで僕の存在…忘れてませんか!?所長~(涙)!!」


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