【第三部 ⑧達也編】 …失踪した桂木家

「秋山先輩…」

秋男「おう!久しぶりだな!達也。元気か?」

「俺は何とか…」


【福島の田舎町】


数ヶ月ぶりだ。秋山先輩はいよいよ身体の関係で会社を辞めて母方の実家のある福島に戻った。そこで祖父の代からのアパート管理や株で生計を立てているという。


「三月さんたちが見つからないんです」

秋男「…うん」

「三月さんだけじゃない…速見先輩も優くんも」

秋男「……」

「二人とも会社も辞めてしまって…優くんの保育園も…」

秋男「…達也」

「秋山先輩は知ってるんでしょ!?三月さんたちの行方を…教えてください!」

秋男「…なぜだ」

「香緒里ちゃんが精神病院に入院したって…田仲から…」


三月さんの家から俺の家まで逃げるように帰った俺と香緒里ちゃん。

翌日から香緒里ちゃんは事務所の仕事に戻ってくれたけど…もう二度と俺に抱かれることは無くなって…いつしか仕事以外の会話も無くなって…


その日々にあまりにも辛くなった俺は…彼女との肉体関係を隠して彼女を田仲の元に返したんだ。


…そこで速見先輩にお礼の電話をしようとした田仲が異変に気がついた。

もう、三月さんにも速見先輩にも…俺たちの知ってる連絡先では通じなくて。


…香緒里ちゃんは田仲にも何もしゃべらなくなって、もちろん身体の関係なんか持たせてくれるはずもなく…


つい先頃…香緒里ちゃんは重度のうつ病で入院した。


「俺のやったことは、そんなに…そんなに三月さんを傷付けたんですか?」

秋男「…お前じゃない。むしろ三月はお前を応援しようとしていただろ?」

「じゃあ…なんで!?」

秋男「香緒里ちゃんだよ」

「……」


秋男「三月は…超人じゃない。お前らは頼りすぎた」

「どういう…ことですか?」

秋男「『ひとみさん事件』…田仲か速見から聞いたことは無いか?」

「…名前だけ…詳細は誰も知らなかったですよ?」

秋男「詳細を語る積もりはない。ただ結果的にあいつは誰よりも女性に臆病になった。あいつは女性を信じることが出来なくなって…お前らの知らないところで本当に色々あったんだ。あいつがお前らの知ってるあいつなのは速見がそばにいるからだ。…じゃなきゃ今頃…あいつはただの女の敵だ!!」


「三月さん…が?」


秋男「…結果的にお前らは三月のトラウマを一番弱いところを刺激した」


「……」


秋男「今は速見が三月にピッタリ寄り添って『自分は絶対に裏切らないから』と三月に一生懸命吹込んでいる。速見は…あいつ自身のトラウマで…たとえレイプ被害に有ったって恐らくは三月の元に真っ直ぐ帰りつくだろう女だ。…三月もだいぶ元に戻っていってる」


「……」


秋男「速見は後悔していた。自分の選択を…香緒里ちゃんたちを安易に別居に至らせたことを…でも今…あいつは三月で手一杯なんだ。あいつは三月を第一にして割り切ることを選んだ」


「速見…先輩」


秋男「だから!お前らに三月たちの行方は教えない。俺は速見の意志を尊重する。はっきり言う!俺には…俺にはお前らよりも…あいつらの方が大事だ!」


「でも…でも!このままじや香緒里ちゃんは…きっと回復しないんです!」


秋男「それはお前が!田仲が!!責任持って何とかする話だ。速見は一生掛けて三月を支えると言った。…お前はどうするんだ!?」


「……」


秋男「香緒里ちゃんの中の三月の影を追い出すんじゃないのか?お前が!!」



…そうして、三月さんたちは俺たちの前から忽然と消えて…うつ病の香緒里ちゃんと、何も出来ない田仲と俺が…取り残されたんだ。

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