【第三部 ⑦達也編】 …三月さんの…豹変
【四週目、三月さんの自宅への道】
つ、疲れた…本当にあの理不尽王女には絶対仕返しの嫌がらせを仕掛けてやる…と愚痴りたくなるくらいは仕事終了間際の事務処理には手を焼いた。香緒里ちゃんのおかげで最近は事務処理が19時以降にずれ込むなんてなかったのに…
香緒里ちゃんが来るまで、21時前に仕事が終わるなんて珍しかった。(それだけ仕事が途切れないくらいは業界内で信用がある…と自画自賛。)
香緒里ちゃんがほんの勤務数日目から、魔法のようにてきぱきと18時には事務処理終わらせてくれるようになって、所員がみんな感動の眼差しを香緒里ちゃんに向けて、俺こそが感激して思わず言ったんだ。
「香緒里ちゃん、夕飯奢るよ!もうなんでも奢っちゃう!」
その日から、一緒に夕飯を食べるようになって、初めはぎこちなかった香緒里ちゃんも、昔のように俺を「たっちゃん!」って呼びはじめて。
…懐かしくて嬉しくて…俺は…間違えた。俺は…香緒里ちゃんに…仕掛けた。
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半分仕事を投げ出して、所員たちの色々と恨みがましい視線に見送られて、何とか20時に到着した俺を迎えてくれたのは…
「久しぶりですね!この三人で飲むの」
秋男「俺は飲まないよ!絶対!」
俺が唯一尊敬する二人、秋山先輩と三月さん。
三月「まあまあ、達也。お疲れ~。ほら秋男、乾杯~」
秋男「バカやろう!本当に死ぬわ!」
「マジな話、大丈夫っすか?」
秋男「大丈夫な訳無いだろ?大腸まるまる無くなったんだぜ?まあ、香緒里が俺の意向を汲んでおつまみ作ってくれたから、食べはするけど」
テーブルには既に数々の料理が…
三月「本当、こればっかりは沙織じゃこうはいかないよな~」
秋男「速見じゃ殺されかねん…」
あはは…速見先輩最大のウィークポイント『メシマズ』…三月さんにまで言われちゃね。
「…香緒里ちゃんは?」
三月「悪い!うちのくそガキが気に入っちゃって離さない。でも…呼んでこようか?」
「いや…いいっすよ。この三人の飲み会…良いじゃないっすか!」
本当にこの三人なら楽しい。相談もしやすい。この人たちの心からのアドバイスなら、俺は素直に頷ける。
…と、思ってたんだけど(汗)。
―
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三月「いや~、俺は達也に一票!達也で良いじゃん。いっそ田仲から香緒里ちゃんを分捕れ~」
秋男「黙れ三月!この酔っぱらい!本当に土壇場以外はボンクラだな。ち⚪ちんで物事考えやがって。田仲と香緒里の別居を勧めた速見が死ぬほど気にするだろうが!」
三月「手順を踏めば良いんだよ。しっかし相変わらず辛辣な突っ込みだな~ありがとう~…なんて、てめ~ほんとふざけんなよ!!」
…三月さんが酒弱いの忘れてた(汗)。
三月「だいたいさ~、田仲のバカは、最初から『三月さんに香緒里を満足させて貰って、普段は香緒里を返して貰う』だったんだせ~。それをさりげなく断ったら、香緒里ちゃん縛るわア⚪ル攻めとか…アナ⚪攻めとか俺だって…俺だって沙織にやったらぶち切れられて大変…」
「…やったんすか?」
三月「やらしてくれる訳ないだろ!仕掛けただけでめちゃくちゃ怒られたわ!!」
「そりゃ、速見先輩相手じゃ自殺行為…」
三月「その点、達也はそんな気は全くないんだろ~?俺に抱かせる気なんか微塵も」
「はい、…三月さん!!」
俺は今から三月さんに仁義を切る。順番逆になっちゃったけど、三月さんならきっと…
三月「ん~?」
「お願いがあるんです」
三月「ん~~?なんだい?」
「…もう、香緒里ちゃんを抱かないでください」
三月「……」
秋男「…おまえ…まさか香緒里を抱いたのか!?」
「…はい」
秋男「…ばかやろうが…」
三月「…そっか~手を出しちゃったんだ…香緒里ちゃんからは聞いてないな~、…そっか」
「…三月さん?」
三月さんが、ん~と伸びをして言った。
三月「…分かったよ。お前がそう言うなら香緒里ちゃんはこれ以上抱かないよ」
「三月さんありが…」
三月「ただし…もうここまでだな」
穏やかな三月さんの表情が一瞬無表情になったのを俺は見逃さなかった。
「…それってどういう…」
秋男「あ~もう!酔っぱらいは一旦退避!少しベッドで寝てこい!」
三月「そうする~後はよろしく相棒~」
「三月さん!…あの!」
三月「抱かないよ~。うちで香緒里ちゃん抱いたら沙織に殺される~。…お休み」
そのまま振り返りもせず、二階の寝室に向かう三月さん…なんだ?ものすごい違和感!?
「…三月さん?」
秋男「何回…香緒里を抱いた?」
「ここ3日毎日…」
秋男「最初は大変だったろ」
「え?」
秋男「用意周到にアプローチして、完璧に墜としたと思って…それでもいざベッドって時にびっくりするくらい拒否られただろう」
「な…なんで知って」
最初はレイプに近くなってしまった。突然跳ね起きた香緒里ちゃんが泣きながら逃げ惑って。
ちっ、っと秋山先輩が舌打ちする。
秋男「速見のバカが!あいつは自分こそ身体に刻み込まれているはずなのに。いくら緊急事態とは言え、香緒里の精神安定の為に三月に抱かせるなんて下策も下策だ!!」
「な…にを言って」
秋男「田仲は昔の屑彼氏の幻想に脅かされたが…達也!お前がこれから相手にするのは、昔の屑彼氏どころじゃない!三月の影だ!!」
―
―
優「パパ~なんで~?」
二階の寝室から、優くんと香緒里ちゃんの声がする。
三月「あ~、優。香緒里ちゃんお迎えが来ちゃってさ~」
香緒里「み…三月さん?どうして?これから10日間はここでお二人のお世話を」
三月「あ~、達也から聞いたんだけどさ、もう事務所が香緒里ちゃんいないと回らないみたいなんだ~、だからこっちは良いから」
「三月さん!?何を!?」
香緒里「そ…それにしたって、明日からでも…今日は三月さんと優くんと一緒に」
三月「ちっ、…やっぱりはっきり言わないと駄目か!!」
秋男「三月!よせ!!」
三月「…香緒里ちゃん、達也と付き合いはじめたんでしょ?」
香緒里「あ…」
三月「達也に抱かれたんでしょ?」
香緒里「あ!…あ!!」
三月「しかもそれを俺や田仲に言う気は無いんでしょ?」
三月さんの無表情な笑い顔。香緒里ちゃんが目を大きく見開いて驚愕の表情を。
三月「そう言うのってさ、巷では俺は香緒里ちゃんを達也に…」
秋男「やめろ!三月!!」
三月「…寝取られたって言うんだよね」
ガタガタと震える香緒里ちゃんにニッコリ笑う三月さん。
三月「ま…俺は君の旦那でも何でもないんだけどね。俺…駄目なんだわ…こういうの。取るのも…取られるのも」
香緒里「…ま!」
三月「優、寝るぞ~、…秋男…悪いな…」
香緒里「待って!三月さん…聞いて!!」
もう…三月さんは香緒里ちゃんなんかいないかのように寝室に戻っていった。
―
秋男「達也…香緒里ちゃん連れて帰れ」
「なんで?…俺、三月さんを敵に回した?」
秋男「香緒里ちゃんも早く帰る準備を!」
香緒里「あ…あ、せめてテーブルの片付けを…」
そう言う香緒里ちゃんの手は震えて、食器をガタガタと揺らす。
秋男「良いから!…二人はここにいちゃいけない」
―
―
秋男「あ~速見か、出張中に悪いな。いや三月も優くんも元気なんだけどさ…三月がな…いや!怪我とかした訳じゃないんだよ、でも…何とかすぐに帰ってこれないかな?うん…はっきり言えば非常事態だ…」
もう秋山先輩は俺たちなんかいないかのように速見先輩と電話で話しはじめたんだ。
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