【第三部 ⑤達也編】 …俺が香緒里ちゃんを好きになったのは①

【3週目週末、国見達也探偵事務所】


沙織「達也ごめ~ん。電話でも話したけどさ…明日から10日間、香緒里貸してね~」

「…本当に理不尽王女ですね!?香緒里ちゃん仕事に慣れてきて、一気に事務所の中核戦力になりつつあるんですけど…それを'『また家政婦で貸してね~』ですか!」

沙織「本当ごめ~んって言いたいけど…ちょ~っと聞かせて欲しいなっ!」

「し…しまった…口がすべった」


沙織「理不尽王女って何?」


速見先輩の超絶可愛い顔の…目が笑っていない…


「……(汗)」

沙織「言い出しっぺ…お前?」


ブンブンブンそれだけは断固!


沙織「じゃ…誰?」

「…(ダラダラダラ汗)」

沙織「…ふ~ん?達也…首をちょっと振るだけで良いよ。言い出しっぺはみっちゃん?」


「…(ダラダラダラダラ汗)」


沙織「うん!よく分かった!ありが…」

「待って待って!俺たちは理不尽女王だって言ったんですよ!そしたら三月さんが『あいつは王女だ~』って」

沙織「…語るに落ちるとは…このことだなあ~達也!!」


…本当、この人には敵わない。華奢な女性で、仕事のプレゼンなんかとは別人なほど普段は隙だらけな言動なんだけど。


この人の笑顔には本当に救われてきた。

だって…この人は俺の目の前でどんどん変わっていった…まるで…蛹が蝶に変わるみたいに…

パートナーに恵まれると…人はこんなに幸せになれるんだって…俺に身をもって教えてくれたんだ。


…だって俺じゃ誰も幸せに出来ない。


女性の心の奥の傷には敏感なのに…生来の性分ですぐ調べちゃうのに。

それを自分の欲望にしか使って来なかった俺には。


速見先輩…新卒で入社して初めて会ったときから気に入った。

速見先輩の大学時代のこと、年配の男性との不倫話も婚約者との破談も全部調べた。それくらいあの頃の憂えている速見先輩は俺には魅力的だった。


俺が入社した時には既に確立していた速見先輩の愛称「鶴姫」。速見先輩の端正な容姿はその名にふさわしい孤高の輝きに満ちていた。


何度妄想の中で先輩を犯しただろう。

速見先輩は、当時の俺には最高の獲物に見えた。


秋男「よう!ちょっと訳ありでさ~、速見の過去を調べているんだ。速見の婚約破談のあたりとその前の既婚者との交際のあたり、極秘で調べてくれよ。お前なら簡単だろ?」

突然秋山先輩から声が掛かったのは…妄想をいよいよ現実にするべく、速見先輩を入手した情報で脅して犯して…その行為写真を手に入れようと画策しているときだった。


秋男「…あ、もちろん情報の守秘義務は守ってくれよ?速見にもな!」


秋山先輩には本当に感謝しているんだ。あの人がいなかったら…きっと俺は止まらなかった。そして…実行していたら…後に続くこんな仲間たちとのふれあいなんか一生出来なかっただろう。


そして…三月さんは俺の目の前で鮮やかに速見先輩をかっさらっていった。


三月さん…普段はお人好し丸出しの穏やかなだけに見える…でも交渉事ではキレッキレの別人のような姿を見せる、味方にするとこれ以上無い切り札。…そして不思議なことに俺と同じ側の匂いを垣間見せる人。


俺が唯一…何を言われても素直に従っちゃう人。




「…しっかし、これって速見先輩明日から10日間の出張ってことでしょ?三月さんがよく許しましたね」


沙織「…許してないわよ。毎日強烈な折檻エッチ続きで寝不足…ねえ達也ぁ…今日はみっちゃん飲みに連れ出して酔い潰してよ~」


また来たよ…この理不尽王女!


「…速見先輩、明日出発なんでしょ?三月さんが応じる訳無いじゃないですか。…この際ですから先輩が徹底的に三月さんの折檻セッ⚪スを受けること期待してます」


こ、こいつ~と、顔を引き攣らせる先輩。


沙織「だ、大丈夫よ、達也が『香緒里の件で相談がある』って言えば、みっちゃんは必ず応じるよ」

「!!」

沙織「相談あるんでしよ?」

「先輩!俺は…」

沙織「あるんでしょ?」

「…はい」

沙織「みっちゃんきっと待ってる…達也の相談」



【達也の回想…過去の課の定例飲み会】


沙織「秋山先輩の紹介のあの人、半年経つのにキスもしてくれないんです。私って男の人からするとそんなに魅力が無いんですか!?」

秋男「…少なくとも俺は金を積まれたってお前に手は出さんわ!」

沙織「先輩酷いよ…もう知らない!(涙)」


今、思い出すと、速見先輩が俺たちに「まだ内緒だよ~」とか嬉しそうに婚約を報告してくる約2ヶ月ほど前、速見先輩は課の定例飲み会で、秋山先輩に絡み酒をかましていた。


もっとも、速見先輩の場合、顔が赤くなるのとは裏腹に超が付くほどのウワバミなことは課員にはバレバレだったので、これが結構真面目な相談なのは分かっていて。


「(マジかよ。三月さんって、あの速見先輩前にして半年もプラトニックやっちゃうくらいヘタレなんだ。もったいね~。俺だったらあの可愛い唇にチンポぶっこんで…)」

?「また速見先輩見てる」

「え?」


その時、隣に寄ってきたのが、


?「そんなに速見先輩のことが好きなんだ…たっちゃん」


いたずらっぽく笑う香緒里ちゃんだった。

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