【第三部 ④】 …何かが崩れそうな日々

【第二週、某ラブホテル】


香緒里「三月さん…恥ずかしいです!」


逢瀬のあと、香緒里ちゃんがシーツで顔を隠して、イヤイヤを繰り返す。今日は、香緒里ちゃんの開発されきっていないG⚪⚪ットとク⚪ト⚪スを徹底して攻めてみた…俗に言うところの複合攻め。

香緒里ちゃんは可愛いく逝きまくった。


「どう?こんな感じなら、直哉にもやって貰えるでしょ?」

香緒里「…やって貰えるかもしれませんが、あたしから伝えるのですか?」

「うん…今まで以上に感じるところを伝えあって…充実した時間を作らないと。縄とかいじっている場合じゃないっつうの!」

香緒里「ふふっ…」

「…どうしたの?」

香緒里「三月さんって…いつも直哉さんに私を返したあとのことを考えているんですね」

「そりゃ…そうだよ。君は直哉のものだ」


香緒里ちゃんが潤んだ瞳で顔を近づけてくる。俺たちは柔らかいキスを。


「…香緒里ちゃん?」

香緒里「今は直哉さんのことは言わないでください…三月さん…あなたが好きです!」

「……」

香緒里「…と、あたしが言ったら…三月さんは…どうしますか?」


直後に「…冗談ですよ!」と笑う香緒里ちゃん…でも…それは…俺が…俺たちが最も懸念していた…情の発露。

日常のバランスは既に崩れつつある…そんな予感が沸き上がってくるのを押さえることは出来なかった。


【第三週、秋男の病室】


沙織「田仲と香緒里ちゃん、メールでやり取りはじめたって」


良かった~って、沙織は可愛い笑顔を俺と秋男に向けてくる。


沙織「上手く落ち着いて欲しいなあ…私とたかしさんの時は…私逃げることしか出来なかったから…」


沙織の元婚約者が、沙織の元彼(不倫相手)のセックステクニックに嫉妬し、沙織に酷いことをしようとして婚約破談になったことを…俺と秋男は知っている。


秋男「なんだなんだ、速見は三月捨てて元サヤに戻りたい…」

沙織「そんなこと、一言も言って無いですよね!!」

「…聞き捨てならんな」

沙織「み…みみみみっちゃん!…私はみっちゃんに一途だよ!信じて!!」

「これは、今日の夜…沙織の身体に根掘り葉掘り尋問するしか無いなあ」


「ひぃ~っ」と沙織が声にならない悲鳴をあげて


沙織「秋山先輩…責任取ってください!」


何で~と、今度は秋男の悲鳴。


沙織「病み上がりか知りませんが、今夜はみっちゃんを連れ出して酔い潰してください。命を掛けて!」

秋男「本当に命が無くなるわ!」

「…まあ、それは置いておいて」


置いておくな!と騒ぐ二人。


「このままこの状況が続くと達也がなあ」

秋男「ああ」

沙織「え?あいつの事務所ってそんな窮境きゅうきゅうなの?」

「違うって」

秋男「お前…腹心の部下だったのに気がついてなかったの?」


沙織「え?」


三月・秋男「達也は香緒里ちゃんが好きだったんだよ」


沙織の可愛い顔が驚愕に染まる。


沙織「…うそ!あいつ私のこと好きだったんじゃ」

「…お前、その自覚はあったのね…」


なんかアメと鞭で、達也のこと相当にこき使って来たんでしょ?


秋男「…最初はそうだったのは俺も知ってるけど…結構早い時点で香緒里に鞍替えされてるの!」

沙織「ぐぬぬ」

「お前、結婚しちゃったんだから仕方なくない?」


国見達也36歳、独身…国見達也探偵事務所の所長として部下を引っ張る。

明るくて飄々としていて…実は度胸も満点。機転も利く。

あいつと知り合ってすぐに思った…「頼りがいのあるやつだなあ」と。

沙織にとっても長い間ツーマンセルを組んだ腹心の部下で「あいつ使えるんだよ?まるでミニみっちゃん!」とか言っていたけど…こと恋愛経験については、初恋相手には死別されるわ…その後も九州やらウィーンやらに逃げられるわ…ストーカーに巻き込まれて刺されるわ…なんかろくなことになっていない俺は、達也の足元にも及ばないのだろうと思っている。


多分、恐ろしく先読みの利くあいつだけは…大学時代の香緒里ちゃんに何かがあったことを薄々気がついていて…香緒里ちゃんにぴったり寄り添う田仲を横からずっと応援していたんだ。自分の気持ちを押し殺して。


「正直に言うと…あいつが本気で香緒里ちゃんに向かうなら…俺は止められない…と言うか止めるべきかもわからない…」

沙織「で…でもさ…達也はずっとさ…誰よりも田仲たちを応援して…」

秋男「だからこそさ…今、田仲に一番憤っているのも達也な訳で…速見、だいたいだな、あのモテる達也が何で未だに独身なのか…お前に分かるか?」

沙織「……」


今、達也は仕事帰りに、毎日、香緒里ちゃんを誘って夕食に行っていると、達也の事務所のやつから聞いている。


俺たちの誰よりも恋愛経験の高い達也が本気になったら、端からは絶対止められないだろう。

そして、セッ⚪ス経験はともかく…恋愛経験はうぶな香緒里ちゃんが、本気の達也相手ではあっさり絡め取られるだろうことは容易に想像がついた。


沙織「で…でもさ…達也なら…」

秋男「…ああ」

「そうだな…」


頭の良い達也なら、それ以上踏み込むことは…そうそう無いだろう。

俺たちは無理にでもそう思おうとしていた。


※次回から、「俺」が三月から達也に変わります。



―(おまけ話⑤)―


沙織「…ところでさ…みっちゃん?…実乃里さん、ご懐妊だそうで」

「ぶ~~~~っ!」

沙織「…どうするつもりよ!」

秋男「…速見、本件は三月に何かをしてもらう積もりは無い。もちろんお前にもな」

「いや…認知はするつもりだよ」

秋男「それについても秋山家から、二人に相談がある。聞いてくれるか?」

沙織「もちろん聞きますけど…実はあたしからも秋山先輩とみっちゃん、あとここに居ないけど実乃里さんに、その子のことで相談があります」


「…沙織?」


沙織「その子は…うちで育てたいと…そう思ってます」

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