【第三部 ③】 搾り取ってよ…奥さん!

【某ラブホテル】


香緒里「本当に色々酷いです!」


一戦を終えた俺たち。香緒里ちゃんが俺の腕の中で恨み言を呟く。


「な…何がお気に召さなかったので」

香緒里「本当に色々です!」


香緒里ちゃんが半泣きの可愛い瞳で、俺をキッとにらみつける。


香緒里「まず…長いです!」

「えっ?…もしかして痛くなっちゃった?」

香緒里「い…痛くはないです。と言うか……痛いかどうかなんて分かりません!」


香緒里ちゃんはやけくそのように大声を上げはじめて。


香緒里「あそこから身体中に電気流されたみたいになって…ずっと気が狂いそうだったんです!!」

「そ…それって気持ち良かったんじゃないの?」


香緒里ちゃんの目が殺意を帯びるかの如く厳しくなって。


香緒里「…私、途中からずっと…許して・助けて!って縋り付いてましたよね?」

「うん…俺にはもっともっとやってとしか聞こえなかった…」

香緒里「………」

「………」

香緒里「…三月さんって…速見先輩にも毎回こんな感じなのですか?」

「う~ん、もうちょっと…これの五割増しくらい強めかな?」

香緒里「そ…そんなに先輩を苛めてるんですか!?」

「違うよ?」


俺はにっこりと言った。それだけは断固。


「苛めてるんじゃないよ。沙織を愛してるんだ…全身全霊でね」

香緒里「………」


ふと携帯電話が震えた気がして画面を見ると、沙織から次の指令が入っていた。


曰く、

・香緒里の当座のホテルを確保したから送ってあげてね。

・お泊まりは、嫌だかんね!


「………」

香緒里「………」

「…い…行こっか?」

香緒里「…はい」



ぶっちゃけもう一度やっちゃったらもうお泊り覚悟っていう時間になってはいた。

「(…お泊まりは、嫌だかんね!…か)」

…俺も香緒里ちゃんも沙織に逆らう気にはなれず、それからテキバキと用意を整えた俺は、香緒里ちゃんを車でホテルに送っていった。




【深夜の自宅】


「(は、腹が減ったよ…)」


実は何も食ってない…

気がつけば、うちの前に着いたのは日が変わるちょっと前。

当然真っ暗なんだけど、何か食べようとキッチンの電気をつけて、リビングのソファーにひとり沙織が佇んでいることに気がついた。


「た…ただいま…」

沙織「……」

「優は寝た?」

沙織「…寝たわよ…何時だと思ってるの?」


沙織はソファーに腰掛けたままこっちを向いてくれない。

やれやれ…俺は隣に座って沙織の長い髪に手を伸ばし…その瞬間、沙織がこちらを向いたんだ。

…長いまつげにいっぱい涙を貯めて…


「お前なあ…そんなに嫌だったなら…」


俺の言葉を遮るように沙織が抱きついてくる。


沙織「…だって…」

「ばかだな」

沙織「…ばかじゃないもん」

「そうだな…ばかじゃない…お前…俺に似てきちゃったな」

沙織「…何が?」

「土壇場で一気に頭が回るところ」

沙織「……」


これが一番良いって考えちゃったんだろ?…感情そっちのけでさ。


沙織「みっちゃんが香緒里と出て行ったあと…死ぬほど後悔した!…何も出来ずに悶々としていて…気がついたらメール打っちゃった」

「…お泊まりは嫌だかんね…か?」

沙織「…バカ」


沙織は可愛い顔をぐりぐりと俺の胸に押し付けてくる。本当にこいつは…


「なあ…」

沙織「…ん?」

「…やろっか?」

沙織「…出来るの?」


いっぱいいっぱいやってきちゃったんでしょ?と…沙織。


「どうだろうな…でもさ、…搾り取ってよ…奥さん!」


涙目で呆けていた沙織の顔がパアッと笑顔になった。


沙織「うん!覚悟してね!みっちゃん?」



翌朝……うん、お互い有給休暇取っておいて良かった~と笑い合えるくらいには太陽が黄色に見える朝を迎えた俺たち。


優を保育園に送る際に久しぶりに二人で行ったんだけど、昨日の夜とは別人のように明るくなった嫁の可愛い顔を見て、寝不足になっても昨日沙織を愛して良かったと思う。



沙織は今日の午後、秋男をお供に田仲と直接対決となった。

場所は秋男の入院する病院からほど近いホテルのラウンジ喫茶。

万が一の修羅場に備えて、病み上がりの秋男のバックアップで達也に少し離れたところでの待機を依頼した。


沙織「みっちゃん大丈夫だよ!任せて!」


と笑う沙織と別れて、俺は香緒里ちゃんとワンルーム探し。

達也の事務所から徒歩20分くらいの場所で折り合いを付けられた頃には、15時を回っていた。

そこから知り合いのリフォーム業者に格安レンタルでお願いした新築マンションモデルルーム用の家具備品類をワンルームに運んで貰って、ベッド用の布団と既製品カーテンを購入して、香緒里ちゃんの寝床の確保は完了した。



沙織「大丈夫!田仲も納得して帰ったよ…しばらくは別居生活受け入れるって」


と沙織は笑うんだけとさ…

秋男と達也の顔がえらい引き攣っててさ…


秋男「三月と普通に暮らしているから丸くなったと思ったのに…今回はよ~く分かったよ。結局、速見は何年経っても速見のままなんだよ。三月…お前あれとよく一緒に暮らしていられるな…心から尊敬するわ」

達也「…今のうちに言っておきますけどね…三月さんと速見先輩が決裂したら…俺は躊躇無く速見先輩に付きますんで!俺…負ける喧嘩はしない主義なんで!!」

「……」


秋男くん…沙織紹介してもらうとき「遊びなら止めろ!結婚前提で考えてくれ」って…確かに言ったよな!一緒に暮らしているの尊敬してるって…どうなるって想像していたんだよ!

てか…沙織のやつ…どんだけ田仲に言ったんだ!?



ともかく、沙織曰く、


□お互いの頭が冷えるまで、田仲と香緒里ちゃんは期限を設けない別居生活にする。

□落ち着いたら、お互いメールや電話から接触をはじめる。

□香緒里ちゃんは達也のところで事務員として働く(田仲には伝えず)。

□一週間に一回、俺と香緒里ちゃんのセッ〇ス時間を作る(…まじかよ)。但し我が家と香緒里ちゃんの家ではH禁止。

□俺が香緒里ちゃんとセックスする前と従後、必ず沙織に内容を報告する。

□沙織の出張の際は、香緒里ちゃんが我が家に来て家事をする。泊まっても良いけどH無し。


と…まあそんな感じで香緒里ちゃんの新生活は始まることになったんだ。

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