第5話 私が続けてること

 趣味なんて大げさなことじゃないけれど、絵を描くのが好きです。長い間、毎日何か描き続けてます。

 きれいなものを描くのが好き。近所に咲いてるお花や小鳥たち、公園の風景、描きたいものはないかなと探しながら歩いていると、そうでないときに比べて多くのことに気づいて、描きたいものも見つけることができたりする。


 季節の旬を描くのが好き。今の季節はあじさいの紫色がきれい、バラもよく見ると一輪一輪違う美しさがあってみんな描きたくなります。新緑のみずみずしさも今の季節だけね。小鳥やチョウチョをもっと描きたいけど、彼らはじっとしててくれないから難しいわ。


 描いてみてわかったことは、白い花は白一色じゃないということ。葉っぱの緑や空の青、色んな色が一輪の白い花に写ってる。そう気づいたときとても感動しました。

 それを絵に描くとき、人によってはあえて白一色で表現するし、たくさんの原色を使って描く人もいる。薄く透明感のある塗り方をする人もいるし、絵の具を厚く塗り重ねる人もいる。それぞれが自分の表現だから、どれが正解とかどれが一番とかは決められない。みんな違っていいのよね。


 私の絵の先生は、わりと有名な画家なんだけど、どう描いたらいいか、みたいな技術的なことは何も言いません。デッサンが上手じゃなきゃいけないともいいません。絵の勉強をしなくちゃいけないとも言いません。

 自分が感じたことを描きたいように自由に描く。個性を出そうとか、誰かに認められようとか、そういうことも時には大切なんだけどまずは、自分の表現で描けばいいって言います。

 私にはそれしかできないといいたいところだけど、それが一番難しい。だって正解はないのだから。


 描いていて不思議なことは、すごく気合が入ってて上手に描けたと思った絵よりも、今日は疲れたな~なんてときに描いた絵のほうが、後で見ると気に入ったりすること。多分余計な力が入ってないからでしょうね。

 もっと上手になれば自分をコントロールできるようになるかもしれないけど、今は描くことを楽しむようにしています。うまく描こう、上手だと評価してもらいたい、そんなことを考えると何を描けなくなります。何を描けば良いのかわからなくなっちゃう。

 多分うまい絵とか上手な絵ってどんなものなのかが、わからないからだと思う。


 続けようって頑張ってるわけじゃないのよ。なんとなく描きたいから続いてる。私の場合は、夜寝る前にパソコンに向かって考えたり、自分の撮った写真を見たり・・・私写真を取るのも好きなの。コンデジ片手に歩くのが楽しいわ。上手な写真が撮りたいわけじゃなくて、この花、枝ぶりは絵にすると面白そう、という素材を撮るの。

 以前はできるだけ形や色をそっくりに描こうと頑張ったけど、今は自由に描いてる。線が曲がってても、色がはみ出しても気にならない。ただ自分の感じたままに描きたいだけよ。


 本当は、スケッチブック持って外で描きたいんだけど、道の真ん中で座り込んでたら迷惑だわ。それに絵の具とか画材って意外とかさばるから、持ち歩くのも苦手。外で描いている人見ると尊敬するわ。本当に絵が好きなのね。


 私の先生も、ちゃんとものを見て描きなさいっていう。それってやってみるととても難しいことなのよ。なんでも見えてると思ってるけど、そうじゃないわ。見ているのはほんの一部の自分が見たいものだけをぼんやりわかってるだけ。自分がスケッチしてみて初めて、どれだけいい加減に周りの風景を見ていたかがわかったわ。

 それでいいのかもしれないわ。画家のように常に正確に緻密にものを見続けることなんか今の私にはできないもの。


 でも私は、時々はもっとしっかり見たいと思う。なぜなら、最近、自分の描きたいものがなんなのかわからなくなってきたから。ただきれいなものを描くだけっていうのが、退屈に感じてきました。自分が描きたいものはなにか、それを探すために描いてるのかもしれないわ。


 ちょっと画家になりたいな、と思ったこともあったけど、世の中には絵の上手な人は数え切れないほどいます。専門の大学に行って勉強する人もいるし、病気で苦しんでる人とかが、その人にしか描けない素晴らしい絵を描いたりします。そんな人たちの絵と比べると、自分の絵はとても小さく見えます。


 自分の表現ってなんなのかしら。これからも描き続けていくことで、何かがわかるかもしれません。でもいつどんなふうにわかるのか、受験勉強みたいに正解を見つけるというのとは違う気がします。


 私の小さな絵は、有名にはならないと思うけれど、誰かが見て、きれいだなと思ってくれて、すこしだけ心を慰められてくれたらいいな。そんな暖かい絵が描けるようにようになりたいです。









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