第四問

第四問



『うぉぉーーーっ!』


勝敗が決した瞬間、Fクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴が耳を劈く様に校舎内に轟いた。


『すげぇよ! 本当にDクラスに勝てるなんて!』

『これで腐った畳や壊れた卓袱台とはオサラバだ!』

『坂本雄二サマサマだな!』

『姫路さん愛しています!』


彼方此方から代表である雄二を褒め称える声が聞こえてくる。どさくさに紛れて瑞希にプロポーズしている奴がいるのはFクラスだからと言っておこう。

一方、敗戦ムードで項垂れているDクラスの生徒の向こうでFクラスの面子に囲まれている雄二が居た。


「あー、なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか……」


頬を指でポリポリと掻きながら明後日の方を向く雄二。彼の様に図太い性格でも照れることがあるようだ。


『坂本、握手してくれ!』

『俺も!』


皆が次々と雄二に握手を求めている。その扱いはもはや英雄と言っても過言ではない。皆あの廃屋同然の教室には不満だらけなのでこうなるのも仕方ない。


「雄二! 僕とも握手を!」

「ん? 明久か」


明久が雄二に駆け寄って握手のために手を差し出すが、その手に何か光るものが見える。


「ふん!」

「ぬぉぉっ!」


握手を求めてきた明久に対し雄二は右手ではなく右手首を押さえた。


「ゆ、雄二……。握手なのに何で僕の手首を押さえるのかな……」

「押さえるに……決まっているだろうが……!フンっ!」

「ぐぉぉっ!」


雄二がさらに力を入れて手首を捻りあげると明久の手から出刃包丁が落ちてきた。

思わぬところで傷害致死未遂いや、明久には動機も殺意も十分過ぎる程あるから殺人未遂か--ともかく事件現場が完成した。


「……今何しようとしていた?」

「も、もちろん、喜びを分かち合うために握手を手首がもげるほどに痛いぃっ!」

「おーい。誰かペンチ持って来てくれ」

「そこまでにしといてやれ」


悪ふざけも度を過ぎてきたのを見かねた秀隆が二人の間に割って入る。辛くも明久は自分の指から爪が消えてしまうのを免れた。


「……チッ。秀隆に感謝するんだな、明久」

「まったく。大体お前があんな指示出すからだろう」

「そうだよ」

「調子に乗るな明久!そして秀隆! お前も俺に何か言うことがあるだろうが!」


仲裁に入った秀隆に雄二が吼えてきた。『言うことがある』と言われた秀隆は暫く考えて一言。


「……お幸せに?」

「だぁりゃあああぁぁ!!」

「うおぅ!」


――ガシッ――


雄二の渾身の右ストレートをなんとか受け流す秀隆。あと一瞬遅かったら彼の顔に見事なクレーターができていただろう。


「テメエ何てことししやがる!」

「うるせぇ!てめぇが縁起でもないこと言うからだろうが!」


そんなに村井先生のことが嫌いなのだとろうか。確かに性別の壁は否めない。(因みに作者はそんな関係断固拒否する)だが、雄二の言い方から理由はそれ以外にあるようだった。


「なぁ。そろそろ設備の話に移りたいんだが……」

「ん? ああ。すまん,すまん」


すっかり蚊帳の外だった平賀がおずおずと尋ねてきたことで漸く雑談を終え戦後処理に入る。


「今日はもう遅いから交換は明日でもいいか?」

「いや。その必要はない」


雄二は平賀の提案を断った。FクラスだけでなくDクラスの生徒も頭に疑問符を浮かべる。


「必要はない? どういうこと?」

「Dクラスの設備を奪う必要がないからだ」

「だから何で?」

「しつこいぞ、明久。まぁ理由はっ――」


雄二が設備を交換しない理由を言おうとしたとたん身体をビクッと震わせた。まるで何か不吉な予感を感知したような雰囲気だ。


「……悪い。誰かペンと紙を持ってないか?」

「メモ帳とボールペンならあるが……」

「すまん。借りるぞ」


雄二は平賀が出したメモ帳とボールペンを引っ手繰る様に奪うと急いで書きだし、書き終わるとそのページを破って秀隆に押し付けた。


「すまん、平賀。助かった。秀隆、後の指示はここに書いといたか。それと――」

「それと?」

「――覚えておけよ?」

「ん?」


雄二が鬼気迫る勢いで秀隆に告げるとそのまま逃げるように教室に戻って行った。

その後Fクラスの教室から『し、翔子! 話せば分る。話せば分るからそのスタンガぎゃああぁぁぁ!』という雄二の悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。


「で、結局設備はどうするんだ?」

「ん? ああ。ちょっと待ってくれ。今メモを読むから」


雄二のメモにはこれからの戦略について簡単な箇条書きで記されていた。


「結論から言うと、さっき雄二が言ったように設備の交換はしない。」

「理由は?」

「理由は簡単。俺たちの目標はあくまでもAクラスだ。だからDクラスの設備には一切手を出すつもりはない」

「でも折角Dクラスの設備が手に入るのに」

「お前も少しは自分で考えろ。だから近所の小学生に『馬鹿なお兄ちゃん』と指して笑われるんだ」

「……人違いです」

「マジかよ……」


衝撃の事実に秀隆は思わずツッコミを入れてしまった。平賀も呆れたような、憐れんでいるような複雑な表情で明久を見ていた。

実際の所、本当は他にも色々と理由があるのだが説明するのが秀隆が面倒なのでしないだけである。


「まぁ、俺達にとって設備を交換しないのはありがたいが……。それでいいのか?」

「勿論、条件がある」

「一応聞こうか」

「なに、簡単なことだ。合図をだしたら『アレ』を動かなくしてくれればいい」


秀隆は窓の外にあるエアコンの室外機を指した。といってもDクラスの設備は少々貧しい公立高校並みなのでエアコンはない。だからあるのはスペースの関係上間借りしてもらっている――


「Bクラスの室外機か」

「ああ。学園の設備を壊すから厳重注意される可能性はあるが、そう悪い取引ではないだろう?」


悪いどころかDクラスにとっては戦争に負けたのに少しのリスクで設備交換が免除されるのでこれ程の好条件はないだろう。そもそも飲まなければ教室の交換は免れないので、平賀に拒否する権利はない。


「こちらとしては問題はないけど、何故そんなことを?」

「ウチの代表曰く『次のBクラス戦の作戦に必要』なんだとさ」


流石の秀隆もこのメモ情報からは作戦の詳しい内容までは分らない。なので『Bクラスを室内に閉じ込めてサウナ攻めにでもする気か?』位にしか考えていない。いくらまだ春とはいっても50人近い生徒が教室に閉じ込められたら結構暑い。


「……そうか。ならありがたくその提案をのませて貰おう」

「交渉成立、だな。タイミングとか詳しいことはまた後日に知らせが行くと思うから、今日はもう解散にするか」

「ああ。そうだな。お前らがAクラスに勝てることを祈っているよ」

「社交辞令として受け取っておこう」


平賀は「じゃあ」と手を挙げて自分のクラスに帰って行った。


「さて、皆! 今日はご苦労だった。明日は消費した科目の補充を行うから今日はゆっくりと休んでくれ。では解散!」


秀隆の号令で、皆雑談を交えながら各々帰路に立っていく。


「なら秀隆。わしらもそろそろ帰ろうかの?」

「悪ぃ。これから図書館に行くつもりなんだ」

「図書館? 今日は課題とか出てないよね?」


明久が秀隆に尋ねる。秀隆は普段課題やテスト勉強を図書館でしているのでそう思ったのだろう。


「いや。新刊が入荷されるかどうか確認しに行くんだ」

「そっか。相変わらず秀隆も物好きだね」

「うるせぇ。お前も漫画ばっかり読んでないで少しは小説とか読め」

「そういう秀隆も読んでいるのは推理小説かラノベばっかりじゃないか」


明久の言うとおり、秀隆はよく読書をするがその殆どが推理小説かライトノベル。しかも読む作者もだいたい決まっている。「純文学はお堅いし、恋愛小説は読んでて鳥肌が立ってくる」とは本人の談。


「あ、あの、神崎くん」

「ん? 姫路か。どうした?」


明久と教室に向かおうとした秀隆を姫路が呼び止めてきた。


「神崎君に少し聞きたいことがあるんです」

「そうか。何だ?」

「あ、できればその、他の場所で……」

「了解。んじゃちょっと向こうに行こうか?」

「あっ、はい。わかりました」


胸に手を当てながら少し興奮気味に話す瑞希。何やら彼女にとって重要な話のようだ。

二人は明久から少し離れるように移動した。瑞希は移動する前にちらっと明久のお方をみていたから、どうやら明久に聞かれてはマズイ話しのようだ。


「で、聞きたいことって?」

「何で神崎君たちは試験召喚戦争をやろうと思ったんですか?」


どうやら彼女が聞きたかったのは戦争を始めた理由なようだ。


「正確には俺たちじゃなくて明久と雄二なんだが。まぁ、戦争しようと言い出したのはおそらく明久の方だろうな」


HRの時に雄二を廊下に誘っていたのからしてそれは間違いない。


「あの、吉井君がそんなこと言い出した理由って……」

「詳しいことは俺にも分らん。ただ――」

「ただ?」

「ただ……振り分け試験の時に何かあったらしいのは人伝に聞いているから、それが関係しているんじゃないか?」


これは秀隆のハッタリだ。しかし彼は、なんとなくだが何があったのかは予想がついていた。そこに明久が試験召喚戦争を始める切っ掛けがあったことも。


「振り分け試験の時って――それじゃあ、やっぱり」


瑞希はどこか思い当たる節があるようだ。


「ま、俺から言えることはここまでだ。けど――お前の予想は外れてないかもな」


秀隆は姫路に軽くそういうと「じゃあな」と手を振り、明久の元に行った。


教室を出て明久達と別れた秀隆はとそのまま図書館に向かった。


「ちぃーす。マサ姉いる?」


秀隆は図書館のドアを開けると同時に司書室に赴いた。


「入ってくるなりそれか。ここは図書室なんだから静かに呼びな。あと学校では『小鳥遊さん』と呼べと何度言ったらわかるんだ」


司書室の窓から禁煙ポイパをくわえた二十代後半ぐらいの黒髪の女性が顔を出して俺に話しかけてきた。彼女の名前は『小鳥遊雅子(たかなしまさこ)』。秀隆と秀吉の幼馴染みだが年が離れているので昔から実の姉の様な関係だ。文月学園のOGで今はこの通り事務員兼司書として働いている。


「静かにしろつったってどうせ今時期此処に来るのは俺くらいだから別にいいだろ。で何かいい新刊来てる?」

「相変わらずだな……今来ている新刊でお前の好きそうなのは……これはどうだ?」


雅子は新刊のリストに秀隆の好みに合うであろう本のタイトルに線を付けて渡した。

彼女が選んだ本は秀隆の好きな作者で、尚且つ他に目ぼしい本もないため秀隆はそれを借りることにした。


「んじゃこれ貸してくれ」

「あいよ……と言いたいとこだけど、それまだ登録してなくってね。すぐにするからその辺で待っていてくれ」

「早くしてくれよ」


秀隆は溜息をつきながらいつもの場所、一番奥の窓際の席に向かって移動した。そこは何故か普段はあまり使われないので彼の特等席になっている。入口の方からは見えにくいし、窓際だから風通しもいいので結構重宝していた。


「さて、取りあえず明日の補充テストの予習でも――ん?」


今日もそこに居座ろうかとしたが、珍しく先客がいた。しかしその客は彼にとってあまり良い客だとは言えなかった。


「……何をしている?」

「あら、偶然ね。何って図書室にいるのだから、読書か勉強でしょう?」


少し苛立った声で問答をする二人。

外は春の陽気で満ち眠気さえ覚えそうなのに、二人の周囲だけはピリピリとしたものに満ちていた。


「そうか。ならすまないが席を変えてくれないか? そこは俺の席なんだ」

「あらそうだったの? ごめんなさい。予約札を置いてないからてっきり誰も使ってないかと思っていたわ」

「「……」」


互いに睨みあい黙り込んだ二人。もし近くに気の弱い生徒がいたら泣きながら出て行っただろう。最悪失神しているかもしれない。


「お~い。登録終わったからもう持って行って……ってあんた達何やってんだい?」

「……別に」

「ええ。何もしていませんよ、雅子さん」

「……そんな雰囲気には見えないけどね。それと優子、鍍金剥げかけているよ」


秀隆が話していた先客、『優子』と呼ばれた少女はハッとなって頬に両手を当てた。フルネームは『木下優子』。その苗字から察せる通り、彼女は木下秀吉の双子の姉である。姉弟なので二卵性双生児だがその容姿は一卵性と言ってもいい程良く似ているため区別がつきにくい。余談だが何故か秀吉の方がよくモテる(男性から)。

そして当然だが、秀吉の姉ということは秀隆とも幼馴染みであるということ。秀吉の時とは対称的な剣呑な雰囲気からは想像できないが。


「まったく、何時までそうしてるつもりだい? いい加減仲直りしたらどうだい?」

「「それは無理だ(です)」」


雅子の提案を即刻同時に撥ね退ける二人。ある意味息が合っていて仲のいいようにもみえる。


「……なんか興が覚めた。帰る」

「あっ、ちょっとっ!」

「……待ちなさい」


雅子から本を引っ手繰る様に取って図書室を出ようとした秀隆を優子が呼び止めた。


Fクラスアンタ達、Dクラスに試召戦争を仕掛けたそうじゃない」

「それで?」

「へぇ、この時期にねえ。んで、どっちが勝ったんだい?」

「多少の犠牲はあったがFクラス 俺らが勝った」


Fクラスの勝利を聞き、雅子が「ヒュ~♪」と口笛を吹いた。だがそれを一番聞きたがっていた優子は逆に顔を顰めた。


「……こんな時期に戦争だなんて。やっぱりAクラスが狙い?」

「さあな。そんくらい自分で考えろよ」


秀隆は答えをはぐらかし出て行った。

秀隆が出て行ってすぐに優子も帰り支度を始めた。


「優子。もう少し自分に素直になってもいいんじゃないかい?」

「……何のことです?」

「だってあんた本当は――」

「失礼しました!」


優子は雅子の言葉を遮ると逃げるように出て行った。

残された雅子は溜息をつくと窓から外を見て一人眼を伏せた。


――翌朝――


秀隆はいつも通り学校までのダラダラ長い坂道に辟易しながら学校に向かう。今日は昨日の試験召喚戦争で消費した点数の補充試験がある。秀隆はほとんど化学位しか消費してないが、振り分け試験でそれ以外の科目はDクラス以下の点しか取れてないので今回は本来の点に戻すといった意味合いの方が強い。


「うーす」


ガラガラと教室の戸を開けて中に入った彼の眼の前には昨日と同じ腐った畳に足の折れた卓袱台。正直Dクラスの設備にしなかったのは惜しかったが、代表命令だからしかたないと諦めることにしていた。それに設備を上げたらそれで満足する輩も出てくるだろうからある意味これでよかったのかもしれない。


「よう秀隆」


声のした方を見てみると英語の参考書を片手に雄二が寄ってきた。どうやら今日のテスト勉強をしていたらし。


「よう、雄二。何か用か?」

「いや。用って程でもないが……昨日の御礼をなっ!」

「っ!」


秀隆は雄二の顔への攻撃を辛うじてかわした。まさか昨日の今日で復讐してくるとは彼も思っていなかった。しかもご丁寧にカッターナイフまで用意してあった。


「ちっ! 躱したか」

「躱すわ、アホが! いきなり何すんだ!」

「うるせぇ! こちとら昨日てめぇの所為で散々な目に遭ったんだよ!」

「知るかよ!」


お互いに言い合いながら紙一重の攻防を繰り返す。と言うか一方的に雄二が攻めていて秀隆は防戦一方だ。


「ちぃ! これじゃ埒があかねぇ」

「ならとっとと諦めて大人しく勉強してやがれ!」

「なぁに。まだ策はある。おい、皆!」

「あん?」


雄二が教室内にいる奴らに声を掛けた。


「こいつは昨日『女子』と『仲良く』一緒に帰っていたぞ!」

「はあ?!」


秀隆は昨日一人で帰った。つまり雄二の証言は嘘になるわけだが、[[rb:Fクラス > バカども]]がそれを疑うはずもなく――


「諸君、ここは何処だ?」

『『『最後の審判を下す場だ!』』』

「異端者には?」

『『『死の鉄槌を!!』』』

「男とは?」

『『『愛を捨て哀に生きるもの!!!』』』

「よろしい……これより2-F異端諮問会を始める」


秀隆は一瞬で黒ずくめの集団、異端審問会の連中に囲まれた。こういう時だけそんな行動が速いのは何故だろうと呆れを通り越して感心する。


「判決……惨たらしく拷問してから死刑!!」

『『『異議なし!!』』』

「ちょっと待て! 聡の時より酷くなってるじゃねぇか!」

「問答無用!かかれぇ!」

『『『おおおおおお!』』』


黒尽くめの集団が一斉に俺に飛び掛かる。


「く、どうなっても知らねぇぞ!」


秀隆と異端審問会との戦いが始まった。


――五分後――


「む、無念……」

「ふぅ」


秀隆は木刀を仕舞うと一息吐いた。須川を倒し、漸く戦闘は終結した。須川が意外と強かったのか秀隆の予想よりも時間がかかっていた。さすがに凶刃と言えど、ブランクがあるので昔ほどのキレはないようだ(それでも武装した40人近くの男子生徒を5分で片付けたのは驚嘆に値するが)。


「おはよー、って何この死体の山!」


秀隆が今後について悩んでいると明久が教室に入ってきた。


「よう、明久。こいつらが雄二に乗せられて襲ってきたから返り討ちにしただけだ」

「そうなんだ。皆もよくやるね。で、その雄二は?」

「呼んだか?」


騒動の原因である雄二が何事もなかったかの様に寄ってきた。彼は将来大物になるかもしれない。


「いや、設備のこと皆に何も言われなかったのかなって」

「俺が襲われたのは無視か」

「大丈夫だ。きちんと説明したから問題ない」


明久と雄二は秀隆を無視して会話を成立させていた。


「そんなことより自分の心配をしておけ」

「何のこ――」

「吉井!」

「ごぶぁっ!」


明久の台詞が美波の鉄拳によって遮られた。


「し、島田さん、おはよう……」

「おはよう、じゃないわよ!」


美波はかなりご立腹の様だ。昨日明久と何かあったのだろうか。怒りのあまり明久から下着が見えそうなのに気づいて無いようだった。


「アンタ、昨日はウチを見捨てただけじゃ飽き足らず、消火器の悪戯と窓を割った犯人に仕立て上げたわね……!」


どうやらそんな事件があったらしい。傍観していた秀隆は納得して、明久を見捨てることにした。


「おかげで『彼女にしたくない女子ランキング』が上がっちゃったじゃない!」


文月学園にはそんなランキングがあるらしい。そして美波には上がる余地があったようだ。


「けど『彼氏にしたい女子ランキング』では堂々の一位じゃないか」

「そんなの嬉しくないわよ!」


文月学園ではつくづく変なランキングが流行っているらしい。


「コホン、と本来なら掴みかかっているところだけと」


出会い頭で殴り飛ばしている時点で十分だと思うのだが。


「アンタにはもう十分罰が与えられているようだから、今回は許してあげる」


美波が『いい笑顔』で明久を許すと言った。彼女に限ったことではないが、こう言う時は大抵碌な事はおきない。


「うん。さっきから鼻血が止まらないんだ」

「いや、そうじゃなくってね……一時限目のテストの監督、船越先生だって」


明久が脱兎の如く教室を出て行った。


「はっはぁ! 明久も大変だなぁ」

「坂本も、そんなこと言ってていいの?」

「……まさか」

「二時限目は村井先生が監督よ」


今度は雄二が脱兎の如く逃げ出した。


――午前のテスト終了――


「うあー。づがれだー」


テストが終わった瞬間に机に突っ伏す明久。普段真面目に勉強してないから特にこたえただろう。

因みに、明久は船越先生には近所のお兄さん(39歳・独身--お兄さん?) を紹介して、雄二は村井先生を根気よく説得して事なきを得たらしい。


「うむ。そうじゃのう」

「私も少し疲れました」


流石に戦争後すぐの試験は皆こたえたようだ。というか秀吉はそういう髪型(ポニーテール)とかにするから女だと思われるんじゃないのだろうか、秀隆は思った。思っただけで進言はしなかったが。


「よし、昼飯食いに行くぞ! 今日はラーメンとカツ丼と炒飯とカレーにするかな」


ダイエット中の女子生徒が聞いたら発狂するのではないかと言わんばかりの炭水化物と炭水化物のコラボレーション。雄二の胃袋の構造と燃費が気になるところである。


「ん? 吉井達は学食に行くの? だったら一緒に行ってもいい?」

「ああ。構わんぞ」

「それじゃ混ぜてもらうわね」

「……(コクコク)」


康太が一緒に行くのは美波に破廉恥なハプニングが起きないかという下心があってのことだろう。


「何か吉井がウチに失礼なこと考えている気がするわ」


何やら明久が美波の逆鱗に触れるようなことを想像したようだ。


「じゃあ僕は贅沢にソルトウォーターでも……」

「明久。頼むから塩水を贅沢品にするな」

「あ、あのぅ……」


秀隆たちが食堂に行こうとすると、後ろから瑞希がオズオズと話しかけた。手には風呂敷包みを持っている。ということは――


「もしや昨日話していた弁当かの?」

「は、はい。ご迷惑じゃなかったらどうぞっ」


そう言って風呂敷袋を前に出す瑞希。大きさから察するに三段重ねの重箱だろう。


「迷惑なもんか! ね、雄二! 秀隆!」

「ああ、そうだな。ありがたい」

「よかったな、明久。久しぶりにまともな飯が食えて」


瑞希の弁当を見て諸手を挙げて喜ぶ明久。まともな食事がよほど嬉しいようだ。


「では屋上に行くかの。こんなカビ臭い所じゃ食事する気になれぬからの」

「そうですね」


秀吉の提案により屋上で食べることになった。確かに[[rb:Fクラス > ココ]]は衛生的にまともに食事をする環境ではない。


「なら先に行っていてくれ。昨日の礼も兼ねて茶でも買ってくる」

「あ、ウチも行く。一人じゃ大変でしょ?」

「悪いな。それじゃ頼む」


雄二と美波が飲み物を買いに行っている間に残りのメンバーは屋上に上がった。幸いにも空は雲ひとつない快晴だった。


「あの……お口に合うかあんまり自身はないんですけど……」

「「「「「おお!!(わあ!!)」」」」」」


瑞希が開けた重箱の中には唐揚げや海老フライ卵焼きにサラダなどの定番のおかずがギッシリと詰まっていた。見ているだけで涎が出てきそうな出来栄えであった。


「それじゃあ、お箸とお皿配っちゃいますね」

「あっ、私も手伝います」


姫路とリリアは二人で食事の準備を始めたが、残された野郎どもの胃袋は我慢の限界だった。


「それじゃ、雄二と島田さんには悪いけどお先に――」

「……(ヒョイ)」

「おい、康太。抜け駆けは――」


康太が唐揚げを一つを摘み、そのまま流れるように口に運び――


「……(パク)」


――バタン――

――ガタガタガタ――


正座したまま豪快に頭からコンクリートの床にダイブ、陸に上がった魚のように痙攣しはじめた。


「「「……」」」


残った秀隆達は互いに顔を見合わせた。


「わわっ、土屋君!?」

「大丈夫ですか!?」


姫路とリリアが慌てて配ろうとしていた箸と紙皿を落とした。


「……(グッ)」


親指を上げて『美味しかった』と意思表示をする康太。しかしその足はKO寸前のボクサーの如くふらついていた。


「あ、お口に合いましたか? 良かったです」


康太の意思が伝わったのか顔を綻ばす瑞希。天然とは恐ろしいものだ。


「良かったらどんどん食べてくださいね」

「う、うん。ありがたく頂くよ」


残りのメンバーにも食べるよう促す瑞希。しかし彼女の知らないところで命をかけた作戦会議が起きていた。


「(……秀隆、秀吉。これどう思う?)」

「(どうもこうも、どう見たって姫路の料理が原因だろう)」

「(じゃな。そうとしか考えられん)」

「(けど何で?見た目は美味しそうなのに)」

「(見た目は、な。康太の様子からして恐らく洗剤だとか薬品の類が入ってるんだろう。しかも大量に)」


倒れた康太の様子からして恐らく料理が不味かったわけではなく薬品による中毒の可能性が高い、と秀隆が二人に伝えると顔が真っ青になって大量の冷や汗がダラダラと出始めた。


「(お前ら、身体は頑丈か?)」

「(正直自信ないよ。食事の回数が極端に少なすぎて胃腸が退化しているかも)」

「(ならワシに任せてもらおう。こう見えてもワシの胃袋はジャガイモの芽を食べても頑丈な程じゃ)」


ジャガイモの芽はステロイドアルカロイド系のソラニンと呼ばれる、神経に作用する猛毒を含んでいる。中毒量は成人男性で200~400mg。中毒すると溶血作用を示し、頻脈、頭痛、嘔吐、胃炎、食欲減退などの症状を起こす。大量摂取すると昏睡状態になり最悪しに至る。

はっきりと言って胃腸の丈夫さとは関係ないが、それでも平気だと言う秀吉の胃袋は、頑丈と言うより異常である。

秀隆達がアレコレと瑞希の料理(殺人兵器)の処理に困っていると、


「おう、待たせたな! へー、こりゃ旨そうじゃないか。どれどれ」


雄二憐れな子羊が登場した。


「あっ、雄二」


明久が止める間もなく、雄二は素手で卵焼きを口に放り込み、


――バタン――

――ガタガタガタ――


再放送が始まった。


「さ、坂本!? ちょっと、どうしたの!?」


遅れてきた美波が雄二に駆け寄る。

明久たちは康太と同様に激しく震えている雄二を見ている。すると、倒れたままの雄二がこちらに目を向け、目線で訴えてきた。


『毒を盛ったな』

『毒じゃない。姫路さんの実力だよ』


明久も目線で返事をする。一年の頃から一緒に行動してきた明久達だからできる特技だ。


「……姫路。弁当 《コレ》の味付けを教えてほしいんだが」

「味付けと言っても普通ですよ? ただ海老フライには『硫酸』を、卵焼きには『クロロ酢酸』を隠し味に少し入れた位で」


説明するまでもないと思うが、硫酸は低濃度でも強酸性を示す劇物であり、クロロ酢酸は腐食性をしめす劇物であるため、どちらも取り扱うにも資格が必要となる。当然ながら摂取した場合人体には悪影響しか及ぼさない。

料理に入れたモノが発覚したことで瑞希を除く面々の顔はまるで漂白したように白くなった。


「……購買に行って何か買ってくる。明久、手伝ってくれ」

「うん。分った」


楽しいはずのランチタイムがなんともバイオレンスな時間になってしまった。


――数分後――


「……しかし、まさか姫路にこんな欠点がとは思いもしなかった」

「…………意外」

「全くだ。見た目はすごく旨そうなのに」


被害者二名は、大量の水を摂取し大事(?)には至らなかった。ただそれだけで身体に入った薬物が完全に抜けるわけではないので顔色も悪く、手足は小刻みに震えたままだ。


「……すみません」

「気にしなくていいよ、姫路さん。誰だって失敗することはあるし」

「そうだぞ、姫路。そんなことでいちいち気を落としていたら明久なんて生きていることが恥ずかしい位だ」

「そうだな。黒歴史の量だけで言ったら多分体育館じゃ埋まらないくらいはあるだろうな」

「失礼な!」


瑞希への明久のフォローを秀隆と雄二が茶化す。それを見て、瑞希もようやく落ち着いたのか笑みを浮かべた。


「ただまあ、薬品を入れさえしなければいい感じにできていたと思うぞ?なんなら明久の家で練習すればいいんじゃないか。……花嫁修業の一環として」

「はっ、花嫁修業ですか!?」

「え!? ちょっ、何言ってんのさ!」


秀隆の言葉を真に受けて赤面する明久と瑞希。そんな二人を見て、秀隆元凶はケラケラと笑っていた。


「……お主、態と言いおったな」

「まあな。お前も知っているだろ。俺はああいう状況を高みの見物するのが好きなんだよ」

「相変わらずいい性格しとるの。じゃが、この状況をどうするつもりじゃ?」

「ん? ああ。さすがにこのままはマズいか。おーいお前ら、帰って来ーい」


秀隆が手をパンパンと叩き、様々な妄想を駆り立てて耳まで真っ赤にした二人を現実に引き戻した。


「はっ! まったく。いきなり何言い出すのさ」

「すまん、すまん。けど考えてみろ。女の子が態々お前の世話をしに来てくれるってのに、なんの不満があるんだ? 第一お目の生活破綻ぶりは誰かに定期的にでも管理してもらわない限り直らないだろうが」


明久とて、健全な高校生男子、彼女との甘い生活を夢見るなと言われても無理な相談である。


「そっ、そこまで酷くはないと……」

「ガスと水道は止められてそのうえ冷蔵庫には食料の一つもない。こんな生活していて生きている方が不思議だ」

「むっ、失礼な。塩と砂糖とサラダ油ぐらいはあるよ」

「『ぐらいは』じゃなくて『しか』ないんだろうが」


明久の私生活を聞いて女性陣は唖然としていた。少なくとも、『現代人』の生きていける生活環境ではない。


「確かに、世話する奴が居た方が良いな」

「そうじゃな」

「……同意」

「そうね」

「私もそう思います」


秀隆の意見に明久と瑞希を除いた全員が賛成した。ただし雄二と康太、美波の眼は笑ってはおらず、リリアの眼は何故かキラキラしたものが光っていた。


「あの……吉井君さえ迷惑でなければ、お願いしてもいいですか?」


あっさりと了承されたことに明久は驚いた。そして美波は声が出ないのか口を金魚のようにパクパクさせ,リリアの眼の輝きはますます激しくなった。

それを見ていた秀隆は(秀吉曰く悪魔のような)笑みを浮かべ、


「ほら、本人の了承も得たから問題ないだろ? 何なら島田も参加するか? 明久が変なことをすればいつもみたいに関節技で沈めればいいし」


特大の爆弾を投下した。


「ななな何で!う,ウチが!?」

「その前に僕、まだ了承してないんだけど……」


明久の言葉も虚しく、パンを食べつつマッタリとした時間が過ぎていった。


「次の獲物はBクラスだったか?」

「ああ。BクラスにもDクラス同様、俺たちがAクラスに勝つ為の要素がある。元々俺たちじゃAクラスにはバカ正直に真正面から挑んだところで勝ち目は無いからな」


Aクラスはこの学園選りすぐりのエリートクラス。試召戦争は代表の撃破が勝利条件となるが、Aクラス代表は謂わば学年主席。ただでさえ実力差があるのだ。いくら雄二が権謀術数を巡らせようが、Aクラスに勝つには困難を極める。


「どうゆう作戦でいくのですか?」

「Bクラスと、この戦争のシステムを使いAクラスに一騎討ちを申し込む」

「「「「「「一騎討ち?」」」」」」


雄二の作戦に本人と秀隆以外の全員が疑問を挙げた。


「まあ、妥当なところか。[[rb:Fクラス > うち]]じゃあどう足掻いてもAクラスには勝てねえしな」

「ああ。だからこその一騎討ちだ」

「ち、ちょっと待ってよ。二人だけで進めないでよ」


雄二と秀隆の二人が勝手に進めていくので、ついていけなくなった明久が待ったをかけた。


「何だ分からないのか? 仕方ない。ちゃんと説明してやるから、その耳垢が詰まりきって腐ってしまった耳の穴をかっぽじってよく聞けよ?」

「う、うん……」


秀隆の言い方には棘が百本くらい生えていたが、明久は黙って説明を聞くことにした。明久だけでなく他のメンバーも雄二の言葉に耳を傾ける。


「まず俺も秀隆も言っていたように、うちの戦力じゃあどんな作戦を立てようとも正面切って戦ったんじゃあAクラスには勝てない」

「随分と後ろ向きね?」

「考えてもみろ。いくら戦略でカバーしようともそれを補って余りある地力が向こうにはあるんだ。たとえ奇襲が成功してもこっちの被害の方が大きいのは目に見えている。対代表となると尚更だ」

「確かにAクラスの代表ともなると、わしらが束になってかかろうが打ち倒せるかどうか」

「加えて姫路以外の学年トップ10が向こうにはいるんだ。とてもじゃないが太刀打ちできねえ」

「じゃあ一騎討ちなら何とかなるの?」

「ああ。一騎打ちなら味方の支援もない代わりに余計な横槍を心配する必要もない。担当科目次第だが、まともに戦争をするよりも勝率は高くなる」

「なるほど!だから一騎討ちなのですね!」


雄二の説明にリリアがポンッと手を打つ。


「けど、どうやって一騎討ちに持ち込むの?」

「そのためにBクラスを使うんだ。明久、試召戦争で下位クラスが負けたらどうなるか知っているな?」

「も、もちろんだよ……えっと……」


雄二の質問に明久は眼を泳がせながら逸らした。知らないのは明白である。


「設備をランク一つ落とされるんですよ」


すかさず瑞希からフォローが入る。


「つまりBクラスならCクラスの設備になるわけだ」

「そうだね.常識だね」

「……じゃあ上位クラスが負けた場合は?」

「悔しい」

「……ペンチ」

「いや、ここはライターとマチバリだ」

「やや、僕を爪切り要らずにする動きが! て言うか秀隆のは何?! 拷問でもするの!?」

「ん? 熱したマチバリをお前の爪の間に入れるだけだが?」

「怖い! 想像するだけで怖いよ!」


秀隆の罰は拷問とイコールであるようだ。


「あ、相手の設備と入れ替わるんですよね?」


見かねた瑞希からのフォローが入ったことで何とかその場は治まった。


「ああ.そのシステムを利用して交渉する」

「しかし雄二よ。相手がそう易々とこちらの思惑に乗ってくれるかの? 向こうとしては普通に戦争をした方がリスクは低いじゃろうし」

「何、その心配はない。そのための作戦も考えてある。だから明久」

「な、何?」


いきなり話を振られて警戒色を出す明久.


「放課後Bクラスに行って宣戦布告して来い」

「断る。前回僕が行ったんだから今度は秀隆が行けば良いじゃないか」

「……だそうだ」

「だが断る」

「そんなわけだ。明久、行って来い」

「どんなわけだよ! もう少し粘れよ!」


自分の時とは打って変わってあっさりとした受け答えに明久が非難の声を上げた.


「やれやれ仕方ないな。ならお前ら二人でジャンケンをして負けた方が行くってのはどうだ? ただし,ただ普通にしても面白くないから心理戦ありでな」

「……それなら良いけど」

「秀隆は?」

「大丈夫だ、問題ない」

「そうかならとっととやってくれ」


心理戦ありのジャンケンなら自分にも勝ち目があると判断したのか明久は雄二の提案に賛成し,秀隆も受け入れた。


「なら僕はグーを出すよ」

「そうか、なら俺もグーをだそう」


お互いにグーを出すという二人。だが明久はこの時秀隆が密かにほくそ笑んでいたのに気づいていなかった。


「んじゃ,最初はグーからな」

「OK。じゃあいくよ」

「「最初は――」」

「グー!」

「ギャアアアーーー!!!」


グーと言った瞬間に明久の顔面に秀隆の放った右のコークスクリューパンチが油断しきっていた明久の顔面に突き刺さり、後ろのフェンスに激突した。


「ジャンケンホイッと」


明久は激突した瞬間に手を開いていたのでパー、そして秀隆はそれを見て出したのでチョキ。果は明久の負けとなった。


「んじゃ、明久の負けだな」

「む,無効だ!今の明らかに不正があった!」

「Dクラス戦の時の様に殴られるのを心配しているのか? なら安心しろ、Bクラスは美少年好きが多いからその心配はない」

「そっか、なら安心だね」


秀隆から聞いたBクラスの情報に明久はホッと胸を撫で下ろす。


「だけど、お前不細工だからなあ……」

「む。失礼な、365度どう見ても美少年じゃないか!」

「5度多いぞ」

「実質5度じゃな」

「……微少年」

「3人とも嫌いだ!」


明久は泣きながら宣戦布告するためBクラスに駆けていった。


――放課後――


「……言い訳を聞こうか?」

「予想通りだ」

「ま、当然の結果だな」

「くきいー! 殺す! 殺しKILL!」


少しも悪びれる様子の無い二人に明久が襲い掛かる。


「落ち着け」

「騒ぐなバカ」

「ぐふあっ!?」


だが雄二の拳が後ろから腰に、秀隆の蹴りが腹に直撃しあえなく撃沈した。


「んじゃ、先に帰るぞ。明日も午前中はテストなんだから寝すぎるなよ」

「俺らも帰るか」

「そうじゃな」


地に伏す明久を放って置いて、秀隆たちは帰路に着いた。


――秀隆・秀吉帰宅中――


「っとそうだ。悪い秀吉、ちょっと寄りたい店があるんだが、手伝ってもらえるか?」

「何じゃ? わしにできることなら何でも言ってくれ」

「悪いな」

「何、わしと御主の中じゃろう?」


秀隆と秀吉は帰る途中でとある店に寄った。


「ここかの?」

「ああ。すんませーん」


――翌日――


「さて、皆、総合科目の試験御苦労だった」


教壇に上がった雄二からクラスメイトに向けて声がかかる。今日は対Aクラス戦にとっても重要となるBクラス戦の日。雄二の声も、心なしか力が篭っている様に感じられた。


「今日は午後からBクラスとの試召戦争に突入するが、殺る気は十分か?」

『『『おおーーーーーーーーッ!』』』


雄二の物騒な物言いにも誰も疑問も持たず雄叫びを上げた。緊張か、はたまたアドレナリンの作用か、皆興奮しているようだ。


「今回の戦争は敵を教室に押し込むことが重要になる。その為、開戦直後の渡り廊下戦は絶対に負けるわけにはいかない」


今回は前回よりも渡り廊下が要になっているようだ。


「そこで、前戦部隊の指揮を姫路にとってもらう。秀隆、お前は今回は副司令官として姫路のフォローを頼む」

「が、頑張ります!」

「ま、やるだけやるさ」


雄二に指名された瑞希が両拳を握って尽力の意を示した。秀隆はやる気がなさそうだが、こう見えて責任感は強い方なのでやる時はしっかりとやってくれるだろう、と明久や雄二は思った。


「お前ら、きっちり死んでこい!!」

『『『おおーーーーーーー!!!』』』


――キーン、コーン、カーン、コーン――


Fクラスの士気が上がり、開戦の狼煙を上げるチャイムが鳴り響いた。


「よしっ! 行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」


雄二の号令の元、Fクラス対Bクラスの試験召喚戦争が開戦した。

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