第44話:コイントス

「キング、ブルース! 前に出て蓋をしろ!」

「「了解!」」


「イエルロはその援護だ! ノイズはイエルロの攻撃がサーバーに干渉しないように壁を張ってくれ!」

「50%よ、気張りなさい」

「それを止めるウチの身にもなってくれ」


「スカレット、解析を急いでくれ! だが焦るなよ!」

「了解」


「エシル、全体報告!」

「了。どうやら長年の劣化で配線がブリッジしている模様、復旧を試みます」


今俺たちが戦っているのは、帝国軍の機械人形オートマトンでは無く、自国の警備ロボットだ。形状がスリムで白く統一されているのが特徴的だ。


「『クレシューズ』の解析回路に接続…………サクセス。スカレットは直ちに」

「ええ、『演算共有』…………把握しました、この下です」

「なら階段を「あぁもう、うざったい! ランスロッド、やりなさい!」


イエルロがそういった瞬間……!?




———ガガガがガガガガガガ!!!




自慢の改造銃を唸らし、廊下の床をなぞるように撃ち抜いていく。


「キング! 上に構えて!」

「うむ! そいつはご機嫌な提案だッ!!」

「おいまさかッ!!」

「またね、スクラップ共」

「スカレットちゃん! 指揮官を!」


イエルロが頭上にグレネードを投げると、ノイズが舌打ちをしながら的確に撃ち抜く。

キングが思いっきり床に衝撃を移す体勢で盾を上に向けると……!!




———ズドドガガァァァン!!




床が綺麗に長方形の形に抜け、そのまま下の階層に落下した。


「ノイズ、壁を立てた方がよろしいと思いますが」

「やってやるよ畜生!!」


エシルが問い、ノイズが叫ぶ。


振動の壁に阻まれて、機械人形はこちらに落ちてこられない。


「スカレット、溶接だ!!」


彼女に抱き抱えられていた俺が慌てて指令を出すと、すぐさま腰からバーナーカッターを取り出し、ランスロッドが持ち上げた金属板を繋ぎ止めていく。


「ふぅ」

「何やりきった感じを出しているんだ?」


満足げな表情を浮かべるイエルロに対して、問答無用のアイアンクローをお見舞いする。


「イダダダダダダ!!? なんで痛いの!?」

「金輪際、パーティーを危険にさらす真似をしないように。やるとしても全体に共有してからだ」

「わかったから! 今すぐこれをやめて!」


ふてぶてしい顔をするイエルロの表情を見て、どことなく満足感を覚えつつスカレットのナビゲーションで先に進む。


「どうやらここは兵器工場のようです。どれも旧式ばかりですが、現代のものと比較しても遜色ないくらいの火力を誇るでしょう。その分破損しやすいようですが……これを今の技術で再生したらどのような結果になるのか、考えるに容易いですね」

「物騒だわぁ、仲良くお茶出来ないのかしらぁ」

「出来ないからこうなってるんでしょ。戦争自体、非公式のものも含めれば1000年以上続いてるわ」

「難儀なものだ、同じ民を持つ者同士、協力の道は無かったのだろうかっ!!」

「……」

「ま、今のウチらにはあまり関係ないか」






「……………ブルース、貴女が一番……」






先頭に立つスカレットのつぶやきは、その場にいる誰にも届くことはなかった。






◇◇◇◇◇






「……ここで休憩にしよう、スカレットとエシルはジャマーを置いてきてくれ」

「はい」

「……指揮官、私はスラスターの調子が良くない故、後方守備のキングに変わって貰うという提案をします」

「……あ、あぁ。キング、いいか?」

「うむ! 逆にさっきからブルースが全て抑えてくれるおかげで動き足りないくらいだ!」


平気なうちに休息を取ることはとても大切だ、というのが俺の持論だ。精神的疲労というのは山なりの形を取った減少グラフで、休息を早めに取らなくてはどんどん休憩時間が長くなっていくばかり。パフォーマンス的には70%を下回るまでに10分ほどの小休止を入れたい。






……エシルはこんなに明確な自我があったのか。






「でも、ランスロッドがここまで動けるとは思わなかったな」

「道中のエネミーのほとんどをランスロッドちゃんとイエルロちゃんでしとめてますしねぇ」

「……………(コク)」


複雑そうな表情で、軽く会釈をする彼女……………やはり意識は離れたキングに向かっているようだ。


「……指揮官、これ以上は」

「……あぁ、わかっている」


なにか問題が起こってからでは遅い、早めのうちにパーティーの危険因子を解消させなければいけない。




「ランスロッド、君はキングとなにかあったのか?」

「!!??」




一瞬で身を硬直させる彼女を見て、冷静に話を続ける。


「話したくなければそれでいいが……俺はパーティーを正しく導かなければならない。今のうちに不安の芽をなんとかしたいんだ」




戸惑っていたランスロッドは、自分の中で区切りを出し、話す覚悟を決めると……………




「…………………………わっ、わた、しっ、キングに謝らなくちゃいけなくて! 本当ならのに!」


「……どうしてそう思うんだ?」


「わ、私が、自分の力を過信しすぎて、指揮官がっ……!!? キング!!?」

「……………」


普段とはまるで違う、冷めきった視線をランスロッドに向けるキング。


「っ!」

「キング!?」

「どこに行くんですかぁ!?」

「みんなはここで待っててくれ! 俺が話をつける!」

「指揮官、危険です!」

「……敵対反応は見られません、4割で行くことを推奨」

「あぁ、行ってくる!」


エシルに背中を押され、ためらっていた心が行かなくちゃという意思で合致した。




「キングならどこか狭い暗がりに籠もるはずだ! ウチにはそれくらいしか言えないけど……………頼む!!」




ノイズの後悔が聞こえ、該当する場所を虱潰しに探す。











―――何処だ?


―――――何処にいる?


――――――――――何処かで……すすり泣く声が。








「……キング」

「……………ぁ」


見つかった彼女は、きれいな翡翠の目を真っ赤に染めて膝を抱えて大粒の涙をこぼしていた。


「よ、よくここがわかったな、アマネ殿!」

「……」

「さっ、流石あのアスナ様が認める人物よ!」

「……………」

「……っ! な、なにか言ったらどうなのだ!」




「キング、君は―――――一度も俺を指揮官だと言ってくれなかったな」

「っ!!!」

「前の指揮官はそれほどすごかったんだって、ずっと思ってた」


「っ、あぁ! ノートンは……ヴィーア・ノートンは素晴らしい指揮官だった!!」


一語一語ごとに瞳から粒をこぼしながら、告げる。


「彼はすごいんだ! 私とノイズなんかずっと相性が最悪でな! いつも喧嘩をしては任務が失敗してた落ちこぼれだったんだ!! 私達がここまで来たのは全て彼のおかげだったんだッ!!!」






「最高の指揮官でッ! 最強の心を持った人間でッ! 自分の命を投げ出してまで人を助けるようなお人好しで! そしてっ…………………………!!! 





















……………最愛の、恋人だった!!!」






そこまで言い切った彼女は、再び地面に崩れ落ちた。


「ぁっ、あぁノートン! 彼はっ……幻想少女の私を、化け物の私を愛してくれた。私もどんな湖よりも深い愛を、全てを彼に注いできた! しかしッ!」




「彼は逝ってしまった……事故だったんだ。流れ弾からランスロッドを守って、そのまま逝ってしまった」




頭を掻きむしりながら、金色に輝く髪を引き千切らんばかりの迫力で告げる。




「ランスロッドは戦友ともでありッ!! 共に民を守る騎士ともである!! 彼女に対して何を怨むことがあろうかッ!! しかしッ!!!!!」




―――ガァァアン!!




……振り上げた拳を、床に叩きつけるキング。




「私はっ、今すぐ殺したいほど憎んでいるっ」




虚ろな目から液体の筋を流し続ける彼女が、焦点が定まってない瞳で俺を見る。











「どっちが正しいんだ? 教えてくれアマネ殿……………私は、なにを………」

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