第35話:肩を揺らす、灯火をねだる。

閃光が如きキングの突進。当たれば再起不能は免れないだろう一撃に対し、イエルロは冷静に攻撃術式を組み立てていた。






「『王手ロイヤルクラスター』」    「『雷神の一撃トールド・ノヴァ』」


互いの切先が直線上で吊り合い、膠着が生まれる。


「表せ、ウチの忠誠を! 『捻レ杖マジシャンズ』!!」


物理法則を無視し、ノイズが生成した振動の壁に弾かれ跳弾となる。


「ガァウッ!」

「ウッソだろ……」


高周波で振動し続けているはずの弾丸を歯で止め、噛み砕くことで効力を無くす。しかし王への忠誠を表すには十分すぎた。


「セァッ!」


必殺技を途中で解除し、力の向きを横方向にずらす。それだけでイエルロは簡単に体勢を崩した。


「ハァッ!!」


しかし、判断力の速さならばイエルロも劣らない。ずらされたと認識したコンマ数秒後にはナイフを手放し、組み手に切り替える。


しかし、それでも歪んだ重心を立て直す数瞬の間に、ノイズから更なる追撃が飛びそちらに対応することを迫られる。


時間にしてジャスト一秒後……


———ガァァァンッ!!


イエルロとキング、両者の拳がぶつかり合う。


本来ならば、触れた瞬間に脳が焼けるほどの致死電量を誇るが、今の一瞬でキングはそれを対策していた。


自身の髪を拳に巻きつけたのだ。幻想少女のそれは強化カーボンファイバーで出来ており、絶縁性のため電流は通らない。


「私の勝ちだァァァ!!」


渾身のストレートがイエルロに刺さる…‥直前で、背後に飛ぶことで威力を抑える。


((次で終わる))


だがキングとノイズは予感していた。イエルロのバーストフォームは長くは持たず、5分ほどで終わるだろうと。


そして……ッ!!











両方、死ぬ———




















「そこまで」


突如現れた乱入者に場が凍りつき、戦闘は終わった。


エシルだ。


「これ以上は訓練の域を超えると判断しました。よって、引き分けとします」

「はぁ? お前、どこに首突っ込んでんのか、わかってんのか?」


エシルに突っかかるようにノイズが手を伸ばす———!?


「がッ………は………?」


ノータイム。違和感すら感じさせずに、エシルはノイズの背中を地面に叩きつけた。さらに言えば、彼女自身は一歩も動かずにだ。


「「……!」」


引かれ合うように、キングとイエルロも互いに拳を向け合う……が、


トン……と、一瞬エシルが触れたかと思えば、あっという間に一回転して背中を打った。


「嘘だろ……」

「我々が…‥量産型に……?」


未だ認められないのか、唖然とした表情の2人。もう二度とこのようなことを起こさないように注意をしよう———


「「凄ッッ!!」」


今までのことはなんだったのか、ドタドタと跳ね起きると、エシルに詰め寄った。その目には尊敬と好奇心が覗いており、悪い結果にはならなそうだ。


「今のどうやったんだ!? 体術のカテゴリーだと思うが、あんなスタイリッシュな活性体術は初めて見たッ!!」

「ほぼ力を加えていないだろうあれは! これで戦闘訓練中の下だと? それを担当した訓練官のお里が知れるというものだ!!」

「お前たち、量産型を馬鹿にしていたんじゃ」


キングとノイズはきょとんとした表情を浮かべると、だんだんと声をあげて笑い出した。


「あぁ、そんな産廃を作っても尊い市民の命が犠牲になるだけじゃねぇか」

「うむ! 今まで量産型は守るべきものと認識していたッ、しかしどうだろうか! エシル殿はその壁をぶち破り、新たな可能性を見せてくれた! いままでの私が失礼をした、穴があったら入りたいッッッ!!!」


とてもキラキラとした目で、エシルに語りかけるキング。


「共に国を守る者の技能すら知らなんだ、それを怠って何が王かッ!! 忘れていた。忠誠を誓い、武器を掲げたものは全て騎士ともだッ!

教えて欲しい、その技術をどこで身につけたのか。絶賛した後で申し訳ないが、エシル殿の武術はあらがあるように感じた」

「……指揮官」


心配そうに俺を見るイエルロ。


「……話そう、アスナのことを」


暗い荒野に、一つのスポットライトが差し込んだように感じた。光の中では、白髪の少女が眠りこけている。




そっと肩を揺らしに行くんだ、俺たちアマネ隊で。起きて早々彼女は俺にねだるだろう。




直径3センチほどの、小さな灯火を。

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