第36話:見誤らず、

「それでは、定例会議を始める。今回の議題は新たなS級殲滅者、『英雄アスナ』様についてだ。研究班、報告しろ」


「はっ! 現在『時計弄りの白クロノ・ホワイト』はその異次元の能力が使えない状態に陥っております。無理やり起動することも試みましたが、反応しないどころか電子波の乱れすら観測できませんでした」


「うぅむ。もはやクロノホワイトの力を利用することは難しいということか?」

「研究結果によると、主人格が意識を失っているため使えないのではないか、という」

「ならば他の幻想少女に付け替えるか」

「バリアが貼られているのは眼の周りだけ、本体を破壊すれば機能を失い摘出が可能なのではないか?」

「今のうちに有用なオリジナルをリストアップしておけ」


とんとん拍子に話が進む駄馬共を順にながめ、声を出す。


「お前らは根本を理解していないようじゃな」


一斉にわしの方に視線が向くが、無視して声を繋げる。


「そもそもなぜそのような産物が、フォードボルト氏が生きている時代に活用されなかったと思う? 幻想少女が扱うにはあまりにもリスキーだったからじゃないのかのう?」

「しかし、現に量産型が使えているし……」

「脳メモリーを移植することがどれだけ危険なことが、前回の会議であれほど語ったのにまだ理解していないとは……よほど頭が足りていないと見えるな」


ピリつく空気の中、沈黙を確認すると、ため息をついてからまた口を開ける。


「そうせざるを得ないほど危険なものなのじゃ。アスナ……A37に適合したのは真の奇跡と呼べる。大事な検体を切り刻むんじゃない、平和の象徴として迎え入れるべきじゃ。

お主らも知っているじゃろう、『ラピッド最速ノ兎』を、当時のわしたちを!!

S級が恐ろしいのは十分分かる、しかし楽園を上げて今は使えないとわかったんじゃ、研究員を信頼せい」


明らかに不機嫌そうな表情を浮かべる楽園の重鎮たち。腹芸ではまだまだわしに軍配が上がるほどのひよっこどもが、自分の利益を優先するからこうなるんだ。


「あー、そろそろ我々も話していいか?」


随分と大人しかったな、にしては。


「許可する」

「うむ! 待ちくたびれたぞッッ!! とは言っても、我々が報告することは一つだけ……」


その報告に、この場にいる全ての人が唖然とし、反対の意見を示した。






「我々英雄の一突ヒーローズ・エストックは、アマネ隊と合併し、新たな部隊を作ることになったッッ!!」


「……ならん!!」


1番に反対を示したのは、エストックのスポンサーを勤めているヤツだ。


「そんな地雷に身を突っ込むなど、もう一度リコールされたいか!?」

「地雷ではない、仲間ともであり騎士ともであるッッ!! しかし、ここで認められないことは十分わかっていた!!」


キングはノイズに話を引き継ぐ。


「あんたらの懸念はアスナ様の制御だろ? それに関しては問題ない、アマネ指揮官が手綱を握る。どうやらアスナ様はアマネ隊に生きてほしいと望んでいる。ならば命をかけて制御権となることで暴走を抑え、我々を頭数として追加することで楔を増やす」


やめろ。


「その管理権をオルター様に持ってもらいたい。利益ばかりを追求して足元を見ない馬鹿には任せられないからな、お前からのスポンサーももう切ってもらって構わないぞ」

「なっ!?」


やめてくれ、もう諦めたんだ。


「オルター様、ご決断を」


希望を見せないでくれ、はアスナと楽園を天秤にかけ、楽園を選んだ裏切り者だ。アスナにどんな顔を見せればいい。


『見誤るな』


その言葉が呪いとなって頭を無限に反芻する。


『見誤るな』


どうしてアスナは私を楽にしてくれないんだ。


『見誤るな』




ワ タ シ ハ … … … … …











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