第33話:産業廃棄物
「シッ!」
「遅いです」
ギィィィンと音を立て、訓練用の潰れた刃同士がぶつかり合う。
「太刀筋が正直すぎますね。対人戦の心得が無いことも原因でしょうが、武器にばかり意識がいっていることも原因でしょう」
「っ!」
スカレットは元々中距離専門の参謀系アタッカーだ。全てできるようにとは望まないが……もし主力がダウンした時の展開点として機能する程度には鍛えておかなくては。
「ちょっと、量産型だからとみくびらないで真面目にやりなさいよ! もう一度フリフリを着てみたいの?」
「!?」
……それは罰ゲームになるのだろうか。顔を赤く染めながらも、口元が歪んで口角が上がっている。
「隙あり」
「あぐっ!?」
エシルが頭を狙った的確な刺突を放つ。それを弾くとともに頭を逸らす……が、避け切れずに軽く頬に当たってしまう。
「何も躊躇うことはありません。私には激戦の時代を生き抜いた経験と、ねえ様から受け継いだ体捌きの極意があります故」
「……ええ、そうですねッ!!」
2人のせめぎ合いを、イエルロはつぶさに見ていた。瞬きをする数瞬すらも惜しいと言わんばかりに集中し、脳内でシュミレートを重ねているのだろう。いつの間にか雷光が鳩走り、静電気となって俺の肌を鳴らす。
「ハァ!」
「ッ」
うまい! 計算された仰け反りと、攻撃の隙間を縫ったかろうじての突きが届いた。
「このままッ!」
「甘いです」
エシルはそこから……武器を捨てた!? 突き出されるナイフを握る手首を掴み、後ろへ流す。たったそれだけのことであっという間に体制を崩し、深手の膝蹴りを貰う……ところで、
「そこまでですぅ!」
「ありがとうございました」
「いえいえ、痛いところなどはありますか?」
エシルが来てから、俺たちの生活は一変した。
ごちゃごちゃして散乱した部屋は綺麗に整えられ、キッチンはほぼ彼女の領域となった。
朝、美味しそうな朝食の匂いで起き、彼女を先生としての戦闘訓練を日課に組み込む。早くもアマネ隊は彼女を軸として回っていた。
「…‥違う、けど悔しい。エシルの実力は私の比じゃない。実際にやり合って勝つのは私だけど、それはスペックで凌駕しているだけに過ぎない……」
……イエルロは変わった。アスナと出会ったからではなく—————アスナがいなくなってしまったから。
「教えてエシル、その格闘術を」
「了」
「「……」」
そんな二人を苦い顔で眺めるスカレットとブルースもまた、変わってしまった。イエルロが変わってしまったから。
そして、
「頼もォォォうッッッ!!!」
「「「「「!!?」」」」」
訓練場が揺れるほどの大声量で、突如乱入してくる人物がいた。
中世チックで、それでいて煌びやかな礼服に身を包んだ2人の人影。
「
自ずとしれたAランク中位に位置する、今最も注目を浴びているチームだ。
「お前には話しかけていない。我々が用があるのは……」
「指揮官、そいつらは私の客よ」
組み手途中のイエルロが手を挙げた。
「何? 今いいところなんだけど」
「うむ! 何度でも言うぞ—————君を引き抜きに来たッッッ!!」
迫力のある声の主、キングが驚きの一言を告げる。
「うるっさ。何度も言うけど、私はここで強くなるの。あんたらに構っている暇はないわ」
「………それはそこの量産型が原因か?」
黒髪の人が声をかける。名は確か……ノイズ。
「さっさと抜けちまえよ。それ一体に時間を掛けて何になる?」
「うむ! それに言い換えれば、量産型を雇用するほど余裕がないパーティと考えることもできる! 私たちの元に来い、最上級のトレーニングが待っているぞッッッ!!」
「…………」
「イエルロ……」
引き留めることは簡単だ。でも、それが彼女のタメになるのか……?
「さっさと決めろ! そこの産廃を選ぶか、うちらと来るかッ!!」
「……………産廃?」
「あァ、量産型なんて成長もしない肉壁に何を期待している?」
「無論、量産型が弱いわけではない! しかし、彼女らが足枷となって死んでいった同胞が山ほどいることも事実!!」
彼女たちは……大真面目に事実を説いている。
「さぁ、我々と一緒に来いッッッ!!」
「うるっっっさいのよ、耳が遠いんじゃないの、おばさん?」
怒りを携えた眼で両者を睨む。
久方ぶりの二対の稲妻が、両目に現れていた。
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