第29話:アスナスペシャル
Reader-カズト
気がつけば、薄暗い石レンガ製の螺旋階段をいつまでも下っていた。
肩幅ほどの広さしかない両壁に腕を擦り付けながら、疲労感など感じることなく無心に足を落とし続けた。
ふと、これが夢なのだろうと気がつく頃、目の前に50メートルほどの廊下と、重量感がある両開きの扉があった。
おそらく、俺が気がつくまでそこにあったであろう扉を押し、中へと入る。
———〜〜〜〜〜♪
アンティークな映画館の劇場の、中央の踊り場で憂憂しげにバイオリンを鳴らす人影が一つ。
「……」
光が照らす無地のスクリーンを背景に、情熱的に、時には悲しげに全身を揺する。ヒトは本来はこうであれ、と訴えているような……
「やぁ、来たかニュービー」
「アスナ……」
「いろいろと質問をしたげだが、とりあえず場所を移そう」
スクリーン脇の非常口を弓で指して、適当な座席にバイオリンを咬ませながら、うっすらと漏れ出した光に向かう。
それに倣うように、扉をくぐった先には……これまた昔風のファーストフードショップ。その一席に、向かい合う形で座っていた。店内には俺達を除いて、人の気配は無く店員すらおらず、テーブルには作りたてだろう料理の数々が並んでいた。
「いやぁ、ザイゼリア、懐かしい。当時はビーフ100%でおなかいっぱいにしても700クレジットもしなかったんだよ?」
「……これはアスナの記憶なのか?」
その返答として、取り出した金属製スプーンで、嗜好品のチーズがたっぷりと入ったリゾットを持ち上げて口にいれる。
「うん、こんな味だった」
「ここはどこだ?」
「俺の心領域、その一片。どうしてもニュービーと話がしたくてね、無理やり引き込ませてもらったよ」
「それはいいが、話ってなんだ?」
「うん……………」
期待するような眼で俺を見るその視線がもどかしくて、口休めに黒色のグラスを傾けると、お茶らしき渋みと爽快感がある甘ったるさがミスマッチしたむかむかするような味が俺の味蕾を破壊した。
「A37スペシャル〜〜^^」
「子供かお前は!」
「にはは、冗談じょうだん。しばらく顔を見せられなくなるからね、寂しがらないかなと思って」
「それも冗談にしか聞こえないんだが?」
「うん……ニュービー、ライター」
「……はぁ」
これ一つのためにすっかり占領された左胸ポケットから、ライターを取り出し口元にかざす。
「……? どうした、火を付けないのか?」
アスナの目線は窓の外へ向かっていた。はしゃぎ回る二人の子供の姿に、誰かを重ねてしまうのはどうしてだろう。
「ニュービー、俺の妹たちを、頼んだよ」
いつの間にか紅に染まった店内、赤灰色に色付く煙草の先端。
ふぅ―――と俺の顔に煙を吐き出す顔には、無念に浮かぶ悔しげな顔と、これでいいんだという諦めがあった。
意識が……覚醒する。
何故かはわからないが、俺は外庭に向けて走っていた。
扉を開けるとドアノブを捻るが混合し、扉が開く前に体を押し付ける形になってしまう。
何度ぶつかったのかわからない。なぜこんなに焦っているのか。
ただ、急がなければアスナがどこかに消えてしまいそうな気がした。
「アスナ!!」
そこには―――――
ボロボロになった彼女がいた。
全身がえぐられたような傷跡に包まれており、身体的特徴であったシルクのような長い髪も、後れ毛を残してショートカットにされている。
何より目立つのは、腹に空いた風穴だ。致命傷になっているのか、赤黒い体液が休まること無く吹き出している。
「―――――!!!」
声にならない叫び声が施設中に響く。
だれか、誰か来てくれと願う心からの絶叫が、彼女を覚醒へと誘った。
「p―――ガ―――ッ―――それ以上叫び声を上げると、数時間は喉の痛みが取れないでしょう。指揮官たる貴方には致命的です」
「!!ッ、大丈夫か、自分の名前、言えるか!?」
「私のっ、名前は―――」
「量産型幻想少女:Licaシリーズ、A46です」
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心領域
自分の心の内、それを能力によって拡張させ攻撃する。
心傷属性
幻想少女にとってココロとは最も大事な要素である。直接干渉することでその強さを測り、勝者の力量で割合ダメージを受ける。
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