第28話:揺らぐ
互いの心領域が拡張され、ぶつかると同時に複雑に混ざり合っては反発し合い、空間の端ではコンクリートが容易く泥に至る大きさまで粒子化を進め、電子の波が仮想太陽の表面をバグらせて歪ませる。
「ッ!」
罪の影だけで十分殺し切ることができると判断したからだ。そうして力の奔流に飲まれ、思考以外の全てを凍結されて、全ての決着を見守るのだった。
「ふっ!!」
「……」
バチィィィィィン!! とエネルギー同士がせめぎ合う音が二、三度鳴る。
神の演舞と揶揄されようと、例えることすら罪深き行為だと諭されそうな程美しくも寒河にさらされ続けた鉄短刀のような冷え冷えとした殺意が満ちる。
ギャリギャリギャリギャリィィィ!!
この場では、心領域を展開しているときは能力が使えない。よって純粋な力のぶつかり合いが強制される。
なぜ伝説武器に切った張ったができるのか、それは影には有って影には無い100年間の研鑽が理由だった。
罪の影は本人の経験、癖、実力を余すことなくトレースし、過去に最強に至った状態をも再現することができる。しかし一つだけ……………その時揺らいだココロだけは神に近い力を持ってしても与えることはできない。
アスナはLicaシリーズだった。感情も無く、ただ命令を受け入れるだけの人形……のハズだった。
ほんの数瞬、刹那の間、コンマ0.00数秒。例え方はなんでもいいが、誤差と言っていい位の、しかし確実なココロの揺らぎがアスナにはあった。
Licaシリーズとして、幻想少女として最古参のA03にはなくて、アスナだけに有ったもの。
愛すべき家族の存在。それが彼女の心傷属性を際立たせ、同時に『タキオン』を展開することで小細工で負ける未来を潰し、全てを賭けて殺す。
「せぁあ!」
刀身の柄を狙った小手落とし。怯んだ隙に八方からの八連撃。吹き飛ばすことを目的とした強攻撃をお見舞いする。
少しずつ、少しずつアスナは自身の動きをずらしていた。
それは牽制であり、変化であり、攻め手であり……………誘いであった。
わざと体制を崩したふりをする。
―――俺の意識の外を行け!!
本来ならばスラスターを吹かせて上を取り、下に重心を置いた敵の首を欠き切るテクニックだが、アスナはわざとデタラメに風を吹かせて、ミリ単位すれすれで強引に背後を取った。
変則的な体制からの一閃。決まるはずがなく、少し遅れた防御で防がれる。
それも許容済みだ。
「『
先程くぐり抜けた際の剣筋を―――――切断する。
「……!?」
本来であれば、心領域を発動中は能力は使用できない。
自身の領域……ココロの中に隔たれた新たなココロを創ることになり、多重人格障害になる可能性が確実と言っていいほどに高い、例外を除いて。
青年として育ち死んだ記憶、Licaとして戦場を駆け回った2つの記憶が無理難題を可能とし、実行させた。
「……はぁ」
アスナは勝った。辛勝と言っていいくらいにギリギリの戦いだった。
「はぁ……ハァ……ふぅ―――――」
息も絶え絶え、死闘を繰り広げた。
「にはは――――ごめん、ニュービー。約束、守れそうにないや」
向き合った平等者の背後には、十数体を超える俺がいた。
「さてと、一服一服〜」
胸ポケットから取り出した煙草に光剣で火を付け、擦り切れた肺に追い打ちをかけるように煙で燻して充満させる。
「……行くか」
『『『『『『『『『『
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