第27話:

「うい〜〜〜飲みすぎたぁ〜〜〜っと」


俺の名前はリュウガ・ノートン。昔は軍のそこそこ偉い立場にいたらしいんだが……いまは会社勤めのしがないサラリーマンさ。


らしいというのは、俺にはその記憶が無いからだ。何か問題を起こして追い出されたらしいが、所詮覚えていない過去のことなので、冤罪だろうが追求する気もしない。


「……? 今向こうが光t」


瞬間、目の前の地形がえぐれ、地盤が露出し垂直上に位置していた店は全て思い出の詰まった残骸へと姿を変えた。


「ヤベェな……こりゃ」


荷物とくたびれたジャケットを路肩に置くと、救助活動に移行する。


この町で何が起こってるんだ?






◇◇◇◇◇






Reader-アスナ


出し惜しみは無しだ。


「加速しろ、俺だけの世界、『超越タキ


眼帯を外そうとした瞬間、俺の偽物に蹴られ、音を置き去りにしながらぶっ飛ばされる。


「ごふっ、……タキ」

「……ッ」


再び眼帯を外すことを試みるが、阻害されてゴム毬のように地面を転がる。


そして、平等者バランサーは手元にある茶封筒の中身を読み上げる。


「貴女の能力を発動させるには眼帯を外さなければいけない。それは普段左眼にあるリアクターにエネルギーを貯蔵し続け、肝心な時に解放するため。罪の一つである量産型の呪縛への介入も、左眼を使っていれば両手とも無事で済んだかもね」


これが彼女の厄介なところ。

公平な判断をするという目的で、彼女に被告人の情報が入った封筒が配布される。幸い転生者であることは書かれていなかったようだが……


「うるさい」


斬撃破を飛ばし牽制するが、全く同じ攻撃が影から飛び、相殺される。


「モード蒼、『延々』

「……………」


無限に続くかと錯覚させる地割れすら合わせられ、硬直に痛い反撃をもらう。


「かふっ」

「……」

「こッ………のっ!!」


光剣同士を重ね、殺陣合おうとするが……!?


「なっ!?」


エネルギー刃が中程から断ち切られ、肩の表皮を薄く抉られてしまう。


「出力で負けた。そしてまさかまさかの………『クレシューズ』かよっ!!」


厄介なところパート2ー。


被告人がどれだけ罪深いかを理解らせるため、自分が思う最強の自分と戦わせられるハメになる。


「くそっ!」


研ぎ澄ませた空間刃を無尽蔵に飛ばし続けるが、触れた端から消滅し効力を失っていく。


「———ッ!!」


斬撃が右頬をかすめ耳まで割く。


クレシューズの能力は心傷分解だ。触れたもの全てを原子に至るまで焼き焦がす。


モロに当たったら誇張なしでマジの即死、背筋が凍りつくどころの騒ぎではない。対抗するには同じだけの想像力か同じく心傷属性を纏ったレジェンダリーウェポンしかない。


エクスカリバー、グングニル、ロンギヌス。


神器と呼称される武具と同等と噂されるほど圧倒的武力。神器下ろしの祭具と呼ばれるにふさわしい性能に死を覚悟する。


「いい加減諦めて、おいしいパンケーキのお店が始まっちゃう」


平等者からやじが飛び、顔を掠めて建物を貫く。


長期化する戦闘の中で、だんだんと俺の意識は遠ざかり、深淵へと落ちていく……






◇◇◇◇◇






「しつこい」

「はぁ……………ハァ……………」

「諦めた方が早く楽になれる」

「にはは、俺はッ、ハッピーエンドが好きなんだ」

「あなたのせいでそれが叶わないかもしれない。それだけ私たちS級殲滅者の存在は果てしないものだし、一人で一ヶ月あれば主な戦争は終わらせることができる。ならその後は? 私たちが介入しなくなった地上で、食べ残しを恵んでくれる頂点がいなくなったら、羽虫はどうやって生きるの?」

「あんたと俺のスタンスの違いだな。あんたが平等を求め正すものなら、俺は少しづつ歪んだ理を否定し導くものだ。どちらも世界の意思には違いないよ」


上がらない四肢を順々に眺めながら、悟ったように優しく語りかける。


「音が合っているかなんて誰にもわからないんだ、ドレミファソラシドだって決めた人の好みでしかない。受け継がれていく中で反オクターブ下がっているかもしれない。だけどな、正しくたってなかったって一つだけ、唯一無二の不変があるんだよ。


それは……………」






ハラリ……と、左の視野が開け、両目が露出する。


「地道な研鑽こそ人類の叡智だ。ぽっと出の俺たちがノブレスオブリージュを語るんじゃねえよ」

「!!? いつの間に!?」

「忘れたのか? わざわざ攻撃してきてくれてありがとうございます。あとは顔を擦り付けるなりなんなりして引きちぎるだけだ」

「あの光線で?」


瞬間、予備の四肢を召喚するイメージで蘇生し、コストとして量産型の両手足1本づつと馬鹿にならない量のエネルギーを消費するが……これは全て俺自身から賄っており、左眼は今だにフルのままだ。


「よう偽物、一勝負といこうじゃないか」


「……!」





ドクン……ドクン……………ドクンッ!!























「『超越加速タキオン』」     「『………… タキオン』」

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