第26話:影

簡潔に、混乱するような知識を省き、違和感がないように一部改変を交えつつ、オルターならば消化できる最大限の量の出来事を話した。


バーナテヴィルに襲撃を受けたこと。


名前も知らない女性職員に廃棄処分されたこと。


脳メモリーの再起動で混濁する意識の中、流れに流れてDr.Fの実験施設に辿り着いたこと。


「そこで……この眼を見つけた」


左目の眼帯を取り外し、両目を露出させる。


「紫色の瞳……Licaは本来緑色じゃ、未発見の遺産か?」

「……席を移そうか」


通りがかったウエイターに金を握らせ、更に奥の席に案内してもらう。


「Dr.Fの遺産No.4だよ。能力は―――ってところかな」

「オートマ3つに応用の効くマニュアルかの。その口ぶりなら、まだあるのじゃろう?」

「あぁ、この眼は……………未来を見透かす」


そういうことにする。この後原作知識を披露しても違和感がないようにしなければいけない。その点、OYSの空間を司る能力はめっぽう相性がいい。例えば―――


「そこのウエイター、今から左ポケットにしまい込む金に意識がいって盛大に転ぶ。俺の右後ろ先で猫が鳴く。店長が焼き鳥のサービス。452」


バレないようにOYSを起動。わざわざ左手に渡したから、すぐ隠したかったら左ポケットに入れる。あとは足元の空気を固定してつまずかせてばいい。


「うおっ!?」


―――ガッシャァァン


「何してんだ!」

「すみません、何かにつまずいて!」


猫。これはあのときの案内黒猫にお願いして、合図をしたら鳴いてもらう。


―――にゃーん


よしよし、あとでまた食べ物を持っていこう。


「オルター様、本日もよくお越しいただきました」

「……………いやいや、予約も無しにいきなり来て悪かった」

「いえ、こちらサービスの焼き鳥です。オルター様がこの店の仕入れ網を整えてくださったからこその贅沢ですよ」


「……こんな細かくわかるのか?」

「いまのが特別だっただけ。この店に来ることもわかっていた」


原作知識で店の名前、そこから電話番号を調べてを流す。


もちろんここだけでは無い。オルターが関わったすべての店に同じようにし、もしオルターが選ばなかったらその日だけ大繁盛するように仕向けてある。まぁ、オルターが選んだのなら普段から人気だろうが。


ヨルヤミ猫の名前には俺の匂いをたどってもらえばいいしね。


「452とは何じゃ?」

「今は関係ない、話を続けよう。俺が見える未来はある人物の未来が基軸となって動いている、それが―――」

「天音和人、というわけじゃな?」

「正解、天音和人の部隊は人類の希望だ。でも、俺が見る未来はいつだってバットエンド。アイツラにはもっと強くなってもらう、イエルロみたいにね」

「それも未来視で見た光景か?」

「いんや? あれは本当に予想外の進化だ。今の経過を聞かせてくれ」

「本人に副作用などは無い、強いて言えば全身の痙攣と筋肉痛くらいじゃ。あと、両瞳に点対称の稲妻印が浮かび上がった。お主のことを師匠と慕っておったぞ」

「弟子に取ったつもりはないね。ニュービー、和人は?」

「此度の試練で更に強くなったぞ。少数精鋭部隊、和人自身も攻撃に参加した事態で更に効果があったようじゃ。それと……伝言じゃ」



、とな」

「へぇ……じゃあ返歌を頼むよ」




「俺より長生きしたら考えてやるよ……ってね。大将、お勘定!」

「わしが払う、いくらじゃ?」

「◯◯◯◯クレジットです」

「それじゃ、一万から」

「はい、お釣りが452クレジットです」

「……」


その時のオルターのしてやられたという表情は、一生の宝ものになるだろう。






◇◇◇◇◇






「お疲れ〜〜〜」

「なーん」


足元にヨルヤミがすり寄ってくる、可愛い。


「いやぁ、犬派なんだけどな、猫もかわいい」


……

………

…………………


「お前、俺と一緒に来るかい? もちろん、子供も一緒にね」

「……なーん」


ヨルヤミが後方に向けて鳴き声を飛ばす。


紫、赤、白の服を身にまとっているのにまとまりがあり、一つのファッションとして成り立っている。無表情で、糸目ではなく目を閉じている横線も含めて一つの彫刻のようだ。


「……先に行ってな」

「なーん」


「さて……」


こめかみから冷や汗が垂れ、心臓が高鳴り耳の中で弾ける。


震える両手がバレないように深呼吸……


「俺になんか用か?」

「……………罪人、Lica-A37。平等者バランサーの名において裁きを下す」

「……結構早かったな」


腰元に隠していたファントムソードを取り、戦闘準備を整える。


そうして、平等者と、発生した調律者に向かって振り抜くのだった。

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