第22話:アガれ

雷光の残像が閃き、天地逆転の姿勢から繰り出される高速の蹴りが、クロノのこめかみに突き刺さる……ところで、手の甲で防がれる。


「……」


でも、なぜだろう……


連撃に次ぐ乱撃に上半身を大きく揺らしながら対応するクロノを見て、余裕がなくなってきていると確信する。


———当たる。


「『雷神ノ鉄槌トールド・ノヴァ』」


亜音速の鉄槌踵落としが彼女の脳天に向けて振り下ろされる。


「———!!」


両腕を使って防ぎ切ろうと試みるクロノ。おそらく無駄な抵抗に終わることだろう。


「にはっ!」


トン……と指先が落下中の私の足に触れる。


トン、トトン、トトトトトトトトト———


音と同じ速度のはずなのに、更に彼女の方が速い。接触するたびに確実に威力が殺されて———!!


「……かっ……ふっ!!?」

「イメージ不足だね、その程度じゃ俺を殺せない!」


まだ……足りないのッ!!?


「例えば自分が直接的に強者だと想像できるもの。龍とかゼウスとか千鳥とか? とにかくそこら辺の何かしらをイメージしろ。

このままじゃ流石につまらない、興が冷めると言っていいよ」


あくびを噛み殺しながら、膝を立てる私の肩を叩く。


「くだらないなぁ……イエルロくん?」


うるさいわね、やってやるわよイメージ……!






「……『霊廟:麒麟』!!」


再び戦闘のボルテージが上がる。舞い散る吹雪のカケラ一つ一つに反応し、鋭い閃光の元蒸発する。


「でぇーーーきたわよッ!!」

「にはははは! それ最高!!」


あたり一帯に広がる電極のカタマリ。全てから致死量のアンペアを誇る落雷がバチを下す。その全てを躱され、それを想定して頭目掛けてフルスイングで振り抜く。


勿論、対応されてぶっ飛ばされるのはワタシ! でもこんなに楽しいの!


まだアガる! もっとナラせ!!


全身の回路が悲鳴をあげ、皮膚を這い周り蒸気が吹き出す。


———関係ない!!


踏み出そうとした足が上がらず、一瞬で片膝を付く。


———それがどうした!?


今はただ、この空気感が心地よい。自分の限界を超えて上り詰めるこの感覚ゥ! 上がれ上がれ上がれ上がれ上がれ上がれアガれアガれアガれアガれアガれアガれアガれアガれアガれアガれアガれアガれェッ!!


「キタキタキタキタ、脊髄から脳天までビビッと走る電撃! 今の私が一番サイキョー!!」


———ここであんたを超える!!


無意識のうちに誓った言動に従い、全身が雷のロングコートに包まれていく。


「はあぁぁぁァァアァァァアア!!」


そして、私はファントムソードを構える。


決着—————!!
























「……流石の俺でも危うかったな」


交差する剣撃の中、最後まで立っていたのはクロノだった。脇に抱えられた私は、悔しさの中……目標とする人を見つけたと、納得の心中に落ちる。


「次、誰が来るよ?」


この中で、一番ニンゲンらしいのは、彼女だった。


そして私は、一生をかけて彼女を超えることを目標にするのだ。

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