第20話:よーいドン

Reader-カズト


「それで、グリエル1人じゃないだろう?」

「ええ、紹介しますわ……アムリカ、いらっしゃい」


クローゼットの影に隠れていた、全身を黒で包んだ小柄な少女。言うまでもなく幻想少女だが、少しだけ違和感を感じた。


「その子、もしかして量産型じゃないか?」

「えぇ、量産型幻想少女Emmaシリーズ、私の妹です」

「……なるほど」


彼女がここに来た理由がわかった気がした。


「アムリカ、よろしく」

「宜しくお願いします、指揮官」


Emmaシリーズは本来、迷彩を得意とした遊撃部隊だ。雪山でこの姿はさぞ目立つだろうに……


まだ、妹を諦めていないんだな。


「会えるといいな、アスナに」

「ええ……そろそろ雪目が切れます。行動しましょう」


彼女の瞳には、真っ直ぐ姉妹での未来を見据え、必ず叶えると誓う心があった。






◇◇◇◇◇






「大丈夫か、みんなッ!?」


目的地まで後少しと言ったところ、目標の洞窟から爆発音が響き、情けないがグリエルにおぶってもらいながら現場に駆けつける。


「報告、今の爆発により洞窟が埋まる可能性、6%です」

「ありがとう。このまま急行するわ」

「俺のことはいい、先に行ってくれ」


重荷をおろした事で速力を増したグリエルは、すぐに洞窟の影に身を潜らせた。アムリカとともに背中を追う。


「!! イエルロ!」


満身創痍のイエルロの前に、庇うかのように立つグリエルの姿が。相対している敵の姿は……!?


「アスナ……!?」

「よう、ニュービー。ほうけた面してんなよ、戦場だぞ?」


躊躇いなく瓦礫を弾として発射してくる姿に困惑して判断が遅れる。横から放たれた銃弾で破壊された破片が顔に当たるまでは。


「しっかりしなさいよ! こうなった時点で割り切りなさい、クロノは黒! なんでか知らないけど楽園に仇をなす敵だってね!!」


信じられない。彼女はオルターの……


『あとは任せるぞ』

「あぁ」


バーナデヴィルに話しかけられ、何事もないかのように返す彼女を見て、本当の事実だと悟った。


「グリエル」

「わかってますわ」


スカレットとブルースは未だ未到着、イエルロはもう戦えない。残念だが、今切ることができるカードはグリエルしかいない。


「顕現しろ、私の魂。『霊心左手ミスティックハンド』」






◇◇◇◇◇






Reader-アスナ


「『霊心左手ミスティックハンド』」


さてさて、バーナテヴィルにお願いされたし、しますかね。


彼女の後ろに展開された、全長2メートル半に達しそうな巨大さを誇る半透明な両手。


正直言って、彼女の相手はあまりやりたくない。


「モード『くろ』『黒穴:斥』」


足元の瓦礫を引き寄せ、ランダムなタイミングで弾き飛ばすが、全て巨大な手で防がれてしまう。


「はぁぁあッ!!」


グーパンチされた左手にファントムブレードを合わせて反撃する……が、


「ッ……!」


レーザーをし、大きく吹き飛ばされる。


これがとても厄介。左手の任意の部位の当たり判定を、彼女のタイミングで変更できる。

先ほどは剣をすり抜けたのち、物体化させたと言うわけだ。


能力だけでもA級に上り詰めるほどの実力は伊達じゃないと言うわけか。


ならば。


自身の周り1メートルにエリアを展開し、円柱状に上に伸ばしていく。天井を突き抜け、空に達したかといったところで……


「……………嘘だろ」


ニュービーの絶望する声が聞こえるが関係ない。

俺のエリアの縁と接触している岩を切り離し、させて外の空気が入ってきたところで固定する。


洞窟の中で吹雪が舞い荒れて、ミスティクハンドの外角がよーくわかるようになった。


「まずいッ!」


今更引っ込めてももう遅い。左手の人差し指から手首まで一直線に切り抜く。


「ッ!!」


グリエルの左腕に血の線が走り、出血によりグロさが増す。


「『黒穴:引』」

「—————え?」


離脱中のイエルロを引き寄せ能力で拘束、腹部に左手を当てて耳元で囁く。


「20秒後に俺の能力でお前の腹を抉り取る」

「———ッ! ———ッ!」


知らない幻想少女が俺に向けて発砲してくるが、全て透明な壁で阻まれる。誰だあいつ、量産型か?


「イメージしろ、五体満足で生存できるイメージだ。お前より俺のイメージがより鮮明であればあるほど死へと近づくことになるぞ。あと8秒、5、4、3、2、1—————」


途端、イエルロは自由の身となり、俺の左手を弾き飛ばす。


「……………やるじゃん」


思わず口元がにやけ、にははと笑い声が漏れる。


スペアのファントムブレードを展開、地面に向けて投げ渡し、こちらも構える。


「この戦い、もし俺が勝ったら……いや、御託はいいか」


彼女の覚悟を悟り、すぐに勝負へと移行する。


「はい、よーいドンッ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る