第19話:裏切りが先か、契りが先か。

あれから数時間、私とクロノのチェイスは今も続いていた。

もはや私自身の体力が続かず、空気の排泄と吸収を繰り返し、心だけで両足を支えている状態だった。


「……にひひ」


そんな私を眺め、楽しそうな声をあげるクロノ。一発殴りたいが、この体力ではかすりもしないし、万全な状態でも躱された挙げ句手痛い反撃をもらうことだろう。


「そろそろ行くぞー」

「ま———って、もうエネルギーがッ」


……今、私はなんと言った? 言い訳をしたのか?


「ん〜? やらせてる俺が言えたもんじゃないけどさぁ、焦んなよ?」


背中に片手を置かれ、抵抗しようと思うが体が動かない。莫大なエネルギーの奔流を一身に受け止め、再び動ける分の体力を取り戻した。


「……今のは」

「俺のエネルギーを与えた。本来なら十一トイチと言いたいところだが、チャラにしてやるよ」


そして、見てろと言い、足元に埋もれていた小石を十数個拾い上げると、おもむろに両手の中で転がし始めた。

その行為はすぐに空中間の出来事になり、目にも止まらぬ速さで両手を行き来する小石郡。

トップスピードに達したその速度は、ぱっと見何も変わらないように見えたが、若干の緩急が見てとれた。


「ただでさえ雪山だからな」

「……それってどう言う」

「行くぞ」


またしても一瞬で私を突き放す。必死に背中を追うが、さっきとまるで一緒だ。


「……??」


掠れる思考の中、さっき見せてくれた行動の意味を必死に考える。


『—————ただでさえ雪山だからな』


疲労感に促され、思わず下を向いてしまうと、先導者の足跡が確認できた。


隣につけた私のよりも、もっと深く押し固められているような……


「……そう言うこと?」


咄嗟の思いつきで、体の動きにメリハリをつけてみる。


踏み込みは深く。


呼吸は浅く広く。


肩の動きでリズムを取り、


雪に足を取られないように素早く。


歯車がかみ合わさったかのような感覚。徐々に背中へと追いついていく。


クロノはそんな私を見て微笑んだかと思うと、少しだけ速度を上げた。






◇◇◇◇◇






「ヒュ———ッ!! ヒュ———ッ!! カァァッ!!」

「お疲れさん。どうやら急ぎすぎたみたいだな」


そのまま雪に倒れ込んでしまう。


「しばらく休んでろ。俺はこの先に用があるんでな」

「わ、たしッ、も゛!!」

「あぁ、はいはい連れてってやるよ」


首後ろの襟を捕まれ、そのまま引きずられる。

側から見れば、猫の親子のような光景であったが、すぐに緊張を取り戻すことになる、


『……………遅かったな』

「バーナテヴィル!!?」


黒い兵装を身に纏った魔王が君臨していた。


『なんだそいつは』

「拾った。特に差し支えはないよ」


なぜクロノ・ホワイトはこいつと親しげに会話をしている?


……違う、クロノは初めから私たちの味方じゃなかった。バーナテヴィルについて調べさせたのも、面と向かって彼と接触したいから。


「っ!」


回復した両足で、圧倒的強者向き合う。


『蝿がたかっているぞ』

「すぐに見えなくなるさ」

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