第12話:舌足らずの少女

『弱い』


「……くそッ!」


戦闘によって巻き起こる衝撃波、そのうちの強力な一つに地に伏せられ、細かな乱撃で泥に塗れてゆく。


「はぁ……はぁ……ま、まだ行けます、指揮官」

「下がりなさいスカレット! こいつは私が倒すの」

「あらあらぁ、意見が割れてしまいましたねぇ、それでは三人で行きますか」


命をかけて彼女たちが戦っている。俺はただ見ているだけしかできていない。


『まだ立ち上がるか……どうやら、引き時と言う言葉をらしいなお前らの全てをかけても、俺を倒すことは叶わないだろう。降伏しろ』


ブラックメタル合金に身を包み、俺の身長ほどの大剣を片手で振るほどの圧倒的強さ、まさに魔王。そんな化け物と相対するのは3人の狙撃者、そこに姿


「———ぉおッ!」


立て、立ち上がれ! 諦めるな!! 最後まで勇敢なる者に希望を与えろ、死に行く者より貴女に敬礼を!!


「ブルース、お前の盾に全てを賭ける! 次の攻撃を死ぬ気で耐えろ! スカレットは演算共有で少しでも生還出来る可能性が高い盾の角度をギリギリまで求め続けろ、! イエルロ! お前の能力が頼りだ、とびっきりの決死の一撃ストライクをお見舞いしてやれ!!」

「指揮官!? それでは———!」


あぁ、わかっている。幻想少女、その中でもトップに立つ演算能力を持つスカレットに意識を共有して、後遺症が残らないはずがない。


それでも—————!!


「死ぬよりはましだ! 生きてればなんとかなる!!」


俺は全身全霊で軍隊規律死して繋ぐ精神に逆らう。

伸びてきた拡張コードを、一瞬の躊躇いの後首横に突き刺す。冷え冷えとした金属に熱を吸い取られる感覚を感じながら、震える喉を抑え、凛とした声で宣戦布告する。


「まさか、避けるなんてことはしないよなぁ」

『…‥愚か、しかしいい目をしている。いいだろう、この機体での本気をぶつけてやる』


高密度のエネルギー体が黒剣の刀身に満ちる。


「演算、開始します!」

「がァッ! ァァァア!」


脳の随までしゃぶり尽くされると錯覚するほどの鋭い頭痛、締め付けられるような圧迫感ッ!


「耐えッ——ロ!」

『行くぞ……『地走天斬チバシアマタチ』!!!』

「拒絶しろッ、私の心! 『反射纏装パリィコート』ッ!!!」

「———ァア!!!」


拒絶の壁に、天をも断つ大地の奔流が激突し、確実に纏装を削ってゆく。それを耐え抜くため演算を続けるスカレット、身体中の毛細血管から血を流し耐える俺。


「わっ、私も「だめだ! お前は俺たちが倒れてもエネルギー圧縮を止めるな!!」……ぁ、ッ! ええ、わかったわよ!!」


そうだ、それでいい。ラスト気張るぞッ!






「ほう、面白いことやっておるの。どうかわしも混ぜてもらえぬか?」

「え?」


不意に、横から舌足らずの物言いで幼い声が聞こえる。


「ほれ、ニンゲンの頭脳ではすぐに焼き切れてしまうぞ、わしに貸しなさい」


俺の首に刺していたプラグを抜き取ると、自身の手首に突き刺し共有を始める。


「……………え?」


スカレットから困惑の声が聞こえた……と同時に———!!


「—————ハァァア!!」


いとも容易たやすく最強の必殺技を弾き飛ばした。


この少女は一体……!?


『……………予想外の珍客が入ったな。楽園パラディーソ1の切れ者であり、幻想少女30人分の頭脳を持つ、よ』

「ほう、わしのことを知っておったか。やはり、楽園の中に裏切り者がおるな、速やかに炙り出さねば」

「オルター……!?」


子供の御伽話に出てくる、あの『知神降ろしのオルター』か!?


「なせ、ここに」

「そりゃあな、お主たちに尋ねたいことがあったからじゃ。お主が出会ったLicaについて聞きたいのじゃが……」

『俺の前で雑談など、いい度胸をしているな』

「それはこっちのセリフじゃ。今からお主はこの部隊の最高火力を受けることになるのだぞ?」


バチバチバチィィィ!! と雷鳴が鳴るような音が轟く。


「……わしと同じ、神降ろしと呼ばれるやもしれぬ一撃。まだ拙いところはあるが、確実にこの隊の成長を促すであろう」


全身に電流を流し、その姿が歪むほどのエネルギーを限界まで溜め込む。


「喰らいなさい愚かな人形。これが……………雷神の一撃よ!!」


その気迫に思わず防御体制をとる魔王。


「唸れ……ッ! 私を人間たらしめる魂よッ!『雷神ノ鉄片トールド・スパーク』!!」


まさしく決死の弾丸が放たれ、頭上に構えられた2本の腕を貫き、脳天に着弾した。


「まだよッ!」


その時、魔王を中心とした半径2メートルに、天の代弁と言うべき落雷がくだった。


—————ダァァァ!! キ—————ン——


直撃したと同時に、轟音が鳴り吸収しきれなかった音が耳鳴りとなって脳を揺らす。


「せいぜい死になさい、跡形も、残ら……ず……」

「イエルロ!」


体の限界が来たのか、急に倒れるちっぽけな体の少女。


まさしく、この場で一番人間らしかったのは彼女だった。


「……終わった」


彼女の言う通り、跡形もなく———











『確かに、今のはやばかったな』


「「「「!!??」」」」

「やはりまだ生きておったか」

『あぁ、とは言え、ほぼ死に体だがな』

「にはは、十分であろう。この場にいる我々を殺すには」

『そうとも限らない。オルター、あんたはなかなか苦労しそうだ』

「これでも年の功があるのでな、やすやすと殺される訳にゃいかんよ」


両者の中で火花が散る―――――!!




「おい、どこのどいつ? 俺の進行方向の前に廃材ゴミを捨てたのは」


第二の乱入者の登場、彼女が発する威圧感に静まり返るこの場。


「クロノ……ホワイト……」

『ほう、あいつが……』


明らかな実力者の登場に誰も彼女もが出方を見定める。


しかし、


「なぜ……なぜお前が………ッ! ッ!!」


オルターだけが疑問を呈していた。


======================================

幻想少女の戦力(標準がC)


Licaシリーズ

破壊力 C

機動力 C

耐久力 C

射程距離 A〜D

持続力 C

精密動作 C

成長力 E

経験 B


一般幻想少女

破壊力 C〜A

機動力 D〜A

耐久力 C〜A

射程距離 D〜A

持続力 C〜A

精密動作 B

成長力 C〜B

経験 C


スカレット

破壊力 C

機動力 B

耐久力 C

射程距離 A

持続力 B

精密動作 S

成長力 A

経験 B


ブルース

破壊力 C

機動力 C

耐久力 S

射程距離 B

持続力 A

精密動作 B

成長力 A

経験 B


イエルロ

破壊力 A or S

機動力 A

耐久力 C

射程距離 C or B

持続力 C

精密動作 C

成長力 S+

経験 D


オルター

破壊力 A

機動力 A

耐久力 B

射程距離 A

持続力 B

精密動作 SS

成長力 S

経験 SS+


A37(現役)

破壊力 A

機動力 A

耐久力 C

射程距離 C

持続力 C

精密動作 A

成長力 C

経験 SS+


A37

破壊力 S+

機動力 SS

耐久力 C

射程距離 C〜A

持続力 D

精密動作 S+

成長力 B

経験 SS+


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る