第11話:死体は紫煙を燻らせ何を思う……

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『おらッ!』

「……!」


双方の上段蹴りが交差し、辺りに衝撃波を発生させる。

その余波でたちまち吹き飛ばされてしまう機械人形たち。流石にここまで減ると作戦の実行は不可能という判断か。


『いい反応してるぜ、これならどうだ!』


人型の背部から無数の銃火器が展開され、全ての頭がこちら側を向いている。


『洒落てるデザインにしてやるよ!』

「モード『あお』、『隔離世かくりよへき』」


展開したがその全てを受け止め、指弾きの合図とともに地に落ちていく。


『ヒュー! やるねぇ!』

「どーも」

『バーナテヴィルの奴から聞いた情報、それと見た感じ、してんのか? それがお前の能力だ。名付けるなら『対物理思考アンチパーシャルシンキング』ってわけだ!』

「それはどうかなッ!」


どうやら最初に俺が殲滅した機械人形(5話参照)が記録していた情報を見たらしい。数少ない手の内の一つがバレるのはよろしくなかったなぁ!


「モード『くろ』」


ファントムソードを背に隠し、右手の銃で牽制しながら接近する。逆手に隠した刀身を振り抜き喉に当て、相手が躱したところを更に蹴りで追撃する。


『おっっっふ……! 相当のやり手だな、あんた。さっきの発言訂正するよ。ただ……』


機械に表情はないはずだが、明らかに俺の目には笑みで歪んだ顔が見える。


『さっきまでの大業、使ってこねえっつうことは、何か使えねえ理由があんだろ。消耗が激しいとか、さっきまでの戦いで限界が来た、とかな』


奴の言っていることは概ね正しい。ただ、大技を一発ぶちこめるほどの余力はある『と考えてやがんだろ?』


俺の思考に被せるように声を続ける具現人形者。


『今の俺の装甲なら、さっきの流派やら空間の歪みやら、極太レーザーを受けても軽傷で済む。それどころか、お前の必殺技の『超越加速タキオン』でさえ受け止められる自信があるぜ?』


その一言に、一瞬固まってしまう。


『ラッキーだったぜ、流石にフルのお前と戦ったらこっちがまずいことになってたからな。まぁ、せいぜい頑張れや』

「……」


あいつと俺の決定的違い、それはだ。

具現人形者アバターはその名の通りにすぎない。本体は遠くの、帝国の塀の中で意識を機械に移し、うたた寝しているだけに過ぎない。

無論、フィードバック精神的反動こそあれど、全治1ヶ月かそこらで完治するだろう。


この戦い、そもそも両者でベッドし賭けているチップの数が違う。勝っても負けても、懐が痛むことはあれど、破産することはないだろう。


















その油断につけ込む。


「あぁ、そうだな絶望的だ。俺は勝敗がどうであれ多くの物を失うことになる」

『お、やっと気づいたか。お前さえ良ければ、こっち側帝国軍に入れるように打診してやろうか? いっぱいいるぜ、この国を裏切って他国に亡命したやつなんて』

「魅力のカケラも感じないね、もっと心踊るようなお誘いをしてくれないとワルツを踏む以前の問題だ。相手が唆らないのでは躊躇なく赤ワインを被せるよ、俺は」

三拍子ワルツじゃあ盛り上がらねえな、せめて四拍子POPソングじゃあねえと!!』


隙を見せた俺につけ込むように、弾幕という音を掻き鳴らす具現人形者。思惑通り、強制的に変拍子のリズムを取らされる俺。段々と余裕がなくなってゆくこの舞台、勝つのは最後まで音を出し続けた演奏家戦闘者


まだだ……まだだ……………まだ……!


『やってみろ、使えよ『タキオン』!! お前の全てを受け止めた上で完ッッッ全に否定してやる!』

「やだよ、ブァァァカ!!」


冷却コート起動! 発動を知らせるようにロングコートのふちが空色に染まる。


『来るか大業! 受け切ってやるよ!!』

「これで———終わりだッ!!」


奴が俺の全身全霊を受けようと防御姿勢に入る。一番の弱点である頭部と心臓を護り、カウンターを決めるために。


あぁ、認めてやるよ。確かに俺の必殺技ではお前を倒せない……






















、な!


「モード『あお空地くうち』 モード『くろ黒穴くろあなイン』ッ!!」


再び空を我が物とし、音速爆音ソニックブームが出るほどの速度で落下、黒穴で引っ張り、一気に相手との距離を詰めて行く。


『またそれか! そろそろネタ切れか!? そんなちゃちな攻撃、俺には———』

「モード『あお』—————




次元斬ソラタチ』」


刃が強固な装甲を通り抜け、まるで全てが元のままだった。


『なッ、なんだよ、びびらせやがっt——え?』

「そして、正夢いづ……………」


俺が能力を解除した瞬間、先ほどの軌道をなぞるように二手に別れ、亡き別れになる具現人形。


『お前……ッ! 何をした!!??』

んだよ。もっとも、お前を、ではないけどね」




「俺の能力は『私だけの空ザ・ワールド』。俺が望む範囲に仮想の世界を生成し、現実に干渉することで能力を発揮する。さっきのは、その能力で生み出した世界で、お前と同軸の空間を斬った。そのフィードバックが現実になったんだ」

『あ、有り得ねえ!! なら時を止める技はどうやったんだよ!』

「簡単な話だよ、を望み、作り出せばいい」

『そ、そんな出鱈目で俺様がッ! ……ふふ、ガハハハ! でもお前はもう終わった! 俺がお前の情報を伝えればすぐに討伐隊が「無理だよ」……は?』


冷酷な目で這いずる目の前のニンゲンを見下ろす。


「無理なんだ、俺が願ってしまったからね」




「ここで起こったことは、

『……………は?』

「それに、この世界には俺以上の化け物が7人は存在している。俺だけ倒しても攻め落とすのは無理だろうね。冥土の土産に、いいことを教えてやるよ」


目の前から立ち上がり、武器を展開する。


「S級殲滅者スレイヤーの称号を与えられたのは俺を含めて全8体。その一体一体に、彼女を彼女たらしめる異名が付いている。『破壊者デストロイヤー』しかり、『演劇者エンターテイナー』もね。俺の異名は……………


調律者トゥナー』」


眼前に剣先を突きつけ、高らかに名乗る。


「俺は『調律者トゥナー時計弄りの白クロノ・ホワイト』。お前が相手をしていたのは、この世界の意思そのモノだ」


『くく、ククク! 世界の代弁者と来たか! なら俺は世界にやられたんだ、これ以上の名誉は無え! ……煙草、持ってるかぁ?』


歪んだ形の煙草を無造作に口元に突っ込み、ライターで火をつける。


『……なんも感じねぇな』

「戦闘用ロボだろ? 味覚なんてあってどうする」

『違いねぇ……最後に一つだけ、もう一度万全なあんたと戦いたかった』

「覚えといてあげるよ、名前何?」

『今更かよ……バァラディ、バァラディ・ライオスだ』

「じぁあなバァラディ、また来世は共に背中を向き合えるように、精々地獄でいい子にしてるんだぞ」

『来世があるとか信じてるのか? 世界さんは随分と…‥ロマンチストだ………な……』


「……あったよ、少なくとも俺には」


もう動かない抜け殻を丁重に埋葬し、絶賛戦っているであろうニュービーの援護に向かう。


「流石に因果に無理があったか? 思考回路がショートしそうだ……」


墓標がわりに突き立てた石碑を見る。


「憎めないやつだったよ、お前」

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