第33話 国盗り
―― 同時刻 街外れの荒屋
「それで、ちゃんと聞こえてるわけ?」
適当に毛先を遊ばせながら、半信半疑なリリーが小さな石に向かって話しかけた。
『……ん』
「ん、じゃないでしょ。聞こえてるならちゃんと返事しなさい」
『テメェに俺の声が聞こえるってことは、俺の近くにいる誰かにも聞こえちまうってことだマヌケ。こんな道具を使ってやるだけでも妥協に妥協をしてやった結果なんだからな。テメェら指示役は、俺に返事を求めるな。自分はただ指示をするだけのロボットだと思え』
「ロボットぉ? ロボットってな~にぃ?」
『うるさい、黙れ、○ね』
「アンタが○になさいよ、バーカ」
通信用の魔道具越しでも言い争いをやめない二人を背後から眺めていたハーグマンが、「この二人で本当に大丈夫なのかい?」とアメリアに尋ねた。
「大丈夫です、いつもこのように仲がよろしいのですよ。では時間もございませんし、早速始めましょう。皆さん、準備はよろしいですね?」
全てを雑に総括したアメリアは、これからさも巨大戦艦でも操縦するかのように、リリーの手元にある石へ向かって「行きなさいカワズ!」と命じた。前時代のロボットアニメかよと前世の悲哀を感じながらトボトボ歩き出したカワズは、他の三人を荒屋に残し、手にした地図を辿りながらひとり城下の街を進んだ。
「では手はず通り、まずは情報収集です。敵のアジトとお城へゴーですの!」
『へぇへぇ……』
「へぇへぇじゃありません、何をトロトロしていらっしゃるのですか。走るんですよ、ダッシュダッシュ!」
『はへ!?』
「今この瞬間にも、叔父様が酷い目にあっているかもしれないのですよ。走るのです、さぁ急いで!」
『いや、人使い荒すぎるでしょ……』
言葉のムチをバシバシ打たれ、夜間に潜入した賊のアジトへと戻ったカワズだったが、既に賊連中は姿を消した後でもぬけの殻だった。しかしタイミングよく、
「お嬢様、あまり楽しんでいる時間はないと思いますが」
「ですわね、ハーグマン様。では始めましょう、カワズ様、
背負っていたリュックを床に下ろして中を探ったカワズは、両手に収まるほどの小さな箱を取り出し、アジト最奥の間の中央に設置した。
『アメリア様、これをどうすれば?』
「箱をお開きになって、真ん中の窪みに触れながら少し魔力を込めていただけますか」
『箱を開いて窪みに触れながら魔力を込める、と。次は?』
「通信用の魔石を箱の上に置いて、少し離れていてくださる?」
魔力が充填され、微かな光を放つ箱に対し、アメリアが魔道具越しに詠唱を開始する。箱は次第に光量を増し、続いて部屋全体へピンク色の靄が広がり包んでいく。
妖しさ1000%な幻惑魔法の雰囲気に飲まれたカワズは、オドオドしながら鼻と口を指で摘み、いつでも周囲の変化に対応できるよう準備を整えた。
「カワズ様よろしいですか、そろそろ始まるはずです」
『始まるって、何がです?』
「見ていればわかりますよ、ウフフ」
辺りを包んでいた靄が、光に吸収され消えていく。かと思えば、今度はこれまで見えていた靄が幻だったかのように、あるはずのない光景が広がり始めた。 カワズは止めていた息を「ブー!」と吹き出し、見開いた目を何度も擦った。
『な、なんですか、これ……?』
無人になってから動きのなかったアジト内に、突然多数の男たちが現れ、慌ただしく動き回っている。ぶつからないようすぐに部屋の端に寄ったカワズに、「大丈夫ですよ」と不敵に呟くアメリアの言葉に顔が歪んだ。
『な、なんじゃコレは!?』
「凄いでしょう。これこそハーグマン様が生み出した、嫌がらせの中の嫌がらせ専用魔道具、" 過去を覗いちゃうぞさん " です!」
『過去を、覗いちゃうぞ、……さん?』
「そーです。この箱はその名のとーり、一定の範囲内で起こった過去のやり取りや出来事を、自由に見聞きできてしまうという画期的な魔道具なのです。どうです、凄いでしょう!?」
カワズは試しに行き交う人たちへ手を伸ばしてみた。
透過した人間の列は、そのまま彼の身体を無視するように通り過ぎていった。
「"覗いちゃうぞさん" は、過去一週間くらいの期間であれば、その場所で起こった出来事を自由に見ることができてしまいます。どうだ、えっへん!」
『と、とんだ嫌がらせ道具ですこと。それで、俺はどうすれば?』
「まずは賊の皆様がどう動くかを知りたいところですね。そちらに騒動の中心となりそうな人物はいらっしゃいますか?」
アジトの面々を目で追ったカワズは、メンバーの中心となりそうな人物を探した。すると一際人相が悪く、面々を指示している者がいることに気付いた。
『いますよ。なんだかゴツくてでっかい奴が』
「ではその人物のことを強く思い浮かべながら、もう一度箱に魔力を込めてみてください。その人物にピックアップされた時間へ飛べるはずです」
言われるまま男の顔を眺めながら箱に魔力を込めたカワズは、早送りのように進んでいく周囲の光景に目を回しつつ、引き続き始まったシーンを部屋の隅に腰掛けながら見つめた。
《 いいかテメェら。今回のことは遊びじゃねぇ。……戦争だ! 》
男が賊のメンバーを煽るところから始まった一連のホログラムは、つらつらと計画を並び立てるものではなく、賊各自の行動に関する最終確認を行うものだった。そのため細かな計画までは不明だったものの、男が発した最後の言葉で、四人は同時に息を飲むことになる。
《 目標は国盗り。奴らを皆殺しにし、この国をいただく 》
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