第26話 俺はいつも思うんだ
「こうなったら、アタシたちで犯人捕まえて無実を証明するしかないわ。名付けて、"
ぐつぐつ煮え滾るようなやる気を見せ、リリーが男たちの背中を追って飛び出した。『妖精族は
「アイツら、どこ行くつもりかしら」
「知らんし。……俺はいつも思うんだ。物語で主人公や脇キャラが尾行をするとき、よくこの手の会話をするけど、本当に必要なのだろうか?」
「アンタは気にならないわけ? そもそもこの世に無駄な会話なんて存在しないの、覚えときなさい」
「……お前との会話、ずっと無駄じゃん」
「うるさいわね。ちょっと待って、アイツら、あそこに入ってくわ。アタシたちも追いましょう」
城下の外れに建てられた石造りニ階建ての古い荒屋に二人組が入っていく。
扉に耳をあて、中の様子を探りながらリリーが手招きした。しかし扉の目前まで進んだものの、そこから動く様子がないカワズは、早くしなさいと引っ張る妖精の手をパチンと叩き落とした。
「なにしてんのよ、早く追うわよ!」
「こっから先は無理」
「どうしてよ、アタシたちも入らなきゃ、中の様子がわからないじゃない!」
「……どうやって入んのよ?」
「扉を開けて入るに決まってるでしょ」
「誰が? どうやって?」
「それは、……アタシとアンタがよ」
「だからどうやって?」
「扉を消せばいいじゃない」
「お前さ、さっきの話ちゃんと聞いてたか?」
「うっ、……だったら静かに扉を開けて入るのよ」
「扉の後ろに人がいたらどうすんの。勝手に開いたら、入ったのバレるじゃん」
「…………でもでも、それは入ってみないとわからないわけで」
「バレてからじゃ遅いじゃん。さてはお前、生粋のバカだな?」
「ムキー、いいからどうにかして忍び込む方法考えるのよ。こうしてる間にも、奴ら逃げちゃうんだから!」
「さっき身を隠すって言ってたじゃん。ここがアジトなら逃げるわけなくね。さてはお前、真性のバカだな?」
「アンタはいちいち一言多いのよ! だったらアタシが中の様子を見てくるから、大丈夫そうなら扉を開けてよね。それで良い!?」
バカの相手は疲れるなぁと適当に頷くカワズの態度に苛つきながら、リリーは飛び上がって二階の窓から中の様子を窺った。二階に人の気配はなく、室内に繋がる煙突から侵入を試みた。
「アイツ、やっぱ本物のバカなのかな。さっき自分で扉から入るって言ってたのに煙突から入ってるし。なんならそのまま一人で中の様子探ればいいし。もっと言えば、そもそもアイツ飛べるんだから、さっさと飛んで街出ればいいし。うん、やっぱバカだな」
呆れ果て、ため息つきながらしばし扉の横で小休止。
しかしすぐに中からドカドカ音が聞こえてくる。
「何かいるぞ」という声をきっかけに煙突から飛び出したリリーは、「どうしてアタシを止めないのよ!?」と理不尽な怒りを彼にぶつけるのだった。
「不用心もここまで行くと清々しさすら感じさせるなぁ。これからは可哀想で不憫な子だと思って接することにするね」
「ちょっと羽根の先を見られちゃっただけ、それだけなの! でもそのかわり、中の様子はわかったわよ。大丈夫よ、奴ら固まって奥の部屋に待機してるみたい」
「そこまでわかったら、もう侵入する必要ないじゃん。待ってりゃそのうち出てくるって。食料の調達とかで」
「そうはいかないわ。こういうのは、見事に侵入し、奴らの魂胆を暴き、最後に全員を捕まえてこそよ、そうに決まってる!」
「……お前さ、実は面白がってないか」
「アタシはいつだって大真面目よ」と返答した不憫な子を、カワズは生暖かい目で見つめた。その後も「早く開けてよ」と可哀想な子がうるさいため、彼は仕方なく扉を開けた。
「なんだ……? な、と、扉がひとりでに。まさか衛兵の奴らか!?」
扉を開けた二秒後、中で見張りについていた男が「警戒!」と声を荒げた。
「どこが大丈夫なんだよ」と迂闊で可哀想すぎる妖精さんを睨みつけるが、当の本人は <テヘッ♪> っと舌を出して誤魔化すだけだった。
「なんだ、デカい声を出すな」
奥から現れた別の長髪の男が見張りの男に釘を差した。しかしすぐに異変に気付き、舌打ちしてから「早すぎる。想定外だ」と呟く。
壁際に身を隠して衛兵の突入を警戒した男たちは、武器を手に、ゴクリと息を飲む。その間に侵入したカワズは、壁にもたれながら欠伸し、賊の様子を眺めていた。
「どうなってんだ? 外の奴ら、動きがないが……」
「そんな馬鹿な。扉が勝手に開いたんだぞ!?」
「ちっ、俺たちの油断を突く気だ。畜生め、奴らの
外には誰もいませんよと手を振り、一連のやり取りをハラハラしながら見入っていた残念な妖精の頭を小突き、奥を指さす。本来の目的を思い出し「急ぐわよ」と先導するリリーに続き、カワズは尻をボリボリ掻きながら背の低い扉をくぐった。
外観からは想像できなかった細く長い廊下を抜けると、上階へ繋がる階段と、地下へと続く階段に突き当たった。なぜか二階へ向かおうとするリリーの羽根を摘み、カワズは面倒くさそうに階段を下った。
「こ、この先に一体何が」
「知らんし。だから、この会話本当に必要か?」
「当たり前でしょ。ヒーローがいよいよ敵のアジトに潜入するのよ。緊張感高めないでどうするのよ」
「……お前さ、やっぱわざとやってるだろ。最後の最後に裏切る悪役演じてんのか?」
「……?」
リリーが心底不思議そうに眉をひそめた。
全ての会話がアホらしくなり、脳をシャットアウトしたカワズは、注意散漫漂う妖精を掴まえ、さっさと目的の部屋を目指すのだった。
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