第27話 名にかけて
地下には怪しげな部屋が幾つか存在したが、カワズは
「はい、ここ。間違いなくここ」
「こ、ここが奴らの本陣なのね……」
「これからどうすんだよ。流石にこれ開けるわけにはいかんだろ」
「うーん、中には入れないし、どうしようかしら。こうなったら強引に……」
「やめれ」
しかし事態が動く時というものは、自然と流れが起こるものでーー
上階の異変に勘付いたのか、物々しい物音が聞こえ始め、二人は慌てて扉から離れて身構えた。
『 準備を急げ! 』
男たちの怒号とともに扉が開き、武装した集団が姿を現した。
ぶつからぬように壁際でやり過ごした二人は、壁と同化し、賊をやり過ごした。
「あ、あ、危なかったぁ。それにしたって、こんな近くにいたのにどうしてバレないのよ、ホントに意味わかんない!」
リリーがブツクサ文句を言いながら額の汗を拭ったところで、背後の扉が唐突に開いた。驚きすぎて壁に頭を強打した妖精を眺めながら、カワズは「一人コントなのか?」と呆れていた。
「ちっ、喧しいったらない。本当に使えない奴らめ」
中から現れた
男は気怠そうに頭を掻き、身に付けた鎧を直しながら、出発の準備をしていた。その横では、二人が目をビー玉のように飛び出させながら、驚愕し、はぅぁぅっと、くしゃくしゃな顔をさらに歪めていた。
「ね、ねぇアイツ、アタシたちのギルド証を確認した門兵じゃない!?」
トーンが上ずったリリーの口を指先で隠しながら、カワズは下唇を噛み、「うんにゃ」と答えた。その男は確かに城門で二人の身分確認を行った兵の一人だった。
「ど、どうしよう。これって、衛兵の中にも裏切り者がいるってことよね!?」
先に出ていった賊を気怠そうに追っていった門兵の背中を見つめたまま、二人は複雑に絡み始めた事態に困惑していた。
うーんと悩みながら、カワズはこれまでの経緯を加味し、恐らくこういうことではないかと一つの仮説を立てた。
「どうやら門の大男が言ってたとおり、裏切り者が城内へ侵入しようとしてたのは間違いないみたいだな」
「なにそれ、でもどうやって?」
「あそこに並んでたとき、前で揉め事を起こした奴らいたよな。アイツら、多分最初から騒ぎを起こすことが目的だったんじゃないかな」
「え、偶然じゃなかったってこと!?」
「揉めてる隙に乗じて、門兵が賊の仲間を通す手筈になってたんじゃないかな。しかし俺たちが疑われたせいで、奴らは労せず街に入ることができた。そんなとこだろ」
「なによそれ、ズルいじゃない!」
「しかしそうなってくると今回の誘拐事件が単なる金目的って線も怪しくなってくるな。奴ら、城の関係者とも結託して、もっと悪いこと企ててるんじゃないのか」
「それ、ちょっとヤバくない!?」
「詳しいことは知らんけど、一つ明らかなことがある」
「なによ、さっさと教えなさいよ!」
カワズは額にシワを寄せ、至極単純な結論を述べた。
「俺たちがこうしてる間にもだ。奴らが事件を起こせば起こすほど、俺らの罪は濡れ衣補正で無尽蔵に膨らんでいくってことだ!」
「バ、バカな……」と劇画調に絶句したリリーは、いよいよ身に降りかかる現実に絶望し、なぜこうなったと頭を抱えた。
「もはやこうなってしまった以上、ジッとしてはいられない。我々はどうにか奴らの悪事を暴かなくてはならないのだ!」
偶然とはいえ、自分たちという格好の生け贄が存在している以上、賊たちが二人を利用しない手はない。賊が二人を材料にして動くことは確実で、このまま何もせず放置することは、反対に問題を大きくしてしまうことにほかならない。
「……やるしかないのだ。我々二人の手で!!(クワワッ)」
同じく劇画調に拳を握りしめたカワズは、どうやら外の確認を終えて戻ってきた賊を眺めながら、解決までの道筋を考えた。
どうすれば自分たちの罪を無きものにしつつ、全てを賊に
「こうなったらやってやるぜ。○ッチャンの名にかけて!」
「え? 誰って?」
「粒立てるな。そこはスルー推奨だ」
「は? イミフなんですけど……。で、どうするのよ」
通り過ぎていく賊を横目に腕組みしたカワズは、ゴゴゴゴと背中に紫色の炎を
「まずは………… 飯の調達だ!!」
腹が減っては戦はできぬ。
うむうむと男は頷く。
その後、彼の頬に小さなグーパンが刺さったことは言うまでもない。
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