第22話 一度見た悪党の顔は忘れない
「いい加減にしやがれ、インチキ門兵ども。なんで俺様たちが街に入れないんだ。きっちり説明しやがれ!」
怒号の正体は、入国を拒否された冒険者が門兵と揉めていたからだった。
無法者を入れることはできないと門を閉ざした兵に食って掛かった冒険者数名は、背負っていた武器を握り、因縁をつけていた。
「よぉよぉ、俺たちがなにしたってんだ。こうしてはるばるバングルくんだりまできてやったんだぜ。むしろ歓迎してほしいくらいなんだけど、……なぁ!」
難癖つけていた冒険者の一人が、突然門兵に斬りかかった。不意を突かれて倒れた兵を足蹴にし、「さっさと門を開けやがれ!」と煽る冒険者は、たじろぐ他の兵を威圧しながら、手にした剣先を差し向けた。
「ひどい、いきなり斬りつけるなんて!」
憤ったリリーが助けに入ろうとした直後、城門横の小扉が開き、「何事だ」という低い男の声が聞こえてきた。
短い赤髪、素肌に肩当てと大剣のみというシンプルな見た目で現れたガチムチ大柄な声の主は、身動き取れない門兵、武器を構えて迫る無法者、状況を見守る整列者それぞれを見定めてから、瞬時に状況を判断し、気怠そうにため息をつく。そしてーー
「無駄な仕事増やしてくれるな。俺ぁこうみえて忙しいんだ、三下冒険者風情が」
へらへら上機嫌に笑っていた冒険者との距離を一気に詰め、短剣でも操るように巨大な太刀を握った男は、地を這うほど低い位置から一閃する。反応する間もなく不意を突かれた冒険者は、声を出す暇すらなく弾かれ、次の瞬間には空を舞っていた。
「はへ?」
仲間の姿が消えたことにも気付けず、二人目、三人目の冒険者も一瞬にして斬り伏せられ、残った一人がようやく反応し、恐怖からか尻餅をついた。
抵抗できずにやられてしまった事実を受け入れられず「バカな」と呟くが、頭上で構えている大男の剣の腹が、無情にも無法者の脳天へと振り下ろされた。
ドゴッという鈍い音が鳴り終わる間もおかず、大剣を器用に回して背負い直した大男は、倒れた門兵に
「凄いよアイツ、一瞬で五人を倒しちゃった。誰なんだろう、街の冒険者かしら?」
「知らん。興味ない」
「興味もてし。そんなこと言ってると、次は我が身なんだからね」
「なんでだよ。この善良すぎる男の子に向かって失礼な」
などと無駄口を叩いていると、不意に殺気を込めた視線が人々へと向けられた。リリーが「ヒェッ」と身を屈めた直後、二人の真横を鋭利な刃物が通過し飛んでいった。
「グアッ!」という悲鳴が後方から聞こえ、バタリと誰かが倒れた。そこには背中にナイフが突き刺さった残党らしき冒険者が倒れており、自分が狙われたと内心ドキドキしていたリリーとカワズは、ビクビク小刻みに震えていた。
「逃げられると思うな、賞金首。俺ぁ、一度見た悪党の顔は忘れねぇんだ」
場の全員が大男の迫力に圧倒され、ゴクリと息を飲む。カワズなどは、ボリュームの大きすぎる男の殺意にやられ、少しだけ下半身を濡らしていた。
「ふーん、アイツらお尋ね者だったんだ。それにしても凄いわね、あの大男。あんなのに目を付けられたら生きてる心地がしないわよ」
珍しく激しく同意したカワズは、これ以上面倒事には関わらず、こんな街さっさと通過しようと提案した。これまた珍しく同意したリリーも、大人しく目立たず行きましょうと帯を締め直した。
入国の審査が再開され、列をなしていた人々が安堵する。どうやら衛兵たちの責任者らしい大男は、そのまま門前に残り、入国を待つ人々の顔を見つめていた。しかしその眼光はあまりにも鋭く、並ぶ人々は蛇に睨まれた蛙のように縮み上がり、ただ静かにその時を待つしかなかった。
列が
しばらくすると、何事もなく「どうぞ」と声をかけられて安堵した。
しかし、
―― おい
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