第16話 脳内キャッシュディスペンサー
「にゃ、にゃんですとー!?」
驚きすぎて猫語になったカワズが仰け反ってへたり込んだ。
ようやく事の重大さに気付いたかと、呆れて額に手を置くランドは、項垂れるリリーに語りかけた。
「この話、どこまで
「公にできるはずないでしょ。今回のことだって、アイテムのことがなければ他種族のアナタたちになんか話してたまるもんですか」
「賢明だな。……もしこの事実が世に知れれば、たちまち世界がひっくり返る。なにより嬢ちゃんたち自身の身も危なくなる」
「え、なんで、どーしてなの。おせーて?」
「これまで当たり前に存在してきた祝福という力が、この世から消えてなくなるんだぞ。そんなことになれば、考えられる流れは一つしかない。……力の奪い合いが始まる」
「力の、……奪い合い?」
「妖精王が死ぬ前に、妖精を抱え込み、祝福の力を独り占めしようって輩が現れるだろうな。当然、方法も一つしかない」
「まさか……、強引に手にいれるってことじゃないよな!? 最悪じゃねぇか」
「最悪なんだよ。ってことで、バカなライルズ(カワズ)にも理解できたな。……なら、どうにかするしかないよな?」
話を押し切らんとランドが彼を凝視する。しかし
「いや……、待ってくれ。なにより、それとこれとは話が違うのではなかろうか。現に、まだ今はその祝福ってのが使えるわけで、道具も作れる。なにより俺がやらなきゃいけない理由が見当たらん。よって却下だ、拒否する!」
上半身の服を脱ぎ、入ってもいない背中の桜吹雪を見せつけたカワズは、歌舞伎役者のように見栄をきり宣言した。
「……テメェ、あとどれだけ借金があると思ってる?」
「しゃ、借金、で、ございましゅか。ひ、卑怯な、また金を人質にするのか、こ、この人でなし!」
「いくらだと聞いてる。答えろ」
「……金貨二十一枚分、……でしゅ」
「チャラにしてやる。それでも不服か?」
「ちゃ、CHARA、ですって? ええと、どうしましょう、急にそんなこと言われても、アチシ困っちゃうわ」
「やるか、やらんのか、決めろ」
「ふ、ふ~んだ。そ、その手にはのってやらないんだからね。アンタがそんな条件突き付けてくるってことは、相当ヤバイ山ってことアタイわかってるんだもんね、そうに決まってるもん。絶対いやだもんねー!」
「……なら条件を変えてやる。彼女をカイエンまで連れて戻れ。それだけでいい」
「う~ん? たったそれだけ? それで借金全部チャラ? そ、それくらいなら、まぁ考えないでも……」
カイエンまでの行路と借金の額とを示し合わせ、脳内キャッシュディスペンサーをカシャカシャ操作したカワズは、より単純に、そしてより短絡的に、そしてより簡単に結論を導き出した。
「連れて帰るくらいなら、やってやらなくもない、な~んて♪(ラッキー)」
「決まりだな。てことで、嬢ちゃん。悪いがコイツと一緒にカイエンまで同行してもらう。当然それまでの時間で解決する他の方法を探してもらう。残念だが、禁呪は簡単には使わせねぇ。俺たちの身のためにもな」
「…………」
「不服なのはわかる。アンタらが切羽詰まってるのも理解はする。しかし、アンタら一族だけの問題でないことも見えちまった。なによりそんなヤバい手を使う気でいると知っちまったら、勝手はさせられねぇよ。とくれば、結論は一つだ」
「結論?」
「カイエンへ戻るまでに、解決策を見つけ出せ。カイエンは東の果ての果て、到着するにもそれなりに時間がかかる。だったらほかに良い方法が見つかるかもしれん。このバカも同行することだし、何より毛をくれてやる交換条件だと思ってくれればいい」
「どういうつもりか知らないけど、そんな条件を出しても無駄よ。結果は変わらないわ」
「無駄かどうかはやってみなきゃわからんぜ。世の中な、想定外ってものは案外変なところに転がってるもんだ。なぁ、ライルズよ?」
カワズに話を振り、ランドは不敵に笑みを浮かべる。カワズは気味が悪くなって、すぐに顔をしかめて視線をそらした。
「何より嬢ちゃんには死んでもらっちゃ困るんだ。代金も貰わぬうちに死なれたとあっちゃあ、商売上がったりだ」
「……いいわ。でも一つ先に断っておくね。悪いけど、アタシがこのバカと最後まで行動するなんて思わないことね。足手まといと行動するのは御免なの」
「カッチーン、それこっちのセリフなんですけど。おいジジイ、だったら俺が先にコイツを撒いてやるぜ、いいだろ!?」
スパーンと脳天に特大の一撃をお見舞いしたランドは、「それじゃ成立しねぇだろ」と笑顔なく言った。そしてようやくまとまった条件をまとめるべく、カウンターに肩肘をつき、それらしく呟いた。
「交渉成立だな。ライルズは金のため、嬢ちゃんは仲間のため、そして俺は世界の平穏と秩序のため、俺がお前らの旅を " 祝福 " してやる。ありがたく思えよ、マヌケども」
「「 余計なお世話! 」」
妖精族と転生者の声が田舎の山肌を抜けていく。
ガハガハ笑っている男の声だけが、いつまでも上機嫌に響くのであった――
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