彼と出会って

「君は、俺と同じ種類の人間だ。」

 彼は端的にそう断じた。私にとって、その言葉は相当に堪えた。

「……君は、親が居ないのかい?」

「いや居る。とてもいい親だ。こんな糞みたいな人間に対して、真っ当な生きる道を提示し、その進路に就くまで自由にしてやるという長大なモラトリアムを与え、そして何より愛という不可欠の褒章を無条件で提供してくれる。だが、君と同じ、俺にはそれを享受するに足る感受性が無い。」

 ここは【討議部】。いわゆるディベート部の一種であるが、現状部員は彼だけ。ここには私と彼しかいなかった。そして、この会話は、私が自分の生い立ちを簡単に話した後、彼が示した感想だ。

「俺は、正直話し相手は必要ないと思っていた。今でも、ほとんどはその旨を肯定している。だが、君とならば、有意義な討論が出来得ると直感的に判断できる。久々だ。ここまで気分が高揚するのは。」

 倒置法を日常会話で使ってくる奴に碌な奴は居ないが、確かに彼は自分と同じ臭いがした。砂臭い、硝煙の香り。紅涙滴る戦場で、自分自身は何も感じない、ただ生きることに執着するでもなく、端的に惰性で人生の道を歩み続けていくだけの、人間。

「……入部しよう。同志、名前は?」

「俺は豊若〔とよわか〕不占〔しめず〕。ここの長だ。歓迎しよう、仕合〔しあわせ〕夜月。有意義な時間を過ごせることを祈ろう。」

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彼の影を追って HerrHirsch @HerrHirsch

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