愛しみと悲しみ
児童養護施設というのは、愛を知っている人間にはなかなか厳しい場所だ。それはあそこに行って3日で私が一人暮らしを選んだ理由。
あの日、私は最後の家族を失って、決意した。私も、報道カメラマンになる、と。
あの人の影を追うことがこの空虚な心を埋めてくれるんじゃなかろうかと、中学を卒業した直後に彼の地元、石造〔いしづく〕町へ行った。田舎というよりは郊外のニュータウンという感じで、住みいい街だ。
でもこの一月近く、私の心の空虚さは増すばかりだった。理由は、彼がいないこと。高校に入っても、それは変わらず、すでに他界していた彼の両親と、そして彼の墓に、毎日拝みに行っては、流す涙の量も日に日に減っていった。
勉強で苦労してはいない。正直、この学校のレベルよりもずっと頭はいいと自負している。だけど、授業を聞く気になれない。次第に抑鬱的になり、やがて登校もしなくなった。
彼の遺産は、人が一人生きて行くには十分だった。カメラマンになるという意思も、次第に薄れ、怠惰に同じような生活を繰り返すだけの日々。精神科の先生には、
「社会性の欠如だね。君は根っこが真面目だから、他人との関わりをメリットデメリットで考えているんだと思う。正直君のその性格を直すのは難しいから、まぁ男でもこさえて仕舞えば一番なんだけれどね。」
と言われた。男…男か。
「本当は無理して学校に行かせるのは嫌なんだけれど、あえて言うね。部活動に入って、自分がいいと思える人間を探しなさい。授業の方はあまり気にしないでもいい。とにかく、君を真っ向から肯定できる存在が必要だ。」
その言葉を受けた私は、取り敢えず片っ端から部活という部活に入り、相応しい人を探した。
だが、正直よそよそしさが気に掛かって皆当てはまらなかった。最後に、彼と出会うまでは。
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