第二話:ミスリル製調理器具とズコット

「何か足りないものはないか?」


 魔王様にそう聞かれ、私は暫し思案する。

 オーブンや冷凍、冷蔵庫などの電化製品は魔術の力を常設しているため、温度管理が細かく設定出来てかなり重宝していている。

 多種多様に取り揃えられていた計量器具は、文字や単位が分からずちょっと難しいが、元世界の計量カップと同じ大きさのコップと大さじくらいのスプーンと少し小さめの匙を菓子作り専用に使って、小麦粉が百グラムの箇所へ印を入れ、大さじより一寸ちょっと小さい匙でバター十五グラムの目安に使ったりしているので、何とかなっている。


 ただ泡立て器は、木の棒に凸凹の付いた不思議な形の突起を付けたものなので、なかなか泡立たないのが難点だ。

 ボウルも、木で出来た深めのお皿は深さがちょっと足らず、やはり泡立てるのに時間が掛かる。

 あとは、出来ればスポンジを深めの型で焼きたいし、クッキーも、見栄え用に使える色々な型抜が欲しい。他にも、専用型がいるものや、丸型や四角型のサイズ違いなど、もっと色々欲しいかな。


 というわけで、他にも色々ありそうだと素直にいってみると、作れそうなものを製造技師に相談するので、今欲しいものの特徴をあげるようにといわれる。

 そんなわけで取り敢えず、詳しく説明出来そうなものをあれこれと説明し、色々とお願いしてしまった。

 制作出来次第、順に渡してくれるとのことだ。かなりワクワクが止まらない。


 そしてここに、調理器具のボウルと泡立て器がある。

 作りたて第一号だ。

 すり鉢状の薄いボウルに、金属を細長く紐状にして組んだ泡立て器は、キラキラと白銀の輝きを放っている。

 銀の輝きを持ち、鋼を凌ぐ強さなのに銅のように打ち伸ばせ、ガラスのように磨けて黒ずむことがない上に、軽いという逸品であった。


「わあ! 綺麗なボウルとホイッパーですね!」

「使い方を聞いて、金属はミスリルが最適と判断して作らせた」

「へえ、ミスリル……はあっ?!」


 ……ミスリル製、だとッッッ?!!!


 ミスリルは、ファンタジー世界において王道の金属だと、元の世界にある創作物で聞きかじっている。

 問題はその、稀少性だ。

 この世界では割とよく取れる金属なのかと思ったが、やはりそうではないらしく。かなりの稀少金属であることが分かった。

 そんなもので調理器具を作らせるほどの菓子に対する想いには、若干引いてしまう。


 ツメで傷を付けようとしてもビクともしないその強度と、見た目よりかなり軽いその特性は、確かに調理器具に相応しい金属ともいえる。


 ……稀少価値を考えなければ。

 ……うん、考えるのは止めよう。相手は魔王様だ。


 複雑な思いでボウルと泡立て器を見つめる私を余所に、魔王様は執務室へと帰っていく。


 ちなみにここは、私にあてがわれた私室だ。

 家具をロココ調で揃えられた、かなり広い空間である。

 天蓋付きベッドや繊細な彫り物で装飾されたタンスやテーブルなど、広すぎるわファンシー過ぎるわで落ち着かない。


 そのため、私はボウルと泡立て器を握り、厨房へと移動する。

 中世ヨーロッパ調の厨房には、いつの間にやら私専用の場所が設けられ、オーブンや冷蔵庫なども幾つか専用のものが置かれており、様々な器具、それに収納棚まで完備されていた。

 確かに広大な厨房ではあるが、専用の場所とか作られるとやはり身の置き所がないが、お菓子作りに没頭し始めれば大した問題ではない。


 私は調理台にボウルと泡立て器を置き、何を作るか思案にふける。

 クッキーだけでなく、ムースもいたくお気に召された魔王様は、私に作れる菓子を全て作れ、と所望した。

 一気には無理なので、一日一個以上と条件を付けたら快諾されたので、結構自由に作られる。

 それ以外の時間も『魔王城領内から出ない』という条件付きで自由に過ごさせてもらえているので、私はかなり果報者かもしれない。


「……そういや、今日はクリスマスイブだっけ」


 昨晩、私室でポケットに入っていた携帯を確認したところ、一二月二三日を示していた。

 案の定圏外ではあったが、日付や時間が分かるのは少々有り難い。

 一日の時間も同じくらいのようで、何だか安心した。


 ともかく。イブと知ってしまった以上、何かそれっぽいものを作りたい気もする。


 クリスマスケーキといえば、何だろう?

 定番のブッシュ・ド・ノエルかアイスケーキか、ショートケーキかチョコケーキか、それとも外国っぽい場所らしくクランセカーケかヘクセンハウスか、ロスコン・デ・レジェスかパブロバか……


「……折角だし、スポンジが作れるか試してみるか」


 ベーキングパウダーという食品添加物がない上に、材料の特徴が似ていても基本的性質が異なるかもしれないこの世界、上手く膨らむか分からない。

 その為、多少スポンジが失敗しても大丈夫そうなお菓子を作ることにした。


 私はオーブンを二百度で予熱(二百度余熱何分と考えながら手をかざすとそのように動いてくれる、便利な機械だ)し、小麦粉と砂糖をふるいに掛ける。


 スポンジ型はまだないので、肉を焼く鉄板を丹念に磨き、肉臭かったりすると困るので、念の為に魔術で浄化してもらう。魔術、便利すぎ。

 卵をよーく混ぜ、そこに砂糖を少しずつ入れながら更に混ぜ合わせる。

 もったりしたら粉を少し上からふるい入れ、ザックリと混ぜたら鉄板に流し入れて十分ほど焼く。


「すいませ~ん! チョコ……苦くてコクのある……種子を発酵させて乾燥してから、焙じて潰したものってありますか?」

「???」


 私はシロップおじさんにチョコの存在を尋ねるが、いまいち伝わらないようで、シロップおじさんは首を傾げて悩み込んでいる。


 以前聞いてみた話だが、この世界はお菓子が全くないわけではないそうだ。

 ただ、メインは果物で、それをあまり加工しないらしい。

 硬いパンをコーヒーっぽい物に浸して食べるとか、乾燥した果物をかじるとか、そんなところらしい。

 だから、菓子作りという言葉が通じなかったようだ。

 料理は結構凝ったものまで出てくるので、技術的には可能なのだろう。何だか勿体ない話だ。

 そんなわけで、お菓子に使うものを説明するのが難しい。

 カカオの実を加工したチョコレートなど、ある可能性が殆どなさそうだ。

 コーヒーっぽいものがあるということは、豆を全く使わないわけではないと思うが、コーヒーっぽいからといって、豆であるかどうかも分からない。


 私も、チョコを知らない人に伝える難しさを痛感しながら、チョコの特性を上げていく。


「えーと……、……もしかしたら、薬系に属するかもですが……コクがあって苦すぎるけど、甘くすると美味しいです」


 薬が苦いのは、ごく普通のことだ。

 その中からカカオを探すのは至難の業かもしれない。

 上手く説明出来ない己がもどかしい。


「あと……苦いけど、油分が多くて……香ばしい感じで、香りは甘いけど苦い……」


 語彙力のなさのせいか、説明の限界を感じる。

 そもそも、さっきから『苦い』ばっかりいってる気がする。

 シロップおじさんは私のつたない説明を、頷きながら一生懸命聞いてくれた。

 顎に手を置き、暫く考え込んだ後「ちょっと待ってくださいね」と私に告げ、ゆっくりと厨房の外へ歩いていく。


「……もしかしたら、これが近いかもしれないですね」


 シロップおじさんは少し大きめの瓶詰めと、小さな擂り鉢に擂り粉木棒を持って戻ってきた。

 中には黒っぽい燻製チップの木片のような、細かい欠片が沢山入っている。

 チョクラという豆の外皮や胚芽を取り除き、乾燥させて砕いたものだそうだ。


「滋養強壮の薬で『チョクラ』といいます。これをり潰して蜂蜜とお湯を入れて飲むと元気が出るんですよ。私物で申し訳ありませんが、よかったらどうぞ」


 シロップおじさんに手渡された瓶の中身を少しかじると、カリッとしてほろ苦い深いコクのナッツのようなものだった。

 後から口に広がる風味は、確かに甘味のないチョコレートだ。


「……もしかして、高級品じゃ……?」

「私が手に入れられるくらいですから、そこまでは……」


 やっぱり高いんだ!!


 あとで必ず魔王様に代わりを返却してもらうと約束し、有り難く頂いてしまう。

 シロップおじさんは「そんなことしないで気にせず使ってください」と、菩薩の微笑みを向けてくれた。


 シロップおじさん、マジ菩薩。


 これよりずっと大きなのを返そう、魔王様が。

 そして、お菓子用にも入手してもらおう、擂り鉢と擂り粉木棒こぎぼうと共に。


 若干稀少価値感覚の麻痺してきた私は再び調理台へ戻り、作業を再開させる。

 焼き上がっていたスポンジを鉄板から剥がして冷ます。


 ……うん、柔らかそうで安心した。


 冷ましてる間、前回の要領でベリームースを作る。

 スポンジを切って、ミスリル製のボウルに貼り付けるように敷き詰めていく。

 その中に苺ムースをボウル半分くらい流し入れ、スポンジで蓋をする。


 チョクラを擂り潰すとペースト状になった。


 それをちょっと舐めると、かじった時よりかなり強い苦みを感じる。

 それに牛乳と砂糖を足し、少しずつ煮ながら練っていく。


 ……大分チョコっぽくなってきた。


 結構濃いが、チョコペーストっぽい。

 ボウルでメレンゲを作る。

 木のボウルはちょっと浅めだが、泡立て器がいい感じに弾み、泡立てる時間が早くなった気がする。

 これで、今度からのバター作りが楽になるな。

 別の器に卵黄と砂糖を入れ、白っぽくなるまで混ぜる。更に別の器で生クリームを泡立てる。

 卵黄液に、作ったチョクラのペーストを入れてホイップクリームも混ぜてから、メレンゲをザックリと入れていく。

 それをミスリルのボウルに流し入れ、スポンジで蓋をする。

 これで二時間以上冷やせば、二層ムースズコットの完成だ。


 念の為、チョコムースをちょっとすくって味をみてみる。

 チョクラのペーストは少ししか入れていないが、それは甘い風味と香ばしい味わいにコクのある、ちゃんとチョコ味のムースになっていた。


 ズコットは、丸いドーム型の半解凍ケーキで、現代にあるアイスクリームの原型といわれている候補のうちの一つだそうだ。

 なので本場のは確か、凍らせてからちょっと解凍した菓子だったと思うが、現代のレシピでは半ドーム型の冷やしたお菓子が多いので、私も冷やす方にさせてもらう。


 冷やしている間は暇だったので、コンセルさんにチョクラの入手を頼んだら早速、チョクラの瓶詰めがぎっしり入っている布袋を手渡してくれた。


 仕事が早い……というか、早すぎるぞ?!


「魔王様が、ギューの乳とこれに、たっぷりの蜂蜜と砂糖を溶かしたのが好きでさ。三袋ぐらい常備してあるぞ」


 魔王様は、根っからの甘い物信者だった。

 そりゃそうか。クッキーも山盛り食べてたし。


「あんまり飲むと鼻血が出ますよっていってんのに、聞いてくれねーんだよな……」

「え?! それって迷信じゃ?!」

「? 俺はコップ一杯でもう駄目だぞ? 魔王様は一度もないけどな」


 元世界の迷信は、こちらでは本当でした……


 薬効成分に違いがあるのだろうか? ……あまり多量に使うのは止めておこう。

 ちなみに魔王様は、一日に十杯くらい飲んでいたらしい。それもドライフルーツと共に!!

 そんなに摂取すると体によくない、と止めても聞いてくれなかったそうだ。

 私の菓子で甘味欲が満たされると、あまり飲まないから助かった、と喜んでくれるのは嬉しいけど……。そこまでの甘党に満足されるのは、少々複雑だ。

 眉根を吊り上げて苦笑する私の表情に首を傾げるコンセルさんは置いておき、シロップおじさんへチョクラの瓶を五つ、手渡す。


「こ、こんなに頂けません!!」


 このチョクラがどれだけ高級品か、よく分かる反応だ。

 シロップおじさんは、顔色を青ざめさせながら両手を前にかざして頭と共にフルフルと横に振っている。

 嫌がるおじさんが可愛くて、何だか無理矢理にでも渡したくなってきた。


「ポリポリ食べても美味しいし、あって困るもんじゃないと思いますが?」

「ポッッ!! そ、そんな食べ方、出来ませんっっ!!」

「なくなったらまた魔王様に頼みますし。気にせず受け取って下さらないと、悪くなって捨てる羽目になりますよ」

「ッッ?!」

「やりすぎだぞー」


 シロップおじさんを苛める私の頭に、見兼ねたコンセルさんが苦笑しながらチョップを食らわせる。

 捨てるといった時のシロップおじさんが驚く表情は、特に可愛かった。


 ……いかん、つい、優しくしてくれているシロップおじさんに、Sっ気をお見舞いしてしまっていた。

 コンセルさん、GJグッジョブ


 私は頭をさすりながら自己反省していると、コンセルさんはちらちらと厨房の端に熱い視線を送っている。


「……それで、今日の菓子はもう出来たのか?」

「……いや、まだ冷やさないとでね。もう二時間、お待ちください」


 何を見ているのかとコンセルさんの視線の先を見てみると、何てことはない、冷蔵庫だった。

 シロップおじさんに、今日の菓子が冷蔵庫へ仕舞われたことを聞いたコンセルさんは、菓子が出るのを今か今かと待っていたらしい。

 待ち侘びてソワソワしていたコンセルさんは、私の言葉に分かりやすいぐらい落ち込んでしまう。

 何か、製作者冥利に尽きるよなー。


 それにしても『二時間』が理解されてよかった。会話が通じることと何か関係があるのだろうか?

 まあ、どっちにしても、グラムに適応していないのが残念だが。


「に、二時間だとっっ?!!」


 いつの間にか現れた魔王様が淡い水色の瞳を大きく見開き、こちらを凝視している。

 大きく開かれた瞳はゆらゆらと揺れ動き、開いたままの口を気にする風もなく立ち尽くしている。


「……私の切りが良い時間に、完成出来ないか?」


 ……何時いつだよそれ? 毎日同じ時間なのか?


 大体この厨房には、時計が見当たらない。

 もしかしたらあるのかもしれないが、私の知っている時計はない。

 だから、何時までに作れといわれてもちょっと困る。

 携帯を見るとしても、携帯の充電が出来ない以上そのうち見られなくなるし……


 ウダウダといいわけをしている私に、魔王様は自分の腕に填めていた腕時計を外し、私に手渡す。


 ……腕時計ってあるんだ、この世界。


「……毎日、十五時半に用意しろ」

「分かりましたー」


 ちょっと大きめだが、シンプルで格好いい銀の腕時計を自分の腕に巻き、文字盤を見る。


 ……あれ? 数字が違う……?! 表示方法も何か違う……!!


 文字盤らしき円形部分には奇妙な形が一面に描き乱れており、何処を見ればいいのか分からない。


「魔王様! 見方が分かりません!! てか、数字も読めません!!」

「な、何ッッ?! ……そうか、お前は異世界人だったな……」


 この世界には義務教育的な学習の場があるようで、殆どの人間はちょっとした計算と文字の読み書きが出来るらしい。

 私が異世界人であることをすっかり忘れていた魔王様は驚倒し、我に返って呟いた。


「……では、お前に家庭教師をつけるか。文字を知らないと、菓子作りに支障を来すかもしれないからな」


 魔王様の、菓子に対する一途さにはブレがない。

 私は、菓子を食べ終えた十六時から夕飯時まで、勉強することを余儀なくされた。


 ……勉強は嫌いだが、確かに文字が読めないのは困るしな。


 私は特に逆らいもせず、その場で時計の見方を魔王様に教わった。



* * *



「……そろそろ時間じゃないか?」


 時計の見方を魔王様に教わりながらそのまま執務室へ行き、応接セットのテーブルで数字の書き方を練習していた私に、魔王様が声を掛ける。

 文字を書く練習時、魔王様は部屋を彷徨うろつきながらずっと壁掛け時計と睨めっこしており、正直ちょっと鬱陶しかった。

 壁掛け時計も、奇妙な形が一面に描き乱れてるので、最初は抽象画か何かと思っていた。

 この調子だと、厨房にも掛け時計があるかもしれない。


 腕時計、どうしよう……。ま、いっか。貰ってしまえ。


「じゃ、ちょっとデコってから持って来ますんで、待っててください」

「……また、その場で食べ始めるんじゃないだろうな?」

「今回はホールケーキなんで、ここで切り分けますから。向こうでは食べないですよ」

「……なら、いい」


 前回のチーズムースでトラウマを抱えてしまった魔王様は、私が勝手に食べないことを確認し、大人しく応接セットのソファに座った。

 正直『デコって』とか『ホールケーキ』とか、意味の分からない言葉だろうけど、それでよく納得してくれていると思う。

 私は側に立っていたコンセルさんに飲み物──私のは甘くないのを切望──を頼み、厨房へと向かう。


 ボウルを平らな皿の上で引っ繰り返し、ドーム状のケーキに、ホイップしたクリームと果物を飾る。

 絞り出し袋がないため、ヘラを美味く使って要所要所に角を立ててみたら、それなりに豪勢に見えた。


「魔王様、お待たせしました」

「おお! 今日のは結構大きいな!」

「切り分けるので、魔王様だけのじゃないですよ?」

「……そ、そうか」


 一人でボウル一杯分食べるつもりだったのか……。

 皆で分けるような話を聞き、魔王様は寂しそうに俯いたが、即座に立ち直ってケーキを熟視する。

 

 ……これ一人で食べたら胸焼け起こすと思うけどな。……でもドライフルーツを茶請けに、ホットチョコが飲めるなら……大丈夫か……?

 

 とはいえ。そこまでの量は作っていないので、我慢してもらおう。

 包丁をケーキに差し込むと、魔王様とコンセルさんが小さく声を上げる。


「……これは……切るのが惜しいほどに、美しいな……」

「そうですね! 何だか勿体ないくらいですね」


 照れ笑いを浮かべて話し合う、魔王様とコンセルさん。

 あまり得意ではないデコレーションを褒められたこともあり、こっちまで照れ臭くなってきたが、気にしない振りをする。


 真っ白いドーム型のケーキ──……ズコットの断面が現れる。

 下層が茶色、上層が濃いピンクで、周りを白く覆われているケーキは、色合いも綺麗だった。

 普通の苺じゃここまで濃いピンクにならないし、見栄えは元の世界より綺麗かもしれない。


「おお!」

「ふああ!」


 魔王様の感嘆とコンセルさんの驚嘆の声が響く。

 真っ白なケーキの断面に濃い色って、ちょっと目を引くよね。


 果物の酸味ある甘さと、チョコの香ばしい苦みある甘味が合わさって、コクがある濃い甘味と酸味と苦みが調和している。

 それにスポンジのほんわりとした柔らさ、クリームのコクが口の中を駆け巡る。

 材料が無添加で新鮮そのものなのだから、どう作っても美味しいだろうけど、我ながらよく出来た。


 時折、空を仰ぎながら嘆息を吐き、我に返って無言で食べ進める魔王様とコンセルさんの様子を伺いながら、私は自画自賛しながらケーキを食べ進めた。


 ……メリークリスマス、イブ!

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