6:大掃除の結果と呼び出し
お掃除大作戦を始めて、もうひと月が経っただろうか。
性悪女の邪魔が入ったこともあったけど、徐々に掃除の効果が現れ始めた。
一部の使用人さんたちからも「頑張れよ」と応援されることも増えたけど……
(一向に綺麗になる気配がねえ! 綺麗になったそばから汚すんじゃねえよ!)
原因はわかっている。当たり前のことだとも理解している。
理解はしているんだが……
(だいぶ屋敷の中も綺麗になってきているんだからさ、少しは気にしてくれよ~)
屋敷に入る前に靴についた土をなるべく落とすだとか、床に落としたホコリも掃除するだとかさ。
できることは色々あるじゃん! そのちょっとで家の中を綺麗に保てるんだよ!?
気にかけてくれよな、ホントにもう!
俺は屋敷の掃除をしながら見回りもして、ホコリを落とすだけの掃除をする使用人にはひと吠えして注意する。
だけど、注意しても何の効果も出ないどころか、使用人たちからの不満がお嬢さまに向かってしまう。
これには俺も頭を抱えるほど悩んでいる。
お嬢さまは屋敷の状況には気がついているため、俺に注意するわけにもいかないし、庇うようなこともできず、同じように悩んでいるようだ。
リリーだけは俺の意図を理解してくれているため、最近は床にホコリを落とした後も掃除をしている。
だが、周囲からは無駄なことをしているとしか見えないらしく、リリーの掃除態度が悪いと評価されてしまい、陰口をたたかれるという最悪な状況だ。
俺たちを応援してくれる人たちはそんなリリーを庇おうとしてくれるのだが、その行為に対して説明ができないので、徐々に声が小さくなっていく。
侍女長と執事長たちはこれに対して何も言わないので、屋敷の現状に気付いているとは思う。
本来は上が通達してどうにかするべきことなのだが、土足文化という固定概念があるせいで、どうにも方針を決めかねているらしい。
一度説明をする必要があるのだが、俺は喋れないし、リリーだと言葉に力がない。
かといって、お嬢さまが口を出すと「ペットに甘い」なんて評価になってしまう。
だが、この八方塞がりの中、心強い味方が現れてくれた。
驚くことにそれは料理長さんだ。
彼も綺麗になり始めた屋敷の状態には気がついていたようで、使用人たちに料理を出しながら、俺たちに向かうはずの不満や愚痴を聞くという形で彼らをコントロールしていたらしい。
さらに料理長さんはリリーとも話すことで現状を正しく理解して、侍女長と執事長に直接話を通すというミラクルプレイまでやってくれたんだ。
上が話し合って方針を決めたことで、掃除の仕方が大きく変わっていく。
それは商人のような屋敷に出入りする人たちにも及んだ。
屋敷に入る前には靴の土をなるべく落としてもらう。
土を落としてもらうことで、屋敷の中が汚れることは減った。
商人たちの店でも行われるようになったのだが、それは俺には関係ないことだ。
孤立無援の中ずっと頑張り続けたリリーに対しては、上司の二人が直接謝罪して、協力してくれた料理長さんとともに給料が少し増えたそうだ。
もちろん、彼らはお嬢さまにも謝罪していたよ。
ただ、お嬢さまは「ありがとう」と、あっさりとした感謝をして終わりだった。
侍女長と執事長は頭を下げて、部屋を退出するも内心怖かっただろうな。
危うく、お嬢さまに悪評のタネを作るところだったんだからね……
それから掃除の仕方が変わって、もたつく使用人もいたが、そんな彼らにはリリーが優しくアドバイスをすることで、掃除の効率も上がった。
それ以来、使用人たちからリリーが感謝や謝罪される場面を見かけることがある。
屋敷の中が丸く収まってよかったと心から思える光景だ。
俺は俺で、この一件から自由に屋敷の中を歩き回ることを許可された。
だから、それはもう徹底的に歩き回ってゴミを回収し続けたよ。
足の裏にザラザラとした感覚がなくなり、これでようやく安心してどこでも横になることができるようになったぜ!
(はー、これでしばらくは怠惰なペットライフを送れるな!)
そう思っていた時期が俺にもありました。
掃除の件で呼び出しが入りましたよ……誰にだって?
お嬢さまの両親。つまり、この屋敷の主である旦那さまと奥さまに、だよ。
今回のことは屋敷の中でも大きな問題となった。
上は侍女長と執事長に、下は出入りの商人も含んだ下々の人々を騒がせたわけだ。
だから、旦那さまたちが気づかないわけがない。
俺やリリーたちにとっては、雇用主となる人たちだ。
そんな人に呼び出されたわけだから、俺は内心というか表情にも面倒だなあと出ていたらしく、リリーに厳しく注意された。
そして、呼び出されたのは今回の件に関わった、俺を含めたリリーや料理長さん、それと侍女長と執事長たち。
最後に、ほぼすべての成り行きに関わっているお嬢さまだ。
この呼び出しでいったいどんなことが話されるんだろうか。
まあ、行ってみないことにはわからないよな。
やだなあ、偉い人からの呼び出しだなんて……
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