ヤンデレ達との再デート(2)

-渋谷駅前

 渋谷駅の構内を抜けると、夥しい情報が目に入る。目の前には大きなビジョンの付いたビルヂングが聳えており、傍を見ると大きな広告看板が目に映る。地方から来た人はキョロキョロとまるでお上りさんというような歩き方をしてしまうだろう。

そんな駅前で男は俯きがちに歩いてた。両脇には女が2人、1人は腕を組みもう1人は指を絡めて手を繋いでいた。白色のダッフルコートに花柄のスカートを合わせた彼女は何か嬉しそうに腕にしがみついていた。ピンクのカーディガンを羽織った彼女は少し不貞腐れた感じで男に何か話しかけている。そのせいか男はチラチラとカーディガンの彼女に視線を向けているのが分かった。

 この3人組は交差するボーダーラインを越えて吸い込まれるように、レストランチェーンへと入って行った...

 

************

-数分前

 俺は誰かに肩を叩かれ、後ろを振り向いた

「お兄さん....♡久しぶりっ」

そこには黒髪のロングヘア、白のニットセーターにダッフルコート、花柄のスカート...クリスマスにデートをした時と変わらない姿が目の前にあった...

「リカちゃん..!」

「お兄さん覚えててくれたんだ!嬉しい!」

リカちゃんが抱きついてきた。女の子の柔らかな部分が俺のいろんな部分に当たっていてつい口角が上がってしまう。しかし、そんな興奮も背後の殺気に煽られすぐに醒めた。声には出さないものの由佳のあの顔はかなり怒り心頭だろう。俺は気を取り直してリカちゃんに向き直る

「久しぶりだね。今日は誰かの待ち...「お兄さん、前に渡したチョコ。食べてくれた?」

俺の話を遮るようにリカちゃんが質問をしてきた。俺の声そんな聞こえづらいのかな...

 実は俺とリカちゃんが会ったのはクリスマスが最後ではない。それはバレンタインの時、池袋の駅前でナンパを受けていて困っていたところを助けていた。その時に貰ったチョコレートが良くも悪くも俺と由佳を結ぶきっかけとなった。その時もらったチョコは由佳によって捨てられ、食べることができなかった。しかし、それをリカちゃんに言うことなどできない。それは食べた体で話すことにした。

「うん!美味しかったよ」

「それはよかった〜それで、中に入ってた手紙.....ちゃんと読んでくれた...かな..?///」

 

手紙!?まさかそんなものが入っていたなんて知らなかった。ラブレターだったのだろうか。いやいや、あの時は偶然出会ってお礼にもらっただけだ。でも、リカちゃんのあの赤面を見ると本当に自分に好意を向けていたのでは...?と下心を抱いてしまう。

残念なことに俺は手紙を読んでいない...ここは読んだことを匂わせてリカちゃんに内容を聞き出す他ないだろう。

「あぁ。手紙.....ね。あったね。そういえば.......うん。」

俺がそう答えるとニコニコしていたリカちゃんの顔が一瞬凍りついた。

 

 

「え?手紙なんて冗談で言ったのに、お兄さん誰の手紙..........読んだの、ね?」

 

俺は急に胸が詰まる感覚に襲われ、体温が一瞬にして奪われた。リカちゃんの表情は相変わらず穏やかだが、声色や目は一切笑っていなかった。

「お兄さん、なんでそんな嘘つくの?ねぇ。別にリカ怒ってないよ。なんでそんな嘘つくのかなぁって思っただけ。もしかしてチョコ、食べてないとか。ないよね?食べないって?」

立て続けに質問をしてくるリカちゃんに俺は恐怖を覚え始めていた。俺は気が動転し、「あぁ....あ」と言葉にならない声しか出さないでいた。

「でも、お兄さんは手紙あった、って言ったよね。それ誰のチョコ?間違いなくリカのじゃ、ないよね。だって入ってないもん。お兄さんはリカのチョコどうでもいいってことだよね。そのどこの女とも知らない手紙入りのチョコと間違えるんだもんね。そうだよ....私のなんてどうでもいいんだ....」

「アノ......ソノエト、、」

リカちゃんの質問攻めに太刀打ちできないでいると、忘れかけていた声が割って入ってきた。

「ミツ、言っちゃえばいいじゃん。あんな気持ち悪いチョコなんて捨てたって」

「....内藤由佳...」

リカちゃんの表情がみるみるうちに怪訝になる。リカちゃんは視線を俺から由佳の方へと移し、由佳に歩み寄っていた。

俺はまずい!と思い、間に入る。

「ごめん!由佳の言い方は悪いけど、食べてないのは本当なんだ...。だけど、別に気持ち悪いとか、リカちゃんのことが嫌いとかじゃなくてその....」

俺は何も考えついてなかったが、思いついたことをひたすら話した。今2人を話させるのは危ないと第六感が働いた。ただ、弁解の弁を何も用意していなかったので最後はしどろもどろになった。

 リカちゃんは口を挟むことなく俺の言葉を静かに聞いてくれた。そして俺の声が聞こえなくなると、「お兄さん大丈夫だよ」と優しく声をかけた。

「リカ、本当に怒ってないよ。ただ、嘘をつかれたからなんでかなぁって思っただけだよ。でも、うん。そうだよね。あの女に無理矢理付き合わされてるんだもんね。本当に可哀想、お兄さん....本当の彼女は私なのに(ボソッ」

「は?何それ負け惜しみ?客が彼女できて取られちゃったのがそんなに悔しい?ガチ恋釣ってミツを金ヅルにしたいだけでしょ?嫌な女...」

「由佳、そんな言い方」

由佳の毒のある言い方に俺が宥めようとすると、

「ミツ、私とあの女どっちの味方するわけ?私達の仲無理矢理とか言われてるんだよ。普通そっちの方怒るよね?なんでこっちに言ってくるわけ?ねぇ答えてよ」

「それはそうだけどさ」

「ふふっ図星かな?だってお兄さんは私の彼女だもん♡このハチ公前で初めて会った時からお兄さんとリカは彼氏と彼女だもん。それを横から掻っ攫った泥棒猫が内藤、由佳、だよ?ほら」

リカちゃんはカバンからスマホを取り出し、俺の耳元に持って行った。

 俺は驚いた。それは音量の問題ではなく内容の問題だった。音質は悪かったが、この音声は間違いなくバレンタインの由佳の家での会話であった

 

『好きだよ先生』

『こんなことしてお父さんとお母さんが...』

〜〜〜

.......なんだかんだで期待してるじゃん』

 

「聞き覚えあるよね?お兄さん」

「........なんで、リカちゃんが、こんな...」

「そんなことより、ほらお兄さん無理矢理されちゃったね...♡こんなふしだらなこと。こんなこと...いけないのにね」

リカちゃんは蔑むように言った。

「これでお兄さんはあの女に弱み握られて、無理矢理付き合わされてる.....そうだよね??」

リカちゃんに耳元で諭すように尋問を受け、俺は首肯しそうになった。だが、そんなことを彼女ゆかが赦すはずがなかった。

「これくらいカップルの間じゃ普通だよ、ね?ミツ。」

語尾の「ね」に力がこもっていた。俺は弱々しく首肯する他なかった。

「お兄さん本当に可哀想だね。リカが彼女ならこんなにお兄さんを苦しめないのに.....今からでもリカの所に戻ろう....よ。今リカはフリー....だよ?//」

リカちゃんは少し照れながらまた俺の耳元に駆け寄り、

「お兄さんの彼女になりたくて......レンタル彼女やめたよ...へへっ♡」

と囁いた。

 

ギュッ

衣擦れ音が聞こえ、振り向くと由佳が俯きがちに裾を引っ張っていた。顔はしっかり見えなかったが、ブロンズの前髪の奥は今にも泣き出しそうであることは分かった。

俺はポンッと由佳の頭に手を乗せて「大丈夫、心配するな」と言い、リカちゃんの向き直る。

「リカちゃんの気持ちは嬉しいよ。きっと俺に彼女がいなかったらOKしていたと思う。けど、俺には今大事な彼女がいるから....だから、リカちゃんの気持ちには答えられない。」

人混みで騒がしい渋谷駅。3人の間には数秒の沈黙があった。行き交う人々の話し声と足音だけが響いているようだった。

 

「そうだよね。ごめんなさい...お兄さん。じゃあさ、お兄さんの”お友達”じゃダメかな?」

リカちゃんは思っていた以上にあきらめがよかった。先程までの狂気を孕んだような態度とのギャップに驚いた。

「それならいいよ。」

「やった~」

友達なら問題ないかと快諾すると、リカちゃんは無邪気に喜んでいた。まるで幼稚園児が初めてお友達ができたみたいだ。リカちゃんがなにか話しかけようとすると、由佳が急に腕をとった。

「ミツ、もう済んだならいいでしょ。早くしないとカフェ混んじゃうよ」

腕時計を見ると集合時間から既に15分も経っていた。流石に由佳をこれ以上付き合わせるのも申し訳なくなった。

「ごめん。リカちゃん、またラインにでも連絡してよ。これから用事なんだごめんね」

「お兄さん、これからどこに向かうの?」

「えっと、由佳と一緒に今流行りのカフェに行くんだ。」

「そうなんだ~

 

 

 

 

 

 

でも、そういうのお兄さん嫌いだよね?」

リカちゃんの何気ない一言が場を凍りつかせた。

「だってお兄さん、私とデートした時に言ってたよね。『オシャレなカフェとかいってる女とは仲良くなれない』って」

「何それ..ミツが嫌々付き合ってるみたいな言い方。」

由佳は理香を睨む。理香も由佳を見て笑みを見せた。

「リカだったらお兄さんに無理なんかさせないのにな~お兄さんは本当はサイ⚪︎リヤで喜んでくれる庶民的な女の子が好き、だよね?」

 これは前にデートをしたときにリカちゃんに語った好きな女の子のタイプだ。確かに俺の理想の彼女像はサイ⚪︎リヤデートとかス⚪︎バで駄弁っているような俺の日常に遍在しているリア充の姿だったかもしれない。由佳と付き合うようになってからは本格的なイタリアンや会員制の紅茶専門店など彼女と付き合ってなければ一生行くことはなかった店にデートすることが多かった。彼女と駄弁ったり、じゃれ合うという目的は果たせたが、居心地はあまりよくなかったかったかもしれない。

「はははっ」

由佳が突然声を出して笑った。俺の手を握って笑顔でこちらを見た。

「本当に”先生”って童貞くさいね.....」

由佳はバイトで勉強を教えているときのようにバカにしたように言い、耳元で「そんなんだからレンタル彼女みたいなのに騙されるんだよ」囁いた。

「でも、いいよ。行こうよそのサイ⚪︎リヤってところ。私が..私だけが先生の彼女ってところ証明してあげるからさ」

由佳はリカちゃんに声をかけた。

「理香さん?だっけ。一緒に行こうよ。後をつけられるのも嫌だしさ。理香さんミツのストーカーでしょ?だからあんな音声持ってるんだよね?」

理香は由佳に詰め寄り、一言二言何やら話していた。あまりに小さな音で光輝の耳には届かなかった。

「うん。いいよ~お兄さんと食事できるしね。ほら」

リカちゃんは俺の左腕をとった。体を寄せているせいで胸が俺の腕に当たっている。

由佳は無言で右手を強く握った。指を絡めて所謂恋人繋ぎになっていた。

俺は両脇に女の子二人を従えながら、サイ⚪︎リヤへと向かっていった...

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