ヤンデレ達との再デート(1)

-都内某所

薄暗い部屋の中にはモニターの昼白色の光だけが視認できた。

スピーカーからはまだ年端もいかぬ女の嬌声と男の苦しそうな吐息の音が響き部屋を一瞬にして支配した。

 どこかの白い天井だけを映し出しているモニターの前には女が1人座っていた。濡羽色の長い髪に整った顔だちであるが、今そこに笑みはなく能面のような面立ちであったが、

「ふっふふふふ」

急に思い立ったように笑い出し、何かをぶつぶつと呟いていた。

 

窓や換気口以外に男の写真がびっしりと貼られた異様な部屋には女の嬌声とこの住人の笑い声だけが木霊していた

 

********

 

それから一ヶ月後

-渋谷駅前

俺にとって忘れられないバレンタインの後、俺とその周りは色々と変わった。

 俺の友人であるデン坊が早稲田のケバ女に捨てられた。理由は「つまらないから」らしい。初めての恋愛だった彼なので失恋と今回が初めてで俺と知恵伊豆は大学のロビーでデン坊の失恋を大いに笑った後、一緒にメシに連れて行った。野郎だけの残念会だったので下世話な話題も勿論話した。ケバ女とどこまで行ったのか、チェリーは捨てたのかなど俺たちは質問をした。酒も入りデン坊も最初は落ち込んでいたが、少しずついつもの調子を取り戻して行った。

「いってねぇよ!」

「それは行ってないと"イッてない"をかけたのかな?笑」

「はははっ光輝お前マジでおもんないわ。はははっ」

「光輝お前こそどうなんだよ。お前も彼女いないだろ、クリスマスの時にレンタル彼女使ってた奴に笑われたくねぇよ」

 

デン坊が酒の勢いで俺に突っかかってきた。その時俺は初めて2人に自分の変化を告げた。

 

「それがさ...出来たんだよな、彼女。高校3年生で今年大学生になる子がさ」

「え?嘘だろ」

デン坊はひどく驚いていた。まぁ同じかしたと思っていた奴に彼女が出来てたのだ。そうもなるか...

 そう。もう一つ変わったのは俺に人生初めての彼女が出来たことだ。その彼女というのは言うもがな俺が家庭教師をしている教え子の内藤由佳だ。あの夜のあと、シーツだけを包んだ姿のまま俺にふと言った

「先生、責任....取ってくれるよね?まさか無かったことになんか、しない、よね?」

吸い込まれるような瞳で見つめられ、蛇に睨まれたカエルのように俺はしばらくベッドから抜け出せず彼女から逃れる言葉を紡ぐことは出来なかった。こうしてなし崩し的に彼氏と彼女になったわけだが、由佳は嫉妬深く束縛する部分を除けば、東大の非モテ男子が羨む年下の可愛い彼女だ。そんな幸せと共に彼女の異常な束縛に俺は苦しめられているのだが..

『私といる時に他の女の話するのやめてよ。妹?ダメに決まってるでしょ...私といる時は私のことだけ考えなさいよ』

『ねぇ、あの白衣の女...誰?私話していいなんて許可してないんだけど。分かったら二度と話さないでね。破ったら許さないから』

『ねぇねぇねぇ!なんで一回で出ないのよ。授業?そんなのどうだっていいでしょ!私の方が大事でしょ!早くうちに来て。お仕置きするから...』

由佳のせいで俺の家族関係や交友関係が滅茶苦茶になっていった。姉やサヨちゃんは次第に口をきいてくれなくなり、後輩の本多ともゼミは同じだが彼女の命令で無視を続けていたら「もういいっすよ」と冷たく言われ以降疎遠となった。

俺はずっと欲し続けた彼女とそれに付随する快楽を得ることができたが、本当に幸せなのだろうか。そんなことを頭によぎる時がある...

 

「ミツ、お待たせ!」

そんなことを考えていると、由佳が隣に立っていた。デニムのパンツに淡い青のセーターとピンクのカーディガンを合わせていた。

由佳は付き合ってから「先生」から「ミツ」と呼ぶようになった。とはいえ、家庭教師と生徒の関係は続き由佳は慶應義塾大学に現役合格した。まぁ東大生の俺が家庭教師をしているのだ。早慶以下など言語道断だ。

「ミツ、だいぶ待ってた?ごめんね遅くなって」

「いや、別に今来たばかりだし」

嘘である。俺は20分前にはハチ公の前で待っていた。前に5分前に待ち合わせ場所に着いた時、由佳にだいぶ搾られたからだ。精神的にも肉体的にもだ...調教された犬のように俺は3つも年下の女の子に尻尾を振っているのだ。我ながら情けない..

 今日は由佳が行きたがっているオシャレなカフェにデートに行く。え?誰がお金を払うって?

それは俺と言いたいが、全て由佳が払ってくれる。彼女の家が白金に住んでいて東大生の俺を雇う教育費があるほどの財力があるのもそうだが、1番の理由は「お金がないって理由でデートの回数が減るのは嫌」だかららしい。それに姉からの資金も絶たれた俺にはデート代を賄えるほどのお金も持ち合わせていない。勿論バイトなど由佳の家庭教師以外許されていない。

 

 俺は由佳の服を可愛いと褒め、大学でのことや今から行くカフェがどんな所だろうかと少したわいもない話をしていた。

 

「お兄さん..♡」

その時肩に手を置かれ、俺は後ろを振り返った。その子が今日1日を狂わせるとは知らずに..

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