生徒のゴリラ化が深刻な女子校にイケメンを赴任させる

三葉 空

第1話 ゴリラども

 今の時代、女性の飛躍が目覚ましい。


 その強さから、男性以上に稼ぐ女性もザラにいる。


 ただし、少し強くなり過ぎているのかもしれない。


 女性が本来持ち合わせている、しなやかさや気品が、失われつつあるのかもしれない。


「あ~、春先だってのに、クソ暑いわ~」


「ホント、それな」


「マジで、地球温暖化ヤバくね?」


 そう言う女子たちは一様に、制服のスカートをふぁっさふぁっさと差せて、内部に風を送り込んでいた。


「こら、あなた達、みっともないわよ」


 と、スーツでロングヘアーの彼女が注意をすると、


「あ、せりあちゃんだ、はよっす~w」


「はよっす~w……じゃなくて。私は理事長ですよ?」


「良いじゃん、せりあちゃん、まだ若いんだし」


「まあ、嬉しい……って、そうじゃなくて、ちゃんと礼儀をわきまえなさい」


「礼儀って言われてもねぇ~」


「それ、食べたらうまいの?」


 こいつら、ゴリラかよ。


 せりあは率直にそう思った。


「本当に、品のない子たちね……」


「いやいや、品がないのは、せりあちゃんの方でしょ」


「はぁ? 何で私が?」


「だって、相変わらずそのお乳……デカすぎ」


「よっ、我が校のマウント・フジ」


「愛がたっぷりIカップ~♡」


 もはや絶句する他ない。


 下手すれば、男子にイジられるよりも、ショックだ。


 まあ、ここに男子なんていないのだけど。


 女子校だから。


「あなた達ね~……」


「やべっ、せりあちゃんがブチギレる」


「怒るとおっかないからな~」


「ゴリラ並み?」


 ゴリラはあんたらだろうが~……


 という半暴言は何とか飲み込む。


 ほんと、教職ってストレスが半端ない。


「じゃあ、せりあちゃん、またね~♪」


 こちらの気苦労なども露知らず、ゴリラ女子どもは去って行く。


「……はぁ~」


 せりあは深くため息を吐いた。




      ◇




 私立愛勝学園しりつあいしょうがくえん


 名家、笹沢ささざわ家が経営する学び舎。


 そのモットーは、強い女子の育成。


 これからの時代は、オンナがつくっていく。


 その思想の下、先代の理事長が教育を推し進めて来た。


 その思想どおり、確かに強い女たちに育つ。


 けれども、その代わり、生徒のゴリラ化が深刻だ。


 しかも、その問題を何も改善せぬまま、先代は他界した。


 そして、急遽として後継者となったのが、娘の笹沢せりあ。


 もちろん、前々から次期理事長になるよう、教育はされて来た。


 しかし、先代である父の他界は思っていたよりもずっと早く。


 せりあが理事長になって、まだ半年ほど。


 それ以前は、当校にて教師として勤めていた。


 だから、生徒から『せりあちゃん』呼ばわりされる舐められっぷり。


 まあ、それもこれも、この学園のおおらかな教育方針が原因。


 それが、功を奏した一面もあるけど……


「……さすがにちょっと、まずいわよね」


 確かに、強さは武器だ。


 けれども、時には弱みにもなりうる。


 あまりにも強過ぎる女は、男を敵に回すかもしれない。


 ひと昔前の男性社会から、むしろ女性社会に移行しつつあるとはいえ、決して男性をないがしろにして良い訳ではない。


 この国をより良い形にして行くためにも、男女が手を取り合って歩んで行く必要がある。


 だから、当校の生徒たちには、女性としての最低限の礼儀・礼節、つまりはマナーを身に付けて欲しい。


 少しくらい、男に媚びてくれても良いと思う。


 だって、あの生徒たちは……


『男子がなんぼのもんじゃい!』


『『『『『『ウウェエエエエエエエエエエィ!』』』』』』


 とか雄叫びを上げて、他校の男子たちをビビらせるくらいだから。


「ハァ……なんてゴリラなの」


 まあ、そのように仕立ててしまった責任は、こちら側にあるのだけど。


「……何とかしないといけないわね」


 もう、父はいない。少し破天荒だけど、その手腕は確かな人だった。


 女にもモテて、生徒からも『理事長、マジイケオジ~♪』とか言われてほくそ笑んでいたし、あのエロオヤジめ。


 まさか、自分好みの強気な女を育てるための教育方針だったりしないわよね~?


 などと、せりあは今さらになって、亡き父の思惑が見え隠れするようで、辟易としてしまう。


「いやいや、そんな風に悩んでクヨクヨしている場合じゃない」


 新学期、新年度はもう来月。


 この3月が、勝負。


 何かしらの対策を講じておかないと……


「……ちょっと、頼ってみようかな」


 半年ほど前の父の葬儀にて、久しぶりに再会した、彼に。


 せりあは理事長デスクに腰を下ろしながら、スマホを耳にあてがう。


 相手は恐らく多忙だろうに、スリーコールで出てくれた。


『はい、新波しんなみです』


「ああ、たっくん? ごめん、私、せりあだけど」


『せりあさん、僕はもう立派な大人ですから。その呼び方はやめてもらえます?』


「ああ、ごめんなさい……いま、お仕事中よね?」


『ちょうど、ブレイクタイムでした。何かご用ですか?』


「ええ、まあ……ちょっと、私は焦っているから、端的に、単刀直入に言うね?」


『どうぞ』


「たっく……拓斗たくとくん、うちの学園で教師にならない?」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生徒のゴリラ化が深刻な女子校にイケメンを赴任させる 三葉 空 @mitsuba_sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ