1回目

 私は今日ブログで遺書を残した。

 ブログは、元々持ってなく、ネットに遺書を残し、誰かに読んでもらうためだけにだけに作った。

 ネットの海に転がる遺書、それがネットゲームで仲を深めた彼女に対して一種のはなむけになると思ったのだ。

 

 ブログを更新し、私はあるものを手に持ち、椅子から立ち上がった。

 さあ、準備は整った。


 私は、両親を起こさないように忍び足で、お風呂場に向かった。お風呂場のドアの横に付いてある換気扇のスイッチを切り、お風呂場の中に入り、ドアを閉めた。そして、自分の口の中に今日の夕方に買って用意していた防水スプレーを振りかけた。


 私を置いて事故死とはいえ死んだ彼女。

 私は彼女と一緒の世界に今から行く。

 そんな気持ちになると、肺が侵され、呼吸が浅くなっていく苦しさが和らいだ。


 やがて、視界がぼやけてゆき、真っ白な世界になったと思ったら、


 突然、世界は真っ黒になった。


 

 ※

 

 のだが‥‥

 

 ピピピピピ

 なんだこの音は…


 ス…


 スマホのアラームの音


 私がいつもかけている…


 

 …


 「はっ」


 私は、大きな声をあげ、掛布団の上半分を払いのけながら、上半身を起こした。


 お気に入りの小説、ゲーム、化粧品、制汗スプレー…

 視界に映る世界は、間違いなく私の部屋だった。

 両手も私のものであったし、

 掛布団をはねのけ、ベッドから起き上がり、姿見を見てもその顔、身体、全てのパーツは私そのものだった。


 暑さと動揺から滝のような汗がだくだくと流れて止まらない。

 

 ふと気になり、スマホの画面を確認すると、それは私が死んだ日の、

 650


 これは所謂ループというものだろうか?

 何も逡巡せず、即座にそう思い立ったのは、

 私がこの間ネトフリで『恋はデジャ・ブ』、また、『シュタインズ・ゲート』を観ていたからなのだろう。


 彼女の死を防ぐために、神は私にループ能力を身に着けさせたのか、そんなことは私にはわからない。


 ただし、死んだ彼女と一秒でも長く過ごすことができる、その事実が今の私にはただただ嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る