昇華

 一日ぶりの再会となるのか...、そんなことを思いながら山城は家路についていた。短針は3を指しており、街灯の少ないこの道は真っ暗であった。早く帰り麻知と話がしたい気持ちとは裏腹に、あまり酒を飲まない山城には二日酔いという罪深き者への罰がのしかかっており、頭がズキズキして歩くだけで精一杯であった。

 

「麻知はどうしているだろうか..」

 

 帰ってくるのが遅れてた時は、限って彼女の情緒がいつもより不安定である。腕に一閃あることは覚悟しないといけないかもしれない。まるでウサギを飼っている飼い主のような境地である。

 足を何とか進めながら家の前まで着いた。麻知は寝ているかも、と思ったが家には明かりがついていた。きっと帰りをずっと待っていたのだろう..何を言われてもすべてを受け止めるつもりである。そして、改めて言いたい。

 

「麻知が一番好き」だと。

 

 

「ただいま」

 

...玄関で待っているのだと思ったのだがそこには誰もいなかった。明かりも消し忘れなのだろうか、疲れて寝着いたのだと思ったその時ドタドタと麻知が走ってきて抱きついてきた。

 

「おかえりぃ。コウくんのバカバカ!私ずっと待ってたのにぃ...なんで帰ってこなかったのぉ?」

 

酔ってるのか?酒臭いし、頬も紅に染まっていた。麻知は自分から酒を飲むほど好きではなかった気がするが。

 

「あ、山城さん。おかえりなさい。ごめんなさいお邪魔しちゃって。実は麻知ちゃんと飲んでいたのですが...麻知ちゃんお酒弱いの忘れてて..」

 

「あーなるほど」

 

そういえば酒癖は悪かった気がするかもしれない。昔一緒に飲んだときも「コウくん好き好き好きぃ」と言ってキス魔になったりと大胆なことをしだしたからな。

 

「あ~透ちゃんとばっかり話してるーもっと私にかまってぇかまってよぉ。なんで....ひぐっ...なんであの女の手紙とっておいたの?なんで怒ったの?私すっごく悲しかったんだよぉ?私よりあの女のことが好きなのかなって私捨てられたのかなって...」

 

「そんなことない!俺はいつだって..いつだって麻知が一番好きだよ。」

 

「いやいや!一番じゃダメなの!コウくんの中で女の子は私だけじゃないとダメなのぉ私はコウくんだけだよぉ?コウくんしゅきしゅきだいしゅきぃ...ん...」

 

麻知はキスをしてきた。舌を絡めてのキスだが、アルコールのにおいが口内を支配して二日酔いの山城には気持ちが悪かった。しかし、腕が首に回されていたのでこの態勢を解くことはできなかった。

 脇を見ると野口さんが見てはいけないものを見た、みたいな顔をしていた。「よそ見しちゃらめぇ」と麻知に怒られ、またキスをされる。

 

「.....ん..はぁ..これが私の気持ちだよ?ずっとずっと変わってないの..滉一は受け止めてくれる?」

 

 

『これが私の気持ちだよ?』

 

あの頃を思い出す。あの頃ははっきり答えられなかった。しかし、今ならはっきり言える..

 

「俺はどんな麻知も受け止めるつもりだよ。たとえ摂氏0°のような冷たい愛だって。」

 

「コウくんだいすきっ」

 

麻知はさっきよりも強く抱きしめてきた。私も抱き返した。

 

「あ、野口と一緒に帰ってきたんですが。帰らなくて大丈夫ですか?」

 

「え?!あ、朝食の準備しなくちゃ!そ、それじゃあ失礼しますっ!」

 

「....麻知、少し寝たらどうだい?今日一睡もしてないんだろ?」

 

「うん。じゃあ寝るぅ..連れてってー」

 

私は麻知を介抱してベッドへ連れて行った。安心したのかすぅすぅ眠っている。心労がたまっていたのだろう。その原因がいうのもおかしいが、麻知の本音が聞けてよかった。

 

***********

 

 朝起きると何故かベッドにいました。透ちゃんが連れてきてくれたのでしょうか?時計を見ると六時を過ぎていました。寝坊だと急いで起きてキッチンに向かうと、滉一がいました。

 

「あ、ようやく起きたか。コーヒーでも飲むかい?」

 

こくっ

 

「あなた..そのスクランブルエッグみたいなのは..?」

 

「いや、これはその玉子焼きを作ろうとしたら失敗しちゃってな。ほんと駄目だな俺は」

 

「ふふっ」

 

やっぱり滉一には私がいないとダメだね。昨日悩んでいたことは何故かすぅっと消えていた。わからないけどどこかで安心した私がいる気がする。

 

「ねぇ、あなた」

 

「なんだい?」

 

「ひとつわがまま言ってもいいかな.....

 

一生あなたのそばに居させてください..」

 

 

「もちろんだよ」

 

滉一は優しい口づけをしてくれた。

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