第27話 眠りやすいように
楓が『絶対睡眠』から目覚めたのは、ちょうど、まくらが『楓ソード』でボスを消し飛ばした直後であった。
「おはよう、まくら」
「くぅん」
「私を振り回したのがそんなに嫌だった? 寝てたからしっかりとは覚えてないけど、何となく揺動ベッドで寝たときみたいな気持ち良さだったよ」
「わふぅ?」
そんなフォローを入れる楓であるが、実際に睡眠を妨害された感覚はまったくしなかった。これにより『楓ソード』の実用性は証明されたのであった。
「くぅん…」
「あ、まくらが辛かったんだね。まあ、まくらは強いから私なんて使わなくても大丈夫だもんね」
それはそれとして、主を振り回すという行為はまくらに深刻なダメージを与えたので、『楓ソード』は封印されることとなった。
そんなやり取りをしていると、『絶対睡眠』により無視される程度の声、通称世界の声が楓の頭の中に鳴り響いた。気持ち大きめに。
『ミッション達成。報酬として、ダンジョンの成長の方向性を決定できます』
『転換期』を経てダンジョンは成長するが、ボス討伐の報酬として、その方向性を決められる権限を与えられた楓。
とは言えダンジョン素人な楓に方向性とか言われても困る。そもそもどんなダンジョンがあるのか録に分かっていないのだ。そのため楓は、自身の理想のダンジョン像を想像し答えた。
「より眠りやすいダンジョンにしてよ」
『報酬が確定しました。ただいまより『転換期』を実行します――――実行完了』
「早いな。何か彩音とかは2、3日掛かるって言ってたのに。いつもはのんびり仕事なのか?」
とは言え、明日も学校である楓的には早く終わるに越したことはないので文句は無いのであった。
楓たちがいる部屋にも少し大きめではあるが『記録水晶』らしきモノがある。
それを使い地上に戻ろうとした時、彩音から連絡が入る。
「どうしたの彩音?」
「楓ちゃんお疲れ様。まだボス部屋だよね?」
「ボス…多分?」
「わんわん!」
「あ、そうなの。まくらがそうだって言ってる」
「そっか。よかったよ」
道中寝ていただけなので、ここがどこかよく分かっていなかったが、まくらから教えてもらいここがボス部屋であると知った楓。
そして、楓たちがまだダンジョン内にいると聞き安堵のため息を吐く彩音。
「今、ダンジョン内に閉じ込められてた探索者たちが続々と帰還してきてるの。それでボス討伐が完了したってことが話題になってて、マスコミとか関係者が『黒の夢』に集まってきてるの」
「そうなんだー」
「分かってなさそうだから説明するけど、普通に地上に戻ったらその人たちに捕まると思うよ。多分、長時間拘束されるかも」
「えぇ…なぜ?」
楓には理解できないだろうが、楓とまくらがやった短時間でのダンジョン攻略とはそれくらい重大な事案なのである。
とは言えそんな事情は楓には関係ない。そのため関係者たちの目を欺いて地上に戻らなくてはならない。
「取り敢えず、楓はまくらくんの影で運んでもらって、まくらくんは変装するなりなんなりで見つからないようにすれば何とかなると思う」
「そっか」
「でも急がないと大手ギルドのギルドマスターと来ちゃうとそこら辺も見破られちゃうかもだし、早めに脱出した方が良いかも」
「わんわん!」
そんな彩音のナイスな助言があったお陰で、楓たちは地上で待機している者たちに見つからず家に帰宅する事が出来たのであった。
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