第19話 どちらにも相応の良さがある
『竜の巣穴』から出てきた楓は、いつものように協会が設置している買い取り所でドロップ品等を売ろうとしたが、とあることにとても驚かされる。
「なんでこんなに高いんですか?」
「は、はい。竜種は探索者でも討伐できる者の少ないモンスターでして、そのドロップ品も希少なモノでありますので…」
楓が寝ている間にまくらが倒したという竜種と呼ばれるモンスターたち。そのドロップ品は、いつも寝ている間に周りに積み重なっていくドロップ品とは桁が違っていた。
それを全て売り払い、さて買い取り所から出ようとすると、買い取り所の出入口付近に大勢の者たちが待機しているのが見えた。
「がるる!」
「何か不機嫌? どうしたのまくら? やっぱり寝不足?」
「くぅん」
その大勢の者たちの視線が自分と楓に向いていることに気が付いたまくらは警戒体制に入るが、そんなことを露ほども知らない楓は、急に不機嫌になってしまったまくらを心配するのだった。
楓たちを見ている大勢の者たちは、探索者業界の関係者たちであった。
気絶配信によって一気に注目を集めた翌日に、今度は従魔の狼が竜種複数体を瞬殺。流石に昨日の時点では様子見姿勢であった者たちも堪らず飛び出して来るほどのインパクトであったらしい。
「…誰だあの狼を『夜狼』なんて言ったやつは」
「いや、竜種を倒してる時は確かに『夜狼』立った筈だ」
「ってことは竜種を倒したことで進化を?」
「進化個体の帝王種って…俺らの手に負える代物じゃねー」
そんな関係者たちも、まくらの放つオーラにたじたじであった。
中に無駄に根性があり、楓に話し掛けようとしてくる者もいたが、話し掛けられるまでまくらが座して待っている訳もなく、影に楓を隠し消えるようにその場を後にしてしまった。
「見えたか今の?」
「見えるわけないたまろ」
「戦闘は配信に映っていた通りだし、移動や荷物の運搬もできる、か」
「欲しいけど…」
目的を達成するどころか、今日来た目的を果たすためのスタートラインにすら立てなかった者たちは、そそくさと買い取り所を後にするのであった。
折角入った特大の臨時収入。いつもの楓であれば寝具巡りを敢行する所なのだが、『眠り姫の枕』というスキルのお陰で家でも、まくらと一緒に寝られるようになったので、早速、家寝しようという話となり家路を急いでいた。
「今日はいつもみたく小さくならず、寝てみる? ベッドだと落ちちゃうから布団だして」
「わふぅ?」
「舐めてもらったら困るよ。ベッドにはベッドの、布団には布団の良さが…あ、大家さん!」
そんな会話を繰り広げていると楓は前を知っている人物が歩いていることに気が付く。
楓が住んでいるマンションの大家さんである。
「あら? 楓さんこんにちは。まくらさんも…また大きくなったわね」
「そうなんですよ。まくらは成長期なので」
「わんわん!」
大家さんには、まくらをテイムしたその日に部屋で飼って良いかの確認をしており、快く承諾して貰っていた。
とは言え日に日に大きくなっていく、まくらには苦笑いであるが。
「それじゃあ大家さん。私たちは家で寝なきゃいけないので失礼します!」
「わんわん!」
「あら、寝るのに忙しいのね、頑張ってね~」
そう言って立ち去っていく楓たちを見送りながら大家さんは聴覚も凄まじいまくらにも聞こえないような小音で呟くのであった。
「種族だけじゃなくて、スキルもなのね。本当に若い子の成長は眩しいわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます