第16話 ミッションとは

 いつものようにダンジョン睡眠をする楓の横でまくらも眠っていると、突然脳内にメッセージが届けられる。


【ユニークミッション『安眠を妨害せし者たち』が開始されます】


くぅんなに?」

「むにゃむにゃ…」


 突然のメッセージに驚いたまくらが隣で寝ている楓を見るが、楓にはそういったメッセージは来ていないようだ。

 いまいちミッションという単語にピンと来ていないが、安眠妨害と聞いて黙っていられない程度には楓色に染まっているまくらは、臨時抱き枕用に自身を模した影を残し、楓の元を離れる。

 

わふぅどれ?」


 とは言え、今のとこら安眠妨害をしてきそうな存在は確認できない。そもそも、モンスターであれ、探索者であれ楓の『絶対睡眠』を突破することは出来ないため、安眠を妨害するなど不可能なようにまくらには思えた。


「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

わんうん?」


 とは言いつつも、五感を研ぎ澄ませて周囲を探っていると、遠くの方で大勢の人の叫び声が聞こえる。その場所からは、モンスターの鳴き声らしきモノも。


わっはっわわんそれだ!」


 そこで、まくらは思い至る。もし探索者たちがモンスターから逃げてきた挙げ句、楓に助けを求めるた場合どうなるか。

 少しくらいなら『絶対睡眠』も許すかもしれないが、切羽詰まった状況であれば探索者たちもなりふり構わないだろう。

 すると『絶対睡眠』はその探索者たちに敵対判定を下し良くて気絶させてしまうことだろう。

 

 目覚めたら大量の探索者が気絶している状況。目覚め的に最悪である。


くぅーんえーとくぅんどう?」 


 そのためには、此方に探索者たちが来る前に、安眠妨害になりそうな探索者か、その探索者たちが楓の方まで来る事になる元凶のモンスターのどちらかを処す必要がある。


「た、助けてくれえぇぇ!!」

「何でこんなとこに竜が!」

「待ってアンナが、アンナが!!」

「しょうがないだろ。今は逃げるしか!」


 そのため急いで騒音が発生している現場に急行する。すると大型のモンスター相手に逃げ惑うしかない探索者たちを発見する。

 探索者の中には、大型モンスターからのダメージを受けたからか、最早逃げることも難しそうな者もいた。


わんじゃあわっわんこっちだ!」


 その光景を見て、まくらは大型モンスターである竜種に向かっていくことを決める。

 理由としては、想像よりも探索者の数が多く、それに比べて、竜種は4体しかいない。大勢に対応するよりも、少数を相手にした方が早いし、見逃しも無いためだ。


 後方の竜種から逃げていたら突如として、前方に黒狼が現れた事で探索者たちは絶望する。その狼も竜種に負けず劣らずの、凄まじいオーラを放っていたからだ。

くぅんじゃまわわんどいて


 そんな探索者を歯牙にも掛けないまくらは、怯える探索者たちを放って、竜種たちの元に歩みを進める。

 逃げ惑う探索者たちに夢中であった竜種も、突然のまくら出現に警戒心を露にする、がそんな警戒など悠長な事をしている暇は竜種たちには残されていなかった。


わんよるわんわんはつどう!」

【ギャァオ!? ギャァァァ!!】

【グギャァァァ!!】

わんわんねなさい?」


 『夜』が竜種たちを包み込む。端から見ると竜種たちが黒く染まるのは一瞬の事であったが、竜種たちからすれば、自分たちの体躯が徐々に暗くなっていく感覚を覚え、恐怖で叫び出してしまう。

 叫んでも何もならないのに。


 完全に黒い何かとなった竜種だったモノは、その大きさが徐々に縮んでいき、最後には消えてなくなってしまう。

 それがあった場所には、ドロップ品のみが残されていた。


わわんさてと


 まくらが残されたドロップ品を回収していると、また脳内にメッセージが届けられた。


『ユニークミッション達成。報酬として進化を実行します。早急に安眠の地に帰還してください』


「わん? わんわん!」


 先ほどと同様、メッセージの内容はいまいち分からないが、安眠の地が楓の元であることだけは理解したまくらは、複数の竜種が瞬殺され呆然としている探索者たちを置いて楓の元に急ぐのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る