第15話 『悠久の風』の失態

 『竜の巣穴』で竜殺しを達成して名を挙げようと目論む『悠久の風』は、ダンジョンに入る前にも関わらず、リーダーが見知らぬ女の子に絡んだ挙げ句、何故かいきなりへたり込んでしまうというアクシデントはあったが、他のメンバーの助けもあり、竜が出現し出すという最下層付近までやって来ていた。


「まったく、リーダーのせいで恥かいたんだからね私たち」

「ほんとほんと」

「それは誠に申し訳無いことをした。しかしあの者が私を無視したのが…」

「そもそも突然話し掛けたリーダーが悪いんじゃね?」

「むう」

「まあ可愛い子だったし。てかなんか見たことある気もするしたけどね」

「あんたも? 私もあの子どこかで…」


 『悠久の風』は6人組のパーティーであり、前衛3人後衛3人とバランス型の編成であり、ボスモンスターの討伐などでその名を轟かせているパーティーであった。


「まあまあ、リーダーを苛めるのはそのくらいにして。ほらあそこ見てください。宝物部屋じゃありませんか?」

「あ、本当だ! やっほー、一番乗りだぁ!」

「ま、待ちたまえ。一番乗りはリーダーである私が」


 この優秀なパーティーに敢えて欠点を挙げるとするならば、斥候役、つまりダンジョンに仕掛けられている罠等を発見する警戒役がいないことであろうか。

 若手のパーティーにありがちな事だが、戦闘職、入れても支援職ばかりでパーティーを固め、地味な役回りのメンバーを後回しにする。とは言え、彼らはなまじ優秀であった。優秀であったが故に、多少の罠であれば力ずくで突破できてしまっていたのだ。

 

 『悠久の風』のメンバーが宝物部屋に入った瞬間、アラームのような音が鳴り響く。

 その音を聴きながら彼らは理解する。ここが宝物部屋ではなく、モンスター部屋であるということを。

 モンスター部屋は、通常ではあり得ないほどの大量のモンスターや、様々な罠がランダムに出現する一種のトラップ部屋である。

 一度入るとその部屋に閉じ込められ、出現したモンスターを全て倒さなければ脱出も出来ないとされている、初心者殺しのトラップであった。


「モンスター部屋でしたか。しかしここのダンジョンで出現するモンスターは比較的雑魚な―――」

【【【ギャアオォォォォォォ!!!!】】】

「うそ、でしょ」

「竜種が…3、4、4体だと」


 本来モンスター部屋で出現するモンスターはランダムであるとの通説を嘲笑うかのようなモンスター部屋を引いた『悠久の風』。

 彼らの甘めの目算でも、『悠久の風』全員で竜種1体が限度である。どう考えても生き残れる罠ではない。


「終わった…」


 メンバーの誰かがそう呟く。その呟きに全メンバーが共感する。

 絶望する『悠久の風』など知ったことかとモンスターは、彼らに向かって襲い掛かってきた。しかしその瞬間、奇跡が起きる。

 モンスター部屋はランダムにモンスターと罠が生成される。その生成された罠の中に、転移トラップが紛れ込んでいたのだ。そしてそれをモンスターの1匹が踏む。


 モンスター部屋にいたモンスター全てと『悠久の風』の面々は、転移トラップによってダンジョン内部のどこかの階層に飛ばされた。

 竜種が4体もいるという絶望的な状況には代わり無いが、1つだけ確実に状況が変化する。


「全員、逃げなさい!!」

「で、でも多分ここ中層。こんなところにコイツら放置したら――」

「そんな事を言っている場合ではありません!!」


 転移によって逃走できるようになった事だ。それに気が付いたリーダーは、いち早く逃走を指示する。

 しかし中層付近に最下層のモンスターを放置するというMPK紛いの行為を自分たちがする事に、少しの間葛藤が生じる。


【【【ギャアオォォォォォォ!!!!】】】

「に、逃げろ!」


 しかしそんな安い正義感からくる葛藤など、圧倒的な生存本能の前では霧散してしまう。

 『悠久の風』は竜種4体と、最下層付近に出現するモンスターを大量に残し逃走を開始するのであった。

 




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