第14話 結局なんで人多いんだろ?
モンスターの成長は早い。人などよりも過酷な環境に適応すべく、気が付けば成体になっていたりする。
それは、まくらも同様である。出会った当初は小型犬ほどしかなかった体躯は、今や楓を乗せて走れるほど大きく成長していた。
「まくらが走ってくれると、何倍も早く目的エリアまでいけるよね」
「わんわん!」
その結果、ダンジョン睡眠に適した人が少ない不人気階層まで、まくらが楓を乗せて移動するスタイルが確立された。
ただ、成長したことにより、まくらのもふもふ度、ふわふわ度も格段に成長したため、まくらの上に楓が乗っている場合、そのおよそ9割は熟睡しているのであった。
「まあ、大学とかだと皆がびっくりしちゃうからダメだけどね」
「くぅん、わん!」
そんな成長を遂げたまくらであるが、日常生活を送る上では、当時のちんまりした、まくらの方が周りを驚かせずに済む。
そのため普段はちんまりスタイル、ダンジョン内部では成長した素の姿と使い分けていた。
「さて、そろそろダンジョンに入ろ…何か人が多いね。休日だからかな?」
「くぅん?」
そんな小型化しているまくらを連れて楓がやって来たダンジョンは『竜の巣穴』。このダンジョンの最下層付近には竜が出現するのだが、他の竜種が出現するダンジョンよりも比較的難易度が低い。低いと言っても並みの探索者たちでは竜種には太刀打ちできないのだが。
ただ、『竜の巣穴』は、竜種以外のモンスターもそこまで厄介なモノは出現せず、竜種自体も、単独で出現するため、竜種討伐の登竜門的なダンジョンである。と、彩音はこのダンジョンをそのように説明していた。
しかしそんな情報はどうでも良い。楓にとって重要なのはダンジョン内で寝られるかどうかである。そのため、人が多いと言うことはあまり嬉しい事では無い。
「ふふ、休日だからではありません。今日は我々『悠久の風』が『竜殺し』を達成するハレの日だからですよ」
そのため人の多さに顔をしかめていた楓に話し掛けてくる者がいた。
今、若手探索者の中で徐々に注目を集めているパーティー『悠久の風』。そのリーダーである――
「わん!」
「あ、なるほど。まくらは賢いな。じゃあ行こう」
「っておい! 無視しないでいただきたい!」
今から探索するダンジョンの情報すらどうでも良いと思っている楓が、周りの探索者なんかに気を配る訳もない。
話し掛けられたことにも気が付かず、ダンジョン内に入っていってしまう。
人混みとは言え、それなりの声量での自己紹介は周りに聞こえている。現に、周りの探索者たちは、『悠久の風』のリーダーが楓に無視された様子を見てクスクス笑っている。
このまま行かせてしまっては、自分もパーティーにも恥を掻かせてしまう、と焦ったリーダーは、楓の肩に手を掛けようとする。
「ちょっと待ちた―――」
「わん!」
「まあぇ…」
しかし、そんな事を許すほど、まくらは甘くない。まくらは周りの探索者が気が付かないほど少量の『夜』をリーダーに浴びせる。
『夜』をまともに喰らったリーダーは、制止の言葉を最後まで言うことも出来ずその場に座り込んでしまうのであった。
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