第13話 伝説から一夜明けて

 伝説の気絶配信から一夜明けた土曜日。本日は大学もお休みである。


「むにゃ…今から二度寝して、ダンジョンでお昼寝して夜は普通に寝れば完璧かな~」

「くぅん」

「そんな悲しそうな声で鳴かないでよ、まくら。まあお休みの時くらいはダンジョン睡眠の時間を多く取るようにするよ」

「わふ? わんわん!」


 探索者になる前の楓であれば、休みの日は1日中、ベットの上で過ごすなんて事はざらにあった。

 ダンジョン睡眠は最高であるが、家のベッドで寝るのも、大学の講義中うたた寝するのも、それはそれで好きな楓。言ってしまえば楓は、全ての睡眠を愛しているのだ。

 

 しかし、『夜王』のデメリットにより眠ることが出来ないまくらにとって、楓と唯一、一緒に眠れるのは、ダンジョン睡眠だけなのである。そのためダンジョン以外の場所で寝ようとすると、少し寂しそうな表情で此方を見つめてくる。

 それでも構わず寝ていたのが楓であるが、休日は眠る時間がたっぷりあるからと、譲歩してあげるくらいには、まくらの事が大切になってきているのであった。


 そんな朝の一幕を終え、ふと充電器に挿しっぱなしのスマホを確認すると、不在着信やら、未読のメッセージやらが物凄いことになっていた。


「あれ? 彩音に蓮に、お父さんとお母さんに…何で?」

「わふぅ?」


 よく連絡をしてくる彩音は兎も角、普段あまり連絡を取り合わない家族や、卒業してからはほとんどやり取りなど無かった筈の、中学、高校の時の友人などからも連絡が来ていたのだ。

 何かあった事は明白であるが、何があったか分からない楓は、取り敢えず何度も連絡をしてきている彩音にメッセージを送る。


楓:「ごめん寝てた」


彩音:「だと思ったよ。楓ちゃん、夜寝る2、3時間前からスマホとか見ないの徹底してるもんね!」


楓:「なんか、彩音以外からもめっちゃ連絡来てるんだけど、何かあったの?」


彩音:「あったって言うか…、口だと説明しにくいから、取り敢えず動画を送るね?」


 そんなメッセージの後にとある動画のリンクが送られてくる。

 そのリンク先の動画を見ると、ダンジョンで起こった様々なニュースを取り上げる番組らしい。

 

「あ、ここ昨日行った砂浜だね」

「わん!」


 その動画では、昨日の気絶配信の様子が事細かに解説されているのであった。

 動画を最後まで見終わった楓は、納得した。確かにこれは普通の人なら心配するだろうと。


楓:「なるほど、盗撮だね。寝顔を盗撮されてるよって皆して教えてくれてたんだ」


彩音:「うん、違うね」


楓:「でも、心配しないで。私、そう言うの気にしないから」


彩音:「まあ、楓ちゃんは寝顔も可愛いから、って違うって!」


楓:「違うんだ。まあ取り敢えず原因は分かったよ。大したこと無くてよかった」


彩音:「うん、どういたしまして…って大したことあるよ! 世界的にバスったんだよ」


楓:「そうなんだ」


 欲求占有率のほぼ全てを睡眠欲が占有している楓には、承認欲を満たす行為自体に興味が薄い。

 そのため昨日の配信によって世界的に有名になったと言われたところで、へー以外の感想が浮かばないのであった。


「わんわん!」

「うん? ああ、そうだね」


 そうこうしていると、ダンジョンに行く準備を整えたまくらが目の前に立っていた。

 そのため、楓は話を打ち切ることにするのであった。


楓「教えてくれてありがとう。じゃあね」


彩音:「うん、どういたしまして」


 彩音としても、色々と聞きたいことが山盛りであった。しかし、いつも通りマイペースな楓の様子を確認でき、安心した結果、何一つまともに聞くことが出来なかったのだが、それに気がついたのは、楓とのやり取りを終えてから10分ほど経過した頃であった。

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