第10話 生配信に
彩音が発案したダンジョンの不人気階層で寝るという案は、探索者素人の楓では、その不人気階層まで行く事が出来ないという致命的な欠点があり、それを彩音のご厚意という荒業で解決したモノであった。
しかし、まくらという、戦えるし荷物運びもできる有能な寝具の登場で、楓のダンジョン睡眠道は、かなり開けたと言える。
「折角だし今日は彩音に紹介された新しいダンジョンに行ってみよ? なんか常夏のなんちゃらってとこ」
「くぅん? わん」
「分かった? なら道案内は任せたよ」
「わんわん!」
彩音は何だかんだ、所属ギルドでのダンジョン攻略などと忙しくしている。それでも楓との探索チャンスを増やすべく、他では全く役に立たない、睡眠におすすめのダンジョン情報を集めてくれているのだ。
そんな友情の結晶のような情報を無駄にしないためにも、今日も今日とてダンジョン睡眠に勤しむ楓とまくらなのであった。
―――――――――――――――――
探索者という職業が一般的に定着してくると、それと同時に、自分たちのダンジョン探索を撮影し動画として投稿したり、生配信としてリアルタイムで放送したりするダンジョン系配信者と言うのも一般化し出した。
「砂蟹の甲羅は基本的に硬いけど、よく観察するとっ!」
:うわ、甲羅貫通した!
:流石モガミさん!
「こんな風に甲羅と相性の悪いって言われてる武器でも貫けるんだよね」
:ほぇー、そうなんだ
:こういうの見てると俺でも出来そうって思えてくるな
:実際は無理なんだろうけど
圧倒的戦闘力を売りにする配信から初心者中級者への情報提供系の配信など、その種類も多種多様であった。
今、『常夏の砂浜』にて生配信を行っているモガミという男は、ダンジョン初心者向けの内容を中心に配信しているものであった。
「モンスターを倒すとドロップ品が落ちる場合がある。…今回は『砂の甲羅』か。ドロップ品としては外れかな」
:あー、残念
:使い道少ないし、持って帰るにしては無駄に大きくて重い
「でも持って帰りますよ。皆さんなら分かってると思いますが、ドロップ品を放置して行為は、ハイエナ行為を助長する事になってしまいますから」
:よっ、マナー講師
:ハイエナダメ、絶対
:それを言うだけじゃなくて実行するのは偉いな
ダンジョン攻略を主目的にしている探索者は、いらないドロップ品をダンジョンに喰わせるべく、そのままにして進んでいく事がある。
そういう捨てていったドロップ品を拾うハイエナ行為が横行していた。
「ハイエナ行為は、様々な問題がありますが一番は、実力的に不相応な階層に来てしまう場合が多いため危険なんですよね」
:ハイエナ野郎の事まで心配しなくても…
:本当に、モガミさんは優しいなぁ
視聴者とそんな話をしながら『常夏の砂浜』を進んでいくと、前方に奇妙な物体を発見する一同。
:うん? 何あれ?
:ドロップ品がめちゃくちゃ集結している?
「ちょ、ちょっと近づいてみましょうか」
モガミがドロップ品の山に近づいて行くと、山の中心に寝袋に普通の枕に、黒い抱き枕といったガチ睡眠の格好で眠りこける女の子の姿があった。
「あ、え、何…寝てるんですか、こんなところで!?」
:え、寝てるww
:なんだこの子!
:ガチ寝スタイル
:このドロップ品の数から見ると、激しい戦闘を終えてへとへとだからつい寝ちゃったんかな?
:つい、寝袋に枕を用意して寝ちゃったんやね笑
「と、とりあえず起こしましょ…あれ? 壁?」
モガミが寝ている女の子を起こそうとすると、見えない壁のようなモノに阻まれて女の子に触れることが出来なかった。
:あ、この子知ってるかも
:誰だよ
:確か、ネットか何かで回ってきたダンジョンの眠り姫でしょ?
:モガミさん気をつけて!!! その壁危ない!
コメント欄には女の子の正体が分かった人もいた。そんな人たちは、その壁の危険性を知っていたので、モガミに忠告する。
しかしその忠告は少し遅かった。
「もう、少し力を入れてみま――アババババ」
見えない壁から電撃のようなモノが放たれ、モガミは気絶してしまう。
:モガミさん!!
:なんだあれ!?
:何やってくれてんの!?
:いや、あれはモガミが悪いよ
:…絵面だけ見ると、寝ている女の子に触ろうとして撃退されてる男の図だからな
配信主が気絶してしまい、取り残されてしまった視聴者たちだったが、そこそこ有名な配信者が今、ネットで知る人ぞ知る眠り姫に撃退されたというおいしい話題はすぐ拡散され、この配信は物凄くバズる事となるのであった。
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