第9話 枕適正

 最初の印象はふらふらでボロボロであった、まくらだが、幼体とはいえ帝王種である。

 しかも楓のお陰でスキルの代償を無効化しているため普通の帝王種よりも遥かに良いパフォーマンスを発揮できる。

 

 楓のダンジョン睡眠活動は、まくらの加入により、ダンジョン入場から寝るまでと、起きてからダンジョン出場までという、『絶対睡眠』の効果が無い唯一楓が危険に晒される可能性がある場面の安全性が格段に向上したのであった。


「ふぁ~やっぱり森林浴は気持ちいいね。まくらもそう思うでしょ?」

「くぅん?」

「まあ、まくらは森林よりも夜の方が重要かな?」

「わん!」


 黒の樹海を知るものは、こんなところで森林浴なんてする気も起きないだろうが、そんなことはお構い無しに楽しんでしまう楓と、常に夜であるここの環境が種族的にマッチしているまくらにとっては、ここはかなり良い睡眠スポットであった。


「あ、今日もいっぱい落ちてるよ。じゃあ、魔石はぜんぶまくらが食べちゃって」

「わふぅ!? わんわん」

「その代わり他のを運ぶのは任せたよ」

「わん!」


 そして、これまでは『絶対睡眠』の迎撃システムの餌食となったモンスターたちの残骸であるドロップ品は、寝起きの楓が外まで運ばなくてはいけなかったが、まくらのお陰でその仕事も無くなった。

 まくらはまくらで、スキルのせいで味わうことの出来なかった睡眠を思う存分味わえ、その後に魔石をたらふく食べられるため、ドロップ品運びなどむしろ喜んでやってくれるのであった。


 今日のダンジョン睡眠を終え、『記録水晶』まで戻っている最中、ふと、まくらを見ると出会ってから数日しか経過していないが、その時よりも明らかに大きくなっているように楓には感じられた。


「…犬は成長が早いとは思ってたけど、まくらは日に日に大きくなってるよね。しっかり寝てるからかな?」

「くぅん? わん!」

「いや別に大きいとダメな訳じゃないから、能力使って小さくならなくて良いよ。大きい方が抱きつきやすいし」

「わんわん!」


 楓の一言に敏感に反応したまくらが、『夜』を使って自身の身体を小さく偽装するが、楓的には逆に大きい方がまくらの枕適正が上昇するので、まくらの成長は大歓迎なのであった。

 

―――――――――――――――――――


 日本探索者協会の本部のとある部署。この部署には、日々様々な雑務が舞い込んでくる。

 テイムできていないのに、色々と偽装を施し従魔登録の審査を突破してしてしまうような不正従魔登録が疑われているモノを再度審査するのもこの部署の役割であった。


「はぁ? 帝王種の従魔登録? しかもこの書類見ると『夜狼ナイトウルフ』の帝王種でしかも幼体って書いてあるけど?」

「そうみたいですね」

「そうみたいですね、じゃねぇーよ! こんなんテイム出来てる分けないじゃん! 見てみ、申請者、探索者になってから1ヶ月くらいの初心者よ?」


 一般的に、テイムはモンスター側が探索者を仲間になりたそうな目で見る所から始まる。

 そのため、モンスターがテイムする探索者に友好的な感情を持っていないと、そもそもテイムは発生しない。


「『夜王』持った幼体なんて気性が荒れてて手がつけられないことで有名なんだぞ。俺、ここで働いててテイムの成功例見たことねーもん。これの検査官誰だよ。マジで」

「相模支部の田部さんですよ。あの鬼の田部って噂の」

「えぇ 田部先輩…そうか。うわー、すごいなー、帝王種をテイムしちゃうなんて。すごい新人が表れたもんだー」

「うわー手のひらクルーは嫌われますよ」

「ばか野郎! あの田部先輩がテイムしてあるって判断してるんだぞ。仮に偽装だったとして、俺らに見分けられるか?」

「まあ、無理ですけど」

「はぁー、まあ一応、田部先輩に再度確認だけしとくか。やだなぁ」


 結局、非常に珍しい帝王種の従魔登録は、一人の職員の犠牲と共に、問題なしと言う形で受理されることとなるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る