第8話 まくら
ダンジョン『黒の夢』の第三層である黒の樹海で一眠りした楓は、目を覚ます。それと同時に、同じ寝袋で寝ていた幼狼も目を覚ます。
『絶対睡眠』によって瞬間的に眠りについたため気が付かなかったが、この幼狼はふわっふわで上質な毛並みを持っており抱き心地抜群であった。
「お前、中々良い毛並みだね。抱き枕はしない派の私だけど、こんなにふわふわもちもちな抱き枕なら鞍替えも検討しないと」
「くぅん? わん」
「ずいぶんと元気になったね。まあ、これで睡眠の大切さが分かったことでしょう」
「わんわん!」
そんな、のほほんとしたやり取りをしているが、一応、ここはダンジョン内である。
とは言えダンジョン内のモンスターたちは、『絶対睡眠』の迎撃システムにより仲間が無惨に吹き飛ばされたのを目の当たりにしており、その光景に恐れをなして逃げ出しているものが殆どなため、静かなものであった。
そんな感じで楓と幼狼が戯れていると、2人が寝ている間、少し離れた場所で探索をしてた彩音が戻ってきた。
彩音も幼狼の事は心配していたようで、元気に駆け回る様子を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「幼狼くんもすっかり元気になったね。楓ちゃんの回りを走り回ってるじゃん」
「わんわん!」
「これで夜を支配してるのは睡眠だって、この子の頭にも刻まれたことでしょう」
「それは分かんないけどね」
今日、ダンジョンに来た目的は全て終わった楓たちは、帰り支度を済ませ『記録水晶』の所まで行く。
それにちゃっかり同行する幼狼。
「うん? どうしたの、一緒に来たいのか?」
「わんわん」
「彩音、このまくら、連れて帰るのって良いと思う」
「連れて帰るのは、ちゃんとテイムして、後で協会に従魔登録すれば良い筈だけど……まくら?」
「うん、まくら。良い名前でしょ?」
「わんわん!」
「本人が気に入ってるならいいのかも?」
こうして『絶対睡眠』の、そして楓の虜となった幼狼、改め、まくらは楓の従魔になるのであった。
――――――――――――――――――
まくらは、一般的な『
そのため、楓が普通に大学に通っている間は楓の影の中で過ごすことが多い。
「わん!」
「あ、こら。まだ講義中だから静かにしてなさい」
「くぅん?」
「今、まくらくんがいきなり出てきたことで、まくらくんのオーラを不意打ちで浴びた橋本くんと笹木さんがびっくりしちゃってるから戻ってね」
稀にうっかり、影から飛び出てくる事があるまくらだが、まだまだ幼いまくらは、自身が放つ強者のオーラのようなモノを隠すのに慣れていない。
探索者であれば、感覚が大変にぶにぶな楓ですら感じ取れるオーラであるため、睡魔との格闘に夢中な者たちが不意打ちで浴びれば、どうなるかは想像が付くだろう。
「そういうのの隠し方、と言うかテイマーとして従魔の育て方とかを教えてくれる人とかいるけど、楓ちゃんは興味無いよね…」
「ないよ。ないない」
「わん!」
「そんなハッキリ言わなくても」
楓たちの大学に通う探索者たちの不意打ち地獄はもう少し続きそうである。
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