第7話 黒の夢
最初にダンジョンに入場した際に授けられる初期スキル。これは純粋な才能と言われている。
言ってしまえば楓には、睡眠の才能が、それも途轍もなく大きな才能があったのだろう。
それとは別に、探索者として活動しているとスキルを獲得する事がある。
戦闘系スキルであればモンスターとの戦闘中、生産系スキルであればアイテム作成中などであり、これこそ
「他にも、スキルを成長させたり、進化させたりも出来るんだよ!」
「へぇ~」
「興味無さそうだね」
そんな探索者雑談に興味を持つ楓ではないので、彩音の話はちょくちょく聞き流しながら、辺りを見渡していた。
今、楓たちがいるのは、高難度ダンジョンとして有名な『黒の夢』でも厄介視されている第三層、黒の樹海エリアである。
影を操り至るところから奇襲を仕掛けてくる『
「それにしても、死角から飛び出てくる蜘蛛とかによく反応できるね」
「えへへ、そうかな? これくらい普通だ、よ!」
人が寄り付かない程、厄介な場所において、楓とのお喋りに夢中になりつつ、ノールックでモンスターたちを切り伏せている彩音も、中々に非常識だなと思う楓。
そうこうしていると、2人は第三層のセーブポイントにたどり着く。『記録水晶』と呼ばれる水晶に触れると登録され、次に『黒の夢』に来たとき、この場所から探索が始められるダンジョンの便利スポットである。
「帰りもこれ使えば帰れるのは楽でいいね」
「ま、まあ『記録水晶』を使わずに歩いて帰るのも楽しいけどね」
「そう? まあいいや、私はそろそろ寝させて――」
今回の探索の目的は達成した楓は、後は寝るだけだと寝袋の用意を始めたその時、大樹の陰から一匹の幼狼がふらふらと出てくる。
探索者素人の楓でさえ、その幼狼はそこらのモンスターとは別格に感じられた。しかし発する雰囲気とは裏腹に、幼狼の身体はボロボロであり、今にも倒れてしまいそうであった。
そんな幼狼を彩音は物珍しそうに見ていた。
「『
「ていお…なにそれ?」
「モンスターの中には、稀に特別なスキルとか持った個体が現れることがあるんだ! それをイレギュラー個体って言うの。それで、その子はそんなイレギュラー個体の中でも更に特殊なスキル『夜王』を持ってるんだよ」
スキルにはランクがあるとされており、剣術系のスキルを例にすれば、『剣士』スキルや『剣豪』スキルよりも『剣聖』スキル、『剣聖』スキルよりも『剣王』スキルや『剣帝』スキルの方が強いとされている。
しかし、一番メジャーな剣術系スキルであっても、『剣王』や『剣帝』スキルを持つ者はほぼいない。それほど王や帝と名がつくスキルはレアなのである。
「じゃあこの子は凄く強いってこと?」
「うーん、強いとは思うけど…『夜王』には致命的な欠点があるの」
「欠点?」
ただ大きすぎる力には必ず欠点が存在する。『剣王』や『剣帝』スキルが、あまり強大な力を扱うため、その反動で自分の身体を傷つけてしまうように、『夜王』は夜を支配する関係上、このスキルを持った者は眠る事ができなくなるのである。
「え? この子寝れないの?」
「うん、成体になれば不眠不休でも問題ない化物に成長するんだけど、幼体の時はそれに耐えられないんだよ。それでふらふらになった所を他のモンスターに…」
『夜王』の説明を受け、信じられないような目で幼狼を見る楓には、その後の彩音の説明は届いていなかった。
何かを決意した楓は、幼狼に向かって手招きをする。
「おい、お前!」
「ガルゥ」
「こっちにこい」
「くぅん?」
「こっちに来なさい」
「わん!」
突然の行動に驚いたのは彩音である。
「え、楓ちゃん? 何してるの?」
「夜を支配してるから寝られないなんて、ちゃんちゃらおかしい事言ってるこの狼に実感してもらう」
「な、何を?」
「夜を支配してるのは『睡眠』なんだって」
謎理論に謎理論で対抗する楓には、何人も逆らわせない雰囲気を放っていた。そんな雰囲気に圧倒されたのか幼狼は、楓の手招きに素直に従い楓の用意した寝袋に入ってくる。
「じゃあ私たちは眠るから、おやすみなさい」
「え、あ、楓ちゃん。ちょっと―――」
「『絶対睡眠』発ど――スヤ~」
「スヤ~」
「あ、寝ちゃった。幼狼まで…って幼狼も? え、楓ちゃんが教えてくれた『絶対睡眠』の説明文に他の者への睡眠の記載は無かったのに? え、もしかしてスキルが成長してる?」
モンスターと一緒に寝た楓、素直に応じた幼狼、一緒に寝れば『絶対睡眠』を共有できる事、そもそも『夜王』スキルの代償を無視して眠らせた『絶対睡眠』。驚くポイントが多すぎて、暫くの間、呆然とする彩音なのであった。
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