第6話 一緒の約束
『鋼鉄洞窟』でのダンジョン睡眠を数日間やってみて分かった事は、起きて直ぐに山のように積み上がっている鋼鉄の塊を運ぶのが面倒であるという事であった。
「何か昨日は特に酷かったよ。もう少し睡眠時間が長かったらドロップ品に押し潰されそうだったもん」
「それだけスチールゴーレムたちを倒していたって事だよね。寝てる場所がもっと奥なら凄い事になりそうだね」
楓のダンジョン睡眠を見学して以降、安全性については何も言わなくなった彩音であるが、ダンジョン素人な楓の相談には乗ってあげていた。
まあ、楓の相談とはつまり、ダンジョンで快適に寝るためにはどうすれば、という彩音がこれまでの探索者生活で考えたことも無いような相談なのだが。
「あとやっぱり洞窟だからゴツゴツしてて起きた瞬間が少し痛い気がするんだよね。寝袋も痛むし」
「でもでも、もっと人が来ない『溶岩地帯』や『毒の沼地』は、寝やすさって点だと『鋼鉄洞窟』より酷いよ?」
「うーん」
楓としても、ダンジョン睡眠が珍しいことは自覚しているため、人が大量に出入りするような人気ダンジョンの入口付近で陣取って睡眠するの迷惑であるとは考えていた。
「それか不人気階層とかならどうかな?」
「不人気階層?」
入口付近で寝るのが迷惑ならば、先に進めば良いのではと考えた彩音は提案する。
「一度行った階層にワープ出来る機能が付いてるダンジョンとかがあるんだよ。だから厄介なギミックとかモンスターが出る階層を避けて探索する人たちが結構いるの!」
「ということは、取り敢えずその階層に行かなきゃならんですよね? 私、そんな体力も戦闘力もないよ?」
睡眠のための苦労は何のそのな楓であるが、寝る前に倒れる無茶はしたくない。しかし、折角楓と一緒にダンジョン探索が出来るチャンスを逃すまいと彩音も必死にアピールする。
「そこは、私も付いていくしさ! それに戦闘力は兎も角、レベルアップの恩恵で体力は上がってる筈だよ」
「ほう、れべるあっぷねぇ」
「絶対知らないでしょ、もぅ」
「まあ、うん。折角だしお願いするよ」
「え、うん! 任せてよ楓ちゃん! これでもギルドで若手のホープって言われてるんだから」
その甲斐あって、楓もその提案を承諾するのであった。
楓としても別に彩音と一緒にダンジョン探索をしたくない訳ではない。圧倒的に足を引っ張る事が確定しているため気が進まないのはあるが、そもそも、ダンジョンに行く目的が楓と彩音で違いすぎるのである。
しかし、ここまで熱心に誘ってくれて、楓の目的とも合致するので探索であれば断る理由も無いのである。
「頼りにしてる」
「えへへ、じゃあ良さそうなダンジョン探しとくね!」
こうして楓は、ダンジョン睡眠の場所を『鋼鉄洞窟』から別の場所に移すことにしたのであった。
余談であるが、とある掲示板の影響により、一時的に『鋼鉄洞窟』へ足を運ぶ探索者が増えたのだが、数日も経たず元の過疎ダンジョンに戻るのであった。
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