第13話 グリフォン戦
一回戦を終えたユニコーン寮チームの面々は赤羊荘へと帰宅した。寮対抗戦の二回戦は明日行われる。
食堂に集まり、エミリアが音頭を取る。
「皆様お疲れ様ですわ。一回戦突破を祝して宴を催したいのは山々ですが、明日の決勝戦に勝たないと最後の晩餐になってしまうため、今日は我慢して、普段通り飯食ってとっとと寝ますわよ」
本日の振り返りや、対グリフォンの作戦を確認しつつ、夕食を済ませたメンバーたちは、明日を万全に迎えるため、各々自室に戻って行った。
アンナも早く眠ろうとベッドで目を閉じるが、中々寝付けない。
今日の緊張の名残と明日の不安の板挟みにされる。
せっかく『青春』を経験できると思っていたのに、学校生活が終わってしまうかもしれない。
でも、仲間たちと一つの目的に向かって頑張る今この瞬間こそが『青春』とも言える。それはそれで幸福なことだと自分を俯瞰してみる。
色々なことが頭を巡って眠れないアンナは一度起き上がって夜風に当たることにした。
外に出ると玄関前の階段にエミリアが一人で座っていた。夜空を見上げてぼーっとしている。
「あ、」
「あら、アンナさん。貴女も眠れないのですか?」
隣に座るように促され、アンナも階段に腰を下ろす。
「エミリア先輩もなんですか?」
「そうですわね。お恥ずかしいことに、不安なのです」
いつも堂々としているエミリアが、今夜はしおらしく、か弱かった。
「去年入学してからの一年間、とても楽しかったんです。学友と学び合い、笑い合い、時に喧嘩をして。
ですから、私はまだ残りの二年間、学校に居たい」
赤羊荘を愛おしそうに見つめながら吐露する。彼女は本心からこの学校生活を謳歌していた。アンナはとても羨ましく感じた。
アンナの顔を見て、今し方まで不安そうだったエミリアの表情が、覚悟を決めたように真剣になる。
「何より、後輩の皆さんにも去年の私たちのように学校生活を楽しんで欲しい。もっと魔法を学んで欲しいのですわ」
エミリアはいつものように堂々とした姿勢で立ち上がった。
「明日は絶対に勝ちますわよ!」
自分も不安なのに、後輩のために奮起するその姿に、アンナは彼女が先輩でよかったと思った。
「はい! 絶対に勝ちます!」
アンナも立ち上がり、不安を吹き飛ばすように意思表明した。この先輩とならきっといい学校生活が送れるし、ここで彼女の青春を終わらせたくないと強く思えた。だから、なんとしても決勝戦で勝ちたい。
◇
寮対抗戦二日目、決勝戦当日。
講堂に集まった選手と観戦者たちに、突然ナイル校長からルール変更が発表された。
「昨日の試合内容を鑑みて、チーム戦のルールを一部変更することになった」
生徒たちが騒めくのを校長は手で押さえるようなジェスチャーで鎮める。
「物議を醸したユニコーンチームの隠蔽魔法、毒魔法、幻覚魔法、魅了魔法だが、正々堂々とした決闘には相応しくないとして、決勝戦では使用禁止とする」
校長はユニコーンに勝たせないために強行手段に出た。
「はぁっ!? ふっざけんじゃねぇですわ??!! こちとらテメェの土俵でやってやってんですのよ!? 情けなくないんですの!?」
エミリアが身を乗り出してキレ散らかす。シオンが羽交締めしてなんとか制止した。
これでは戦術もクソもない純粋な戦闘能力での戦いになってしまい、人数が少なく使える魔法に偏りのあるユニコーンが不利だ。アリスに関しては得意な魔法三種類が使えなくなる。
「どうしようアリスちゃん」
「ご安心ください。想定済みです」
「え、こわ」
つい、口に出してしまい、アンナは咄嗟に口を押さえる。が、そもそもアリスは読心魔法が使えるため、思っていること全部筒抜けだった。勝手に人の心を読まないとは言っていたが、試合中や非常時は読心魔法のアンテナを広げているだろう。今こうして近くにグリフォン寮の生徒がいるのだから、読心で相手の作戦を盗み見ているはずだ。
アリスが暴れるエミリアの肩に手を置き精神に作用する医療魔法の応用で無理矢理鎮静させる。
「エミリア先輩、落ち着いてください。別の戦術を用意してあります。一度明かした戦法は対策される可能性もありましたから」
「……申し訳ございません。取り乱しましたわ。ですが!」
ずびし!と、校長を指差す。
「それでも私たちが勝って退学を撤回させますわ!」
エミリアの覇気に校長は得体の知れない恐怖を感じ、たじろぐ。大した魔法能力を持たないと侮っていた
恐れ慄いた校長は逃げ出すように講堂から出て行った。
やれやれと、寮対抗戦の司会を務めるアルゲース先生が登壇する。
「それでは、両チーム、壇上に上がりたまえ」
ステージの上でユニコーンチームとグリフォンチームが対面し、大将のエミリアとユリアは握手をする。
「宣言通り、決勝に来ましたわ」
「退学の懸かっている君たちには悪いが、とても楽しみだったんだ」
二人の間に軋轢はないが、バチバチと不敵な笑みで睨み合う。
一方、ルーナとユノは険悪な雰囲気だ。
「ルーナちゃんがユニコーンで生き恥晒すのは可哀想だから、退学にさせてあげるね」
ユノの挑発には乗らずに、ルーナは無言で彼女をじっと眺めている。
大将同士の握手が終わり、フィールドへの転移が始まる。
光に包まれ、次の瞬間にはユニコーンチームの面々は平坦な荒野のど真ん中にいた。転移後すぐに「試合開始!」とフィールド中にアナウンスが響き渡る。
「椿姫ちゃん、お願いします」
「了解しました」
早速、アリスの指示で椿姫が千里眼を用いた地形と敵の位置の探知を行う。
「このフィールドは平らな荒野のようです。北方に大きな城塞都市がある以外は何もありません。グリフォンはその城塞都市にいます」
「それってズルくない? どう見てもあっちの方が有利じゃん」
気に入らなそうにキリエが物申す。これも校長の工作なのだろう。
「───!? 北方より急速に接近する魔力を探知!」
遠方に聳える城塞都市、その城壁より光の放物線がユニコーンチームに向けて放たれた。
凄まじい速度と的確な精度、そして内包する大量の魔力。魔法の種別でいえばシンプルな光属性の魔力弾だが、その威力はアンナの前世の世界でいうところのミサイルに匹敵するだろう。
「召喚───伊吹大明神」
アンナの影からぬるりと彼岸花模様の着物の少女が姿を現す。伊吹大明神、通称イヴだ。彼女はずっとアンナの傍でスタンばっているため、厳密には召喚ではないが、精神を戦闘用に切り替えるための掛け声として『召喚』と口にしている。
「イヴ、みんなを守って!」
「あいあいさー!」
古剣と八首の蛇を象った魔法陣が足下に投影される。紫色の魔力を帯びた禍々しい防御魔法がドーム状に展開し、ユニコーンチームを包み込んだ。
「
間も無く巨大な光魔力弾が着弾し、周囲は爆発に飲み込まれた。
砂塵が舞う荒野には大きなクレーターが出来上がっているが、その中心にいるユニコーンチーム全員は無傷だ。
『草那藝之楯』。草薙剣の頑丈な特性を防御に用いる魔法だ。
光魔法攻撃は一度だけではなく、続け様に放たれる。やがて雨のような光の爆撃が降り注ぎ始めるが、全て草那藝之楯が阻み続ける。
「それでは皆さん、新ルールと地形に合わせて作戦を調整したのでお話します」
この短時間でアリスは圧倒的に不利な地形での作戦を考えついたようだ。それも変更されたルールに則った上で。
しばらくしてイヴの防御魔法の中でミーティングを終えると、すぅっと少し息を吸い、一層真剣な表情を作り、アリスが言い放った。
「トロイア作戦、開始します!」
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