第8話 決闘部
授業開始初日の放課後。
アンナとアリスは部活動見学のため校内を散策していた。
魔法学校には特有の部活動が多くある。例えば箒レース部だとか魔法決闘部だ。魔法のある世界ならではの部活で、アンナはどれに入るか悩んでいた。
というのも、どれも面白そうな部活動ではあるが、不得意な魔法が多いアンナにはできない活動内容だったり、知っている人が一緒の部活じゃないと不安という理由があった。
なのでアリスと同じ部活を見て回っている。
しばらく見て回っていると体育館で魔法決闘部が見学をやっているのが目に入った。
「む、アンナ・フルルドリスか。貴様、魔法決闘部に入りたいのか?」
魔法決闘部の顧問をしているアルゲース先生が声をかけてくる。
決闘ならアンナにもできるが、アリスは不得意そうだし、悩みどころだ。
「しかし残念だ。決闘部は寮ごとにチームが分かれているため、私が顧問をしているグリフォン寮のチームにはおまえは入れてやれんのだ。まったく、ユニコーン寮には勿体無い逸材だというのに惜しい」
アルゲース先生は入学試験と決闘の授業で見せたアンナの実力を評価してくれているようだ。心底悔しいようで、ユニコーン寮チームが練習しているという旧体育館の場所を渋々教えてくれた。
旧体育館は古い木造の建物だった。中から悲鳴のような甲高いお嬢様口調の女子の声が漏れ聞こえてくる。
そっと扉を開けると、中には目を回して床に倒れているユニコーン寮寮長のエミリア・コンセンテスがいた。どうやら決闘の模擬戦をして負けたようだ。
エミリアのすぐそばには寮監のヨシュア先生も立っている。彼は額を抑えて頭を痛そうにしていた。すぐにアンナとアリスに気がつき、駆け寄ってきた。
「ようこそ、魔法決闘部ユニコーン寮チームへ!」
入るとは一言も言っていないのに、まるで入部が決定したかのように歓迎される。倒れていたエミリアもそそくさと立ち上がると「入部おめでとうございますわ!」と声を上げた。
「あの、見学に来ただけで」
「わかっています。なにも言わないで。アンナさんが強いことは既に噂になっています。勿論、我が部に入りたいのでしょう?」
アンナは彼をまともな人だと思っていたのに話を聞いてくれない。
「いやぁ、よかった。これで、今年こそ念願の『寮対抗戦』優勝を目指せますね」
「寮対抗戦?」
「はい。毎年、十月に行われる一大イベントです。四つの寮がトーナメント形式でチーム戦を行い、最強の寮を決めます。ユニコーン寮はマリア先生が学生だった頃以来優勝できていません」
それもそのはず、魔法能力の低い生徒が配属される寮なのだから決闘も弱いだろう。しかしあのマリアがユニコーン寮出身だとは驚きだ。バグが何かなのだろうか。
「そして、決闘部に入る生徒も少なく、今ではたった二人です」
その二人の生徒が前に出て新入生獲得のため自己紹介を開始する。
「ユニコーン寮寮長にして、魔法決闘部ユニコーン寮チーム部長、エミリア・コンセンテスですわ!」
えっへんと胸を張って堂々と名乗る。先程まで模擬戦で負けて目を回していたのに、その自信がどこから来るのか分からない。
もう一人の生徒は銀髪の女子で、エミリアの斜め後ろに立っていた。
「エミリアお嬢様のメイドをしております、二年のシオン・パラディウムと申します。阿保なお嬢様がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」
まるで機械のようなクールな口調で、その内心が読めない。
「ちょっとアホとはどういうことですの?」
「阿保の意味がわからない、ということでしょうか? それを阿保というのですよお嬢様」
かなりの毒舌で、主人のエミリアに向かって躊躇いなく毒を飛ばしている。
「あはは、こんな有様です」
ヨシュア先生が苦笑いした。新入生獲得に躍起になるのも頷ける崩壊加減だ。これでは寮対抗戦に参加することすらできないだろう。
チームが強いとか弱いとか関係なく、アンナは決闘部に興味があったが、連れのアリスがどう思っているかで入部を決めることにしていた。彼女の方を見ると、顎に手を当てて何か考え込んでいるようだった。
「無理に勧誘してしまい、申し訳ありません。すぐに決める必要はないですから、見学だけでもしていってください」
ヨシュア先生にそう言われ、再開した模擬戦を観戦していくことにする。
「へごぉ」
シオンが様子見のジャブとして放った魔力弾がエミリアの顔面に直撃、お嬢様のものとは思えない呻き声を垂れ流し、模擬戦は即終了となった。
───ガラガラ。
その時、旧体育館の入り口の扉が無作法に叩きつけるように開けられた。
「ここにいたか、ヨシュア先生。寮長もいるな、ちょうどいい」
旧体育館に入ってきたのは校長のナイル・ファラオだった。恰幅が良く、ジャラジャラとアクセサリーを身につけている。
「突然だがね、ユニコーン寮生を全員退学にすることにした」
明日の給食の献立を変更します程度のニュアンスで校長が告げた。その場にいた校長以外の者はすぐに理解できずに呆然とする。ヨシュア先生がナイルに抗議した。
「ちょっと待ってください! まるで意味がわかりません!」
「ん? だからね、ユニコーン寮生は全員退学なのだよ。ここは魔法学校だ、魔法能力の優れない生徒がいることがおかしいと気がついたんだ。何をしても無駄な無能に割く時間、労力、金を他の優秀な人材に投資する方がいいだろう」
校長にとってはユニコーン寮生の退学は明日の献立を変えるようなものだった。むしろそれよりも軽いかもしれない。
「ユニコーン寮生には明日にもサンミシェル魔法学校の敷地から出ていくように伝えておきたまえよ。それではご機嫌よう」
退学を勝手に決めて立ち去ろうとする校長の前にアリスが立ち塞がった。
「退学を次の寮対抗戦まで待っていただけませんか?」
「何を言っている。この学校では私がルールだ。私が決めたことはそうなるのだ。おまえのような売女の娘が王族の血を引くこの私に意見するな。殺すぞ」
「魔法能力が優れていれば退学する必要はありませんよね? 寮対抗戦でユニコーン寮生が優れた魔法能力を持っていることを証明します」
校長は気に入らなさそうに無表情になると、なんの躊躇いもなくアリスに向かって、全身を包むほどの魔力砲を浴びせた。
しかし、アリスは無傷で立っている。アンナの式神が展開した透明の光の壁が彼女を守っていた。
「なん……だと?」
ナイルは自分の魔法をユニコーン寮の一年生に防がれて驚愕する。
アンナはユニコーン寮生を馬鹿にされたり、友達を攻撃されたりで内心ブチギレているが、退学の件が理解不能すぎて、どうしていいのかわからず、あわあわしていた。
「ユニコーン寮生を退学にするか、お考え直していただきたいのです。このように、魔法能力に秀でた生徒もいます」
穏やかな笑顔のままアリスが提案した。
校長が後退りする。魔法至上主義にして血統主義の頭の硬い男だが、自身の命の危険に対しては特別に敏感であった。彼は瞬時に理解した。これは提案ではなく脅迫であることを。
アリスが流血を避ける平和主義者だから校長は生かされているだけで、その気になれば、
アリスはこの学校のルールが校長だというから、こうして校長と会話して物事を決めようとしている。
あくまでルールに沿って動く。悪人を倒すのに悪行は用いない。自分の戦力が相手を上回っていても直接的な力の行使はしない。相手の土俵で相手を倒す。それが彼女のやり方だった。
何より、アリスはユニコーン寮生が侮られたままなのが気に入らなかったため、その実力を証明する機会を欲していた。
「わ、わかった。寮対抗戦で
まだ威厳を保ちたいようで、ナイルは強めの語気で返答する。アリスは頷くと道具召喚で一枚の紙を取り出した。
「魔法契約書にサインしてください。約束を反故にされたら困りますから」
魔法契約書に記された契約は必ず守らなければならない。契約を破ると呪われたり、最悪死に至る。
ぐぬぬと渋々サインをするとナイル校長は立ち去っていった。
その後、アリスがくるりと先生と先輩たちの方を向いて言った。
「ということで、魔法決闘部に入部します」
アリスがアンナに笑顔で何かを訴えてくる。すぐに察してアンナはボソボソと宣言した。
「わ、わたしも入ります」
斯して、心の整理もつかないまま、アンナは魔法決闘部に入ることになった。
その日の夜、ユニコーン寮生は赤羊荘の食堂に集められた。退学の危機に瀕していることを伝えるためだ。ヨシュアが重い口をゆっくりと開いた。
「突然ですが、このままですと皆さんは退学になります。今日、校長がユニコーン寮生の退学を決定したそうです」
それを聞いてざわざわと生徒たちが困惑し始める。突然退学になりそうだと言われたのだから仕方ない。
「ですが、まだ完全に決まったわけではありません。アリスさんが校長と交渉し、ユニコーン寮が次の寮対抗戦で優勝できれば、退学は撤回すると約束しました。そこで、決闘部に入って一緒に戦ってくれる人を募集します。新入生以外の方ももちろん歓迎です。入部希望の方はこの後食堂に残ってください」
ヨシュアが決闘部員を募る。果たして、これで何人集まるだろうか。チーム戦は十二人まで参加できるという。もちろん、他寮は十二人で参戦するだろう。
食堂は昨日の新入生歓迎会に続いてお通夜ムードとなった。寮対抗戦で優勝するなんてのはユニコーン寮生からしたら非現実的なことだ。そもそも一年生は今部活決めで悩んでいる最中だし、先輩たちは既に部活に入っている。
自分の言葉に手応えがないことを悟り、ヨシュアが苦い顔をする。こんな時、マリアがいてくれたらよかったのだが、今朝から任務で学校にはいない。校長はマリアが居ないうちにユニコーン寮生を退学させたかったのだろう。
退学の件が伝えられた後、解散となり生徒たちは各自部屋に戻っていった。食堂に残った入部希望の生徒はたった二人だった。アンナはその二人のことを知っていた。
「キリエ・クレシア、魔法決闘部入部希望です!」
一人目はキリエ・クレシア。暗い雰囲気も気にせず元気で明るい、炎のような女子だ。
「……わ、わたしも入部希望です」
二人目は日ノ宮椿姫。ルーナにいじめられていたヤマト帝国出身の女子だ。
「二人ともありがとう!」
既に知り合いだからか、アンナは抵抗なく二人に感謝を伝えられた。せっかく念願の魔法学校に入学できたのに、即退学なんて絶対に嫌だった。
「わたしもアンナさんみたいに強くなりたくて、元々魔法決闘部に入ろうと思っていたんです。……でも、弱いので役には立たないかもしれません」
自信無さげな椿姫の気持ちがアンナにはよくわかった。
「そんなことないよ。日ノ宮さんにもユニコーン寮に選ばれた理由があるはずだから、それがきっとわたしたちの力になる。だから、入部を決めてくれてありがとう」
柄にもなく、他人を励まそうと声をかける。アンナは自分と似て、自信がなくて人見知りな椿姫が心配だった。
「は、はい! がんばります!」
少し自信が持てたようだ。まさか自分が誰かを鼓舞できるとは思ってもいなくて、アンナの自信にもなった。
「お二人とも、ありがとうございます。これで部員は六人になりましたね」
ヨシュア先生が安堵しつつも苦い顔をする。部員は増えたものの、まだ六人。エリート十二人を相手にするには厳しい。
すると顎に手を当てて考え事をしていたアリスが手を挙げて発言した。
「私に一人、新入部員のアテがあります」
笑顔によく似た悪い顔をした。
◇
次の日、アンナはアリスと共にそのアテがいるという場所に向かった。
そこはグリフォン寮だった。
グリフォン寮舎はサンミシェル城の外郭に聳える豪華絢爛な造りのホテルじみた白い壁の建物だった。入口を入ってすぐの談話室では生徒たちが高級そうな椅子やテーブルで優雅にお茶会を楽しんでいた。
「ユニコーン寮の方がなんの御用ですか?」
アンナとアリスに気がついたグリフォン寮生の女子が、見下しと嫌悪感を含んだ笑顔で尋ねてきた。
「ルーナ・セレスティアルさんにお会いしたいのですが、お部屋の場所をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
謙って控えめな態度の笑顔の仮面でアリスが聞く。するとその場にいたグリフォン寮生たちがクスクスと笑い始めた。
「ルーナさんなら二階のトイレにいらっしゃいますよ。昨日、部屋を追い出されたので、トイレで寝泊まりしているようです」
アリスが礼をして足早に二階へと向かって行くので、アンナはそれについていく。
グリフォン寮舎のトイレは清潔な白いタイル張りだった。台所と言われたら信じてしまうかもしれない。
その清潔なトイレの一番端の個室の床は水浸しだった。
女子生徒数人がその個室の前に立っており、笑い声を上げながら順番にバケツの水を個室の中へと注いでいた。見覚えがあると思えば、ルーナの取り巻きをしていた女子たちだ。
「ユニコーンに負けるような恥晒しにはトイレがお似合いよ」
「これでお漏らしも綺麗になったわね」
「ちゃんとトイレでしないとダメだって教わらなかったのかしら。セレスティアル家も落ちたものね」
女子たちの罵声を聞いてアンナは状況を理解した。昨日、アンナとの決闘で負けたルーナは部屋を追い出されて、いじめの対象になってしまったようだ。
自分のせいだと、アンナは罪悪感に苛まれた。それでも、あの選択以外はなかったから後悔はしていない。
アンナとアリスに気がついた女子生徒たちはそそくさと早歩きでトイレから出ていった。アンナのことを怖がっているようだ。
アリスはびちゃびちゃの床も気にせずに奥の個室の前に立つと扉を開けた。
中には濡れた桃色の髪を垂らして項垂れながら便座に座っているルーナ・セレスティアルの姿があった。
「なに、笑いに来たの?」
薄ら笑いを浮かべながらルーナが口を開いた。気の強い彼女らしからぬ覇気のない声だった。その姿を見て、アンナは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「きっも、責任感じてんの? ムカつくんだけど」
口の悪さは健在だが、怒りというより呆れているようだ。
「アンナちゃんが責任を感じる必要はありません。全てルーナさんの自業自得です」
アリスがアンナの悩みを正論でバッサリと切り落とす。
「ねぇ、女狐。これも狙い通りなのかな?」
「いいえ。私はルーナさんの謝罪を受け入れました。ですが、こうなることは想像に難くなかった。だから勧誘に来たのです。ユニコーン寮に転寮しませんか?」
どうやらアリスの言っていたアテとはルーナのことだったようだ。確かに彼女がユニコーン寮生になり、魔法決闘部に入れば大きなの戦力になるだろう。
「は? ユニコーン寮生は退学になるんでしょ? それ、意味ないじゃん」
ユニコーン寮生の退学は他寮にも伝わっているようで、憐れむようにルーナが鼻で笑った。
「寮対抗戦で優勝すれば退学を取り消すと校長と約束しました」
「そんなの無理に───」
アンナを見たルーナは黙った。神霊の憑依魔法を目の当たりにしたルーナはユニコーン寮が絶対に負けるとは言い切れなかった。
「勝つにはルーナさんの協力が必要なんです。どうか、この泥舟に乗っていただけませんか? このままではルーナさんも私たちも退学ですし、呉越同舟というのはいかがでしょう」
アリスの熱心な勧誘を受けたルーナは考え込むように天井を見上げた。グリフォン寮と名家のプライドとの葛藤があるのか、もしくはユニコーン寮への嫌悪か。
「もう何もかもどうでもいいんだよね。昨日晒した無様のせいで、寮にも家にもルーナの居場所は無くなっちゃったから、退学になってもならなくてもおんなじだし」
虚な目で吐露する。アンナにとってルーナは理不尽で口が悪く横暴な魔法至上主義者だ。それでも十分に報いを受けたのだから、ひとりぼっちで行き場をなくした彼女の助けになりたかった。
突然アンナは這い蹲ると水浸しの床に額を当てた。土下座だ。それも最高位の土下座───便所土下座だ。
「ルーナさん! どうか、ユニコーン寮に入ってください!」
「はぁ!?」
突拍子もないアンナの行動に意味がわからずルーナは驚く。アリスも珍しく不意を突かれてびっくりしていた。
「ちょ、おまえ何してんの、汚いよ」
あまりに奇怪な行動にドン引きしたルーナは冷静になり、逆にアンナの心配をする。
「退学になりたくないっていうのもあります。だけど、それよりもルーナさんが心配なんです。ルーナさんこのままだと絶対に良くないことになっちゃう。だからユニコーン寮に入って欲しいんです! この通りです、これでもダメなら脱ぎます!」
前世でいじめられたことがあり、不登校で家に引きこもっていたアンナには、居場所のなくなったルーナの気持ちがわかる気がした。だから彼女を一人にしたくなかった。
一方ルーナは昨日決闘した相手である自分に対して土下座までするアンナのことが不可解で、迷惑で、少し嬉しかった。
これまでルーナは自分が特別な存在だと思って生きてきた。名家セレスティアル家の令嬢として敬われるのは当然で、他人よりも秀でた能力を持っていることも当然だった。
しかしそれはすべて思い込みだった。
アンナとの決闘に負けたことで、家からは勘当され、学校ではいじめられた。彼女の周りの人間は『ルーナ』本人ではなく『セレスティアル家の令嬢』という偶像を見ていたに過ぎなかった。もう特別でなくなったルーナはみんなからは用済みだった。
だがアンナは違った。彼女はルーナにも平等に顔面パンチしてくるし、もう特別でなくなったルーナを必要として、便所土下座までしてくる。ルーナ本人に対してここまで本気で接してくれる人間は初めてだった。
アンナのせいでルーナの特別な偽物の世界は破壊され、最低の本物の世界が始まった。
びしょ濡れで、持っていたもの全部失くした無一文の最底辺。もう何もかもどうでもいい。どうでもいいのに、熱が灯っていた。
「……ああ、もう。わかったよ。ユニコーン寮に入ってあげるから、それやめなよ」
呆れたように、ため息混じりで言った。
聞いて、アンナは嬉しそうにびしょびしょの顔を上げた。恥ずかしさと抑えきれない喜びを含んだ顔でお礼を言った。
「ありがとう、ルーナさん」
「ふん、勘違いしないでよね。もう何もかもどうでもいいから、ユニコーン寮でもいいの。それと寮対抗戦でグリフォン寮の奴らをぶっ飛ばすためにおまえたちを利用するだけだから」
などとわかりやすくツンデレっぽい言い訳を並べ、そっぽ向いて照れ隠しするルーナ。プライドや見栄とは真逆の、反骨と怒りをグリフォン寮生に対して抱いているのは本当だ。
ルーナの膝にアンナは縋りついて「よかった〜」と安堵する。
「ちょっとおまえ、汚いでしょ!?」
「ルーナさんも汚いですよ」
びしょ濡れの二人のことをゴミを見るように冷たい眼差しで見ていたアリスが呟いた。
「ユニコーン寮に帰ってお風呂で綺麗にしましょうか」
「お風呂、広いんでしょうね? あと、部屋も大きいとこがいいから」
わがままを言いながらびしょびしょのまま廊下へと歩いていくルーナ。腹いせにグリフォン寮の廊下をびちゃびちゃにしてから出ていくつもりだ。
「あ、アリスちゃん、勝手にルーナさん勧誘しちゃったけど、大丈夫だったかな」
アリスは元からルーナを勧誘するつもりだったようだが、アンナが独断で口説いてしまった。アリスには何か作戦があったようだが、それを台無しにしていないか心配だった。
「むしろお手柄ですよアンナちゃん。ありがとうございます。おかげで非人道的な手段を使わずにルーナさんを仲間にできました」
「ちょっと聞き捨てならないわね。あなた、ルーナに何するつもりだったのよ?」
「何もしませんよ。もう
そう言ってアリスは魅了の魔眼を光らせた。
「へ?」
ルーナの頬が赤くなる。アリスを直視できないようで目がキョロキョロ泳ぎ、動悸で呼吸が荒くなっていた。
アリスは昨日の決闘の終わりに予め魅了魔法を付与していた。
「……ちょ、ちょっと、解呪しなさいよ毒婦!」
しおらしくなっており、全然解除して欲しそうに聞こえないが、アリスは勿体振らずにすぐに魅了を解いてしまった。
「は、はれ? 何よ、聞き分けがいいじゃない」
「もう私たちは仲間ですから」
時折垣間見せるアリスの純粋な優しい一面。飴と鞭しかり、ルーナは魅了抜きでアリスに絆されていた。
その様子を見て、三度アンナはドン引きしていた。
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