何度も死ぬ男
岸亜里沙
何度も死ぬ男
「今度こそ死ねるかな」
男はそう言って、陸橋の上から飛び降りた。
しかし意識が戻ると、男は病院のベッドの上で目を覚ます。
「また死ねなかった」
何度も死んでは、その都度生き返る。
気がつくと必ず病院のベッドの上に居る。
「どうやったら死ねるんだ?」
男は何度も何度も死のうと試みた。
首も吊ったし、手首も切った。駅のホームから電車にも飛び込んだ。
だけど死なない。死ねない。
「今度は毒を飲もう」
男は大量のシアン化合物を服毒し、目を閉じる。
だがまた同じベッドの上で目を覚ます。
男は近くに居た看護士に聞く。
「僕はどうして死ねないんだ?」
「忘れてしまったんですか?」
看護士の女性は、無表情だった。
「忘れるって?」
「ここはあなたの夢の中です」
「夢?」
「あなたは数年前のバイク事故で大怪我をし、今もずっと意識が戻らないままなんですよ」
その瞬間、男の脳裏に事故の光景が、フラッシュバックする。
男が一人でツーリング中、大型のバスと接触しそうになり、慌ててバイクのハンドルを切った。しかし男は、そのままバランスを崩し、中央分離帯のコンクリートに身体を強く打ちつけてしまう。
「僕は、てっきりあの時自分は死んだと思ってた。じゃあ、今僕はずっと夢の世界をさ迷っているのか?」
病院の天井を見ながら男は言う。
「ええ。だから早く目を覚ましましょう。ご両親が待っていますよ」
そう言うと看護士は、軽く微笑んだ。
何度も死ぬ男 岸亜里沙 @kishiarisa
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