並行世界〜俺が体験した不思議な出来事

新田光

不思議な世界


 アラームが鳴る。


 それと同時に俺は現実へと意識を戻され、しょぼしょぼしている眼を擦りながら、起床した。


 少し憂鬱な気分だったが、今日は日曜日だから、まだ少しだけ晴れやかな気分だ。


 何もやる事がないので、一日家にいようと思ったが、それも退屈でしょうがない。


 俺は外に遊びに行くことにし、親に伝えて家を出た。


 だが、そこで違和感に気づく。


 自宅の前の一軒家。そこが『売地』になっていたのだ。


 昨日まではあった。それは確かだ。


 工事などしていなかったし、第一、家が一日でなくなるはずなどない。


 この違和感に背筋が凍るような感覚になったが、同時に違和感を確かめなければいけないような気がした。


 俺は知っている道をなぞり、何があって、何がないのかを確かめていった。


 俺が知っている店や家も存在したが、ないものの方が圧倒的に多かった。


 謎の現象に俺は呆然としていると……


「おー、翔じゃん! 今から迎えにいくところだったんだよ」


 聞き覚えのある声が聞こえ、俺は無意識に拒否反応を示していた。


 回れ右をして家に引き返す。だが、声の主──塚地慎也に肩を組まれてしまう。


「そんなつれないことすんなよー、俺達マブダチじゃん?」


 言われている内容がわからなかった。


 塚地とは友達ではないからだ。それどころか、俺が一番苦手としている人種だ。


 なのにこの男はひとつの迷いもない声で宣言している。


 これも違和感のひとつだ。


 ここまでくると偶然では片付けられない。


 ここで俺の頭にある考えが浮ぶ。


 パラレルワールドという考えだ。


 自分が住んでいる世界とは少し違う世界線が展開されている、ファンタジーによく出てくるあの世界。


 それなら今の状況も説明できる。しかし、


────そんな馬鹿げたことあるわけないだろ……


 非科学的な現象を素直に受け入れられるほど、俺は楽観的な性格ではない。


 理解が追いつかず、上手く思考が回らない俺を慎也を含む男達四人は無理やりどこかに連れて行こうとする。


 それが怖くて……俺は無意識に彼らから手を跳ね除けていた。


「どうしたんだよ」


 俺が相当血相を変えていたらしい。本気で心配された。


 俺は素直に謝り、乗り気ではないが、彼らと一緒に行動する事にする。


 苦手な人種だが、彼らの悪い噂は聞いた事がないので、危険な目に遭う事はないと踏んだからだ。


 それからは違和感を覚えつつも、サッカーをしたり、ボウリングをしたり、カラオケにも行った。


 その間に上手く馴染もうと話そうとしたりしたが、本来の世界での関係性を思い出すと、なかなか上手く馴染めなかった。


 俺だけ疎外感を覚えていて、楽しい時間を過ごせていなかったのだが、慎也が俺に話しかけてくれた。


 「そうだね」など、軽い相槌で彼の話を上手く対応していく。


 そんな中で、俺が入れた選曲を見て慎也は、

「そのアニメ好きなんだ。俺もなんだよね」と話しかけてくれた。


 俺は一瞬驚いた。


 彼はアニメとかに興味がないと思ったから。


 そこからはアニメの話で盛り上がり、少しだけ馴染む事ができた。


 だいぶ楽しくなってきたが、お開きの時間となり、彼らと別れて家路に着く。


 今まで体験したことのなかった経験だったからか、少しだけ不思議な感覚を覚えた。


 両親といつも通りの時間を過ごし、俺は部屋に戻ってからベットに入った。



 次の日。


 アラームが鳴る。


  それと同時に俺は現実へと意識を戻され、しょぼしょぼしている眼を擦りながら、起床した。


 今日からまた一週間が始まる。憂鬱な気分に苛まれながら、俺は嫌々家を出た。


 視界にいつもの世界が広がる。


 それを確認でき、俺は元の世界に戻ってきたのだと認識した。


────なんだったんだあれは……


 昨日起こった現象にモヤモヤしながらも、俺は登校し、いつも通りの学校生活を……いや、少しだけ違う学校生活を送ってみる事にした。


 塚地慎也。共通のアニメが好きという事がわかった。


 その話がしたくて俺は勇気を振り絞って話しかけた。


 「マジで! ちょっとそっちで話そうぜ!」


 意外にも乗り気で、あんなにあった心の溝は一瞬にして縮まった。


 あの出来事がどうして起きたのか、何を意味していたのかはわからない。


 だが、あの出来事がきっかけで、俺は彼と仲良くなれたのだ。


 そう、これから生涯の親友と呼べるようになる大切な存在と。

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